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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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二日目の行軍開始

「おはようございます!」

 集合場所へはレイが一番先に到着したようで、すぐにやって来たオリヴァーとクリストフに、笑顔で挨拶した。

「ああ、おはよう」

「おはよう。元気だなあ」

 二人は朝から元気なレイに揃って苦笑いしている。

「おはようございます」

 続いてやって来たのはアイズナーで、彼の後頭部右側には明らかに髪が横向きに跳ねている寝癖のあとが見えて、レイは慌てて自分の頭を確認するように撫で付けたのだった。

「おはようアイズナー、ねえ、ここ。寝癖が残ってるよ」

 ラプトルを少し寄せて、小さな声で自分の後頭部右側を指差しながら教えてやる。

「うああ、まだ残ってますか? ええと……ああもう! この髪〜!」

 ガシガシと指を立てて何とか寝癖を戻そうと頭を掻いている彼を見て、レイもその気持ちはとてもよく分かるので、苦笑いしながらうんうんと頷いていたのだった。

 寝ぼけ眼のマティウスとフェルダーが揃ってやって来たのは、それからしばらくしてからの事だった。



 その日も特に集まっての訓示や指示も無く、またマティウス達と一緒に黙々と進んで行く。

「えっと、今一緒に移動している部隊で全部なの?」

 昼食はまた昨日と同じ味気ない携帯食で、水筒を片手に黙々と齧っていたレイは隣にいてくれるラスティに小さな声でそう尋ねた。

 出発している時から思っていたのだが、どう考えても全体の人数がかなり少ないように思えたのだ。

「ああ、もちろんこれで全部ではありませんよ。既に先行して本陣の準備に入っている部隊がいますし、別で移動している部隊もいますし、この後にも我々が後半一緒になる部隊も追ってやって来ていますからね」

 一斉に同じ場所に集まり、一斉に訓練を開始するのだと思っていたレイが驚いてラスティを見る。

「へえ、そうなんですね。僕、同じ場所に全員集合して、さあ始めます! って感じになるんだと思ってたや」

 そう言ってから、一つ目の携帯食の残りを口に入れて、もぐもぐと咀嚼してから水筒の水を飲む。

 手早く包みを剥がして二つ目の携帯食を食べ始めたレイを見て、ラスティも二個目の携帯食の包みを剥がした。

「実際の戦いを考えてください。基本的に我が軍の側から戦闘行為を開始する事はありません。これは現陛下が近隣諸国への不可侵を表明していらっしゃいますから当然です。まずここはお分かりになりますね」

 突然始まったラスティの説明に、レイは慌てて口の中のものを飲み込んで水を飲んでラスティに向き直った。

「ああ、どうぞ先に食べてください。ではこの話は午後からの行軍の際に鞍上で説明して差し上げましょう。少々長くなりますのでね」

 笑ったラスティも、自分の携帯食を見せながらそう言ってくれたので、レイも笑顔で頷いて食べかけていた二個目の携帯食を齧り始めた。



「はあ、これ食ってるだけで気が滅入るよ」

「だよなあ。せめて柔らかいパンと焼いたベーコンぐらい出せって言いたくなるぜ」

 その時、少し離れたところで同じようにラプトルに寄りかかって携帯食を齧っているマティウスとフェルダーの二人の声が聞こえて、レイは思わずそっちを振り返った。

 しかし、二人はレイの視線には気付かずに、携帯食への悪態をつき続けていた。

「確かに文句を言いたくなる気持ちは分かるけど、行軍中に火を焚くわけにはいかないものね」

 苦笑いしたレイの言葉に、同じく声が聞こえていたラスティも苦笑いしつつ頷いてくれたのだった。

「えっと、ちょっと思ったんだけど、第四部隊の火を扱える人が料理をする部署にいれば、煮炊きはもっと楽になるのではなくて?」

 二個目の携帯食を食べ終えて、しっかりと水を飲んだレイが、水筒を振りながらそんな事を言う。

「ああ、それは精霊魔法をお使いになる方は、皆様仰いますね。ですが、基本的に兵士の食事を作る際には必ず火種から火を起こして炭や薪などを使って、いわば人力で火をつけますね。これは、一つには火の精霊魔法を使える兵士のほとんどは実動部隊に配置される為です。つまり貴重な戦力として数えられますので、後方部隊に配置される事はまず無いのですよ」

「ああ、そっか。火の精霊魔法は確かに強力な武器になるからね」

 納得したように頷く。

 風の攻撃魔法であるカマイタチや、水の攻撃魔法であるカッターと並び、火の攻撃魔法であるファイアーアローは、先の二種類に比べて自在に扱える兵士は少ないが、広範囲への攻撃も可能な汎用性の高い強力な攻撃魔法なのだ。

 確かに、火の精霊魔法を使える兵士を後方に配置するのは、戦力的に見てもよくはないだろう。

「まあ、携帯食を食べれば済むんだけどねえ」

 包み紙を小さく丸めて、ラスティの分と一緒に一瞬で燃やしてしまったレイは、小さなため息を吐いてもう一度水筒の水を飲んだ。

「ところでねえラスティ。ラスティの水筒の水はまだ大丈夫?」

 顔を寄せてごく小さな声で聞かれて、ラスティは苦笑いしつつ自分の水筒を軽く振る。

「まあ、半分ほどでしょうかね。何とか足りると思いますよ」

 水筒の蓋を開けて中を覗き込んだラスティの言葉に、レイはこっそり彼の水筒の蓋の中にウィンディーネにお願いして入ってもらった。

「蓋をして振ってみて」

 レイに得意気に小さな声でそう言われて、ラスティがその通りにする。

「おお、これは素晴らしい。ありがとうございます」

 一瞬で一杯まで水が増えて、ラスティが嬉しそうにそう言って蓋を開けて笑顔になる。

「内緒ね」

「はい、内緒ですね」

 笑顔で頷き合い、満杯になった水筒を戻して荷物を鞍に取り付ける。それからそれぞれのラプトルに軽々とまたがれば準備完了だ。

 あちこちで集まる声が聞こえて、レイとラスティもマティウス達が集まって来るのをその場で大人しく待っていたのだった。



『ふむ、今の所問題になりそうなのはあの馬鹿どもくらいか』

『そうですね』

『ですがあれもまあ許容範囲かと』

 ブルーのシルフの呟きに、苦笑いしたニコスのシルフ達がそう答える。

『このあと、問題が起きるとすれば何処だと思う?」

 真剣なブルーのシルフの問いに、ニコスのシルフ達は顔を見合わせる。

『前半の行軍訓練はあくまでも個人の力量が求められる』

『だから我らはさほど心配はしていない』

『主様の力量は相当なものだからね』

『問題があるとすれば後半の部隊指揮に関する訓練の際かと』

『間違い無く主様が指揮するのは例の部隊だもの』

『いくら竜の主の指揮といえども彼らが素直に素人の指揮を聞くかどうかは状況次第』

 そう言って、困ったように揃って首を振る。

『やはりそうか。では、今は情報収集と他の部隊の様子を見ながら、後半までは様子見か』

『それで良いと思いますね』

『ふむ、ただ待つだけと言うのはどうにも性に合わぬ。歯痒いのう』

 嫌そうなため息を吐くブルーのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達も揃って同意するように頷き合っていたのだった。

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