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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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朝の一幕

 翌日、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、寝袋に入ったまま腹筋だけで起き上がった。さしずめ地面におっこちたミノムシ状態だ。

「うう、なんだか身体中痛いよ」

 小さくそう呟き、ゆっくりと腕を頭上に上げて大きく伸びをする。もちろん、無理にひっぱると筋を傷めたりするのでそこは気をつけている。

「おはようございます。初めての寝袋の寝心地はいかがでしたか?」

 いつものラスティの声に振り返ると、もうすっかり身支度を整えたラスティが、自分の寝袋を畳みながら笑顔でレイを見ていた。

「おはようラスティ。ちょっと体が痛いです。でも、動けないほどじゃあないから大丈夫だよ」

「それは何よりです。ではそろそろ起きてくださいね」

「はあい。ねえラスティ、ここでは朝練なんて無いよね?」

 寝袋から出たレイが、肩を回してこわばった身体を解しながらそう尋ねる。

「そうですね。さすがにここでは朝練はありませんが、軽い運動程度なら、天幕の外でやっていただいても大丈夫ですよ」

「軽い運動?」

「そうですね。例えばいつもしておられる柔軟体操や、素振り程度なら」

「そうなんだ。でも、素振り用の木剣なんて持って来ていないよね?」

 すると、その言葉に驚いたように目を瞬かせたラスティは、苦笑いしながら机の上に置かれていたレイの剣帯とミスリルの剣を示した。

「こういった郊外での訓練の場合は、お持ちの武器を鞘に入れたままで訓練にお使いになる方が多いですね。まあ振る際には周りへの配慮の為に、ある程度の広さのある場所でするのは当然ですが」

 そう言われて、レイも改めて自分のミスリルの剣を手に取る。

 確かに、剣の鞘はしっかりとはまっているので軽く振ったぐらいでは容易には抜けない仕様になっている。

「じゃあ、ここで軽く柔軟体操をしてから外で素振りをするね」

 そう言って、その場に座って運動を始めようとして、今自分が抜け出た寝袋を見た。

「えっと、これはどうすればいいの? 畳み方は?」

 これから自分で持って移動しなければならないのなら、畳み方くらいは知っておきたい。

「では教えて差し上げますので、やってみてください」

 改めて自分が持っていた寝袋を広げるラスティの言葉に、レイは満面の笑みで頷いて慌てて自分が使っていた寝袋を手にして軽く振った。



「へえ、こんなに小さくなるんだね」

 教えてもらった通りに、空気を抜くように丸く押し込みながら畳んでいくと、驚くほど小さな塊になった。これを専用の袋に詰め込めば終わりだ。

「こんな風に口を大きく広げて袋にしわを寄せて、一気に入れてしまいます」

 折りたたんで小さくした寝袋は、付属の紐でしっかりと弛まないように縛ってから袋にいれるのだが、割とギリギリの大きさに作られているので、入れるのにはちょっとしたコツがいる。

 教えてもらった通りに、真剣に寝袋を畳んだレイは、これも教えてもらった通りのやり方で器用に一度で袋の中に詰めるのに成功した。

「おやおや、なかなか成績優秀ですね。皆様たいてい一度では入れられなくて苦労なさるのですけどね」

 袋の口を紐を引いてしっかりと結んだレイを見て、ラスティは感心したようにそう言って笑って拍手をしてくれた。

「えへへ、それはきっと教える先生が上手だからです!」

 ちょっと得意げに胸を張ったレイの言葉に、ラスティも嬉しそうに笑う。

「おやおや、それは嬉しい事を言ってくださる。覚えの良い生徒を持って私は楽が出来ますね」

 そう言ってもう一度畳み直した寝袋を装備の入った袋の横に置き、柔軟体操を始めたレイの背中をラスティはゆっくりと押してやるのだった。



 ミスリルの剣を手にしたレイは、天幕の外へ出て周りを見回し、自分の天幕横の空いた場所へ行って深呼吸をしてから素振りを始めた。

 目の前に仮想の相手を思い浮かべながら、それと手合わせをするように型通りに体を動かす。

 上段からの打ち込み、横からの払い、下からのすくい上げ、突き、一歩下がってまた上段からの打ち込み。

 何度も何度も型通りに体を動かして、頭の中で仮想の相手と打ち合い続ける。



「へえ、竜騎士様は真面目なんだねえ」

 軽く息が上がり始めた頃、近くで声がして驚いて手を止めて振り返る。

 そこにいたのは、皮肉げに口角を上げたマティウスが立っていたのだ。

「お、おはようございます!」

 咄嗟に何を言ったらいいのか分からず、とにかく挨拶をする。

「おはようさん。今日も一日ラプトルの上だぞ。そんな無駄に体力使ってどうするんだよ」

 思い切り伸びをしながら呆れたようにそう言われて、レイの方が驚く。

「ええ、ラプトルに乗るにしても、歩くにしても、体を万全の状態に整えておくのは大事な事だよ、これはその為の訓練なんだよ」

「へえ、そりゃ失礼しました」

 服の上からでも見て分かるが、マティウスとて決して鍛えていない訳ではないだろうに、どうやら彼は日々の基礎訓練を真面目にするタイプではないみたいだ。

 制服はきっちりと着ているが、まだ剣帯を締めていないので今の彼は丸腰だ。彼も訓練をするようなら模擬戦の一つでもお願いしてやってみたかったのだが、手ぶらという事は朝練をするつもりはないみたいだ。

 相手をお願いするのは諦めて、レイも自分の訓練を再開した。

 改めて一通りの動きを確認して、そのあとは延々と同じ動作を何度も何度も繰り返して体の動きを確認していった。



「よし、こんなもんかな」

 体もすっかり温まって軽く息が上がってきたところで終了にした。

「お見事〜〜!」

 からかうような声と拍手に驚いて振り返ると、まだマティウスがそこに立っていたのだ。

「ええ、もしかしてずっと見ていたの?」

 そもそも彼に背を向けていたし、当然もう天幕に戻っていると思っていたのでまだいた事に割と本気で驚く。

「いや、ちょっと面白そうだったんで見学してただけ」

 なんでもない事のようにそう言うと、マティウスは手を振って天幕の中へ戻って行ってしまった。

「えっと……」

 どう反応したらいいのか分からず戸惑っている間に置いて行かれてしまい、困ったレイは、眉を寄せて彼が入って行った天幕を呆然と見つめていたのだった。

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