表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼竜と少年  作者: しまねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1511/2485

行軍と食事

 それっきり特に会話も無く進み続け、そろそろ太陽が頂点に差し掛かる頃に前方から突然大きな笛の音が聞こえて来た。それを聞いた兵士達が、笑顔で顔を見合わせてゆっくりと足を止める。

「あれは教えてもらった。止まれの号令だね」

 ゼクスの頭の上に並んで座ったブルーのシルフとニコスのシルフ達に、レイが得意気に小さな声で話しかける。

『そうだな。まあ順当に考えて昼食の時間という事だろうな』

 笑って頷くブルーのシルフの言葉に、レイも笑顔で頷く。

「確かにちょっとお腹空いたかもね。えっと、だけどこれだけの人数の移動中の食事って、もしかして……」

 なんとなく嫌な予感がして周りを見ると、ラプトルから降りたマティウス達のところに、おそらく彼らの従卒らしき人が駆け寄ってくるのが見えてレイも慌ててゼクスから降りた。

「レイルズ様、どうぞこちらへ」

 ラスティの声が聞こえて笑顔で頷く。

 しかし、示された場所はラプトルの隣に置かれたごく小さな折りたたみ式の椅子だ。そして、椅子に座ったレイを見たラスティは、ゼクスの鞍の横に取り付けてあった装備の入った袋を取り出した。

「うわあ、やっぱりこれかあ」

 渡された携帯食を見て、苦笑いながらしそう言って包みをそっと剥がした。

「レイルズ様、行軍中の水は貴重ですから、配分を考えて飲んでくださいね」

 顔を寄せたラスティに小さな声で言われて思わず目を瞬く。

「えっと、僕は水をいつでもウィンディーネ達に出してもらえるけど、それはここではやっちゃあ駄目なの?」

 こちらも小さな声でそう尋ねる。

「やってはいけない訳ではありませんが、あまり見せびらかすようなものではありません。特に、周りに精霊使いがいない状態では」

「わかりました。やるならこっそり。だね」

 真顔のラスティの言葉に小さな声で肩を竦めながらそう答えると、ラスティは一瞬目を見開き、それから小さく吹き出してうんうんと何度も頷いた。

「はい、その通りです」

「分かりました。ありがとうね」

 これも小さな声でお礼を言ってから、時折水で口を湿らせながら黙々と携帯食を齧った。

 周りでも皆無言で携帯食を齧っている。

 水筒の中の水がかなり減った事に気付いたレイは、小さな声でウィンディーネを呼び、蓋に入ってもらって閉めてから軽く振った。

 あの、アルカディアの民のガイがやっていたのを真似てみたのだ。

 タプタプと水筒が重くなる。

「ありがとうね、姫」

 小さな声で水筒に話しかけてから蓋を開けてもう少し水を飲む。

 だけどもう、蓋の中にウィンディーネの姫はいなかった。

「ううん、水は増やしてくれるけど、あのお兄さんみたいにいつでも入っててくれる、って訳には行かないみたいだね」

 なんだか悔しくて小さくそう呟く。

「よし、遠征訓練の間に何度かこれもやってみよう。郊外でいつでも水をすぐに確保出来れば楽でいいものね」水筒を装備の袋に戻して大きく伸びをする。

 あちこちで、携帯食を食べ終えた兵士達が立ち上がって同じように伸びをしている。

「えっと、今日はこのままずっと移動なんだね」

『ああ、そうだな。夕方には今日の野営地に着く。夜は暖かい食事にありつけるぞ。味の保証はせぬがな』

「ええ、温かい食事は嬉しいけど、味の保証は無し?」

 苦笑いしつつ頷くブルーのシルフを見て、レイは諦めのため息を吐いたのだった。

「うう、まあ二週間だけの辛抱だと思えばいいんだよね。よし、何が出ても平気だ。ゴドの村にいた頃に比べたら、きっとまだ美味しいものが出るよ」

 一瞬、驚いたように目を見開いたブルーのシルフは、小さなため息を吐いて愛おし気に我が主を見つめた。

『そうだな。あの頃に比べればきっと……其方は強いな』

 ごく小さな声で呟かれたそれは、レイの耳に入る事もなく、兵士達の騒めきの中に消えていったのだった。



 そのまま行軍を続け、ようやく日が傾き始める頃に、ブルーが言っていたように広い草地に出た。

 幾つかの岩を組んだ水場が作られていて、大岩を掘って作られた水盤には綺麗な水が並々と湧き出ていた。

「へえ、川がある訳じゃないのに、綺麗な水が湧き出しているね。これは姫達がやってるの?」

 ラプトルから降りて少し離れたところにある水場を見ながら足元にいたウィンディーネの姫に話しかける。


『この辺りは竜の背山脈から流れてきた地下水脈が浅い位置にまで上がってきているの』

『だから人の子でも穴を掘れば水が出るよ』

『あれは人の子が掘った泉』

『綺麗な水だよ』


「へえ、竜の背山脈から流れてきた水なんだね。それなら綺麗なのは当然だね」

 鞍に取り付けてあった装備を外しながら振り返ると、少し離れた場所にラスティも含めた従卒達が一般兵と一緒に天幕を張っているのが見えた。

「えっと、お手伝いした方が……」

 駆け寄ろうとしたが、真顔のニコスのシルフ達に止められる。


『あれは彼らの仕事』

『主様はここにいて』

『邪魔してはいけない』


 確かに手慣れた様子であっという間に天幕を張る彼らを見ていると、不慣れなレイが行っても邪魔をするだけだろう。

「分かった。じゃあ大人しくしてるね」

 何をしたらいいのか分からなかったので、ゼクスのたてがみの辺りを何度か撫でてやる。ゼクスは嬉しそうにレイの手を甘噛みして頭を擦り付けてきた。

「一日ありがとうね。えっと、このまま明日も一日中行軍みたいだからよろしくね」

 笑って小さな声でそう言って、甘えてくるゼクスの鼻面を撫でてやった。


 のんびりと行軍できたのは翌日の本陣へ到着するまでで、実はその後にはとんでもない展開になるのだが、この時のレイはまだそんな事など知る由もなく、のんびりと今夜の夕食は何なんだろうなどと考えていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ