竜騎士見習いの身分
竜騎士見習いの身分について、大尉から中尉へ変更しました。
作者の設定確認ミスです。
申し訳ありません。
「えっと……」
呆然と自分を見つめたまま瞬き一つしない五人を見て、レイは困ったようにため息を吐くと、ゆっくりと彼らに向き直って一礼した。
「レイルズ・グレアムと申します。ご覧の通り、竜騎士見習いです。今回、士官候補生としてこの遠征訓練に参加する事となりました。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いします」
内心ではどうしたら良いのかわからずにパニック寸前だが、あまりにも皆が驚いた顔をしたまま動こうとしないので、逆にレイの方から話しかけてみた。
与えられた親交を深めるための時間は一刻しかない。戸惑っている暇はなかった。
「あ、ああ……」
最初に我に返って返事をしたのは、三人組の一人のやや赤っぽい金髪の青年だった。
「マティウス・フレート。よろしく、古竜の主殿」
そう言ってゆっくりと進み出て右手を差し出す。
「どうぞレイルズとお呼びください。マティウス少尉」
「へえ、じゃあ遠慮なくそう呼ばせてもらいます。よろしく、レイルズ」
右手を握り返したレイに、マティウス少尉は笑ってそう答えた。
「アイズナー・レストンです。よろしく。じゃあ僕もレイルズって呼ばせてもらいます」
次に進み出たのは、その隣にいた焦茶色の癖毛の人懐っこそうな笑顔の青年だ。彼はレイルズと同じようなふわふわな髪をしている。
「はい、もちろんです。どうぞよろしく」
「レイルズ、もしかしてその髪って寝癖付きやすくない?」
アイズナー少尉に笑いを堪えた様子で小さな声でそう言われて、レイは堪える間も無く吹き出した。
「もしかしてアイズナー少尉もですか?」
「あはは、やっぱりそうか。寝癖仲間がいて嬉しいよ」
落ちて来た前髪をかき上げながら笑ってそう言われて、レイも笑いながら何度も頷いた。
「フェルダー・ロッシュです。よろしく。じゃあ俺もレイルズって呼ばせてもらいます」
銀髪を短く刈り上げたその青年が、そう言ってレイの手を握った。
「はい、どうぞよろしく!」
手を握り合い、残りの二人を見る。
「レイルズ・グレアムです。どうぞレイルズとお呼びください」
何故か遠慮して話しかけて来ない残りの二人を見て、レイの方から話しかける。
「オリヴァー・ゴードンです。よろしくレイルズ」
やや黒っぽい金髪の青年が苦笑いしながら右手を差し出してくれた。
「クリストフ・グレアム。皆からはクリス少尉って呼ばれてる。よろしくレイルズ」
恐らくこの中では一番年長と思える焦茶色の髪を短く刈り上げたその青年の言葉に、レイは笑顔になる。
「第二の名前が同じですね。嬉しいです。どうぞよろしく」
順番に握手をしながらそう言って笑った。
しかし、一通りの挨拶を終えると何故かそのまま話題が途切れてしまった。
「えっと……」
この中ではおそらく一番年下であろうレイを皆見ているが、誰も口を開こうとしない。どうしたらいいのか全く分からず戸惑っているレイを見てクリス少尉が小さく笑う。
「どうやら古竜の主殿は、こういった場は不慣れと見えるなあ」
「みたいだな。ううん、これはどうしたもんかね」
コクコクと頷くレイに、三人組も呆れたように黙って見ている。
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
彼らの言葉の意味が分からず、とりあえず聞いてみる事にした。
ちらりと三人組を見たクリス少尉は、オリヴァー少尉と顔を見合わせて何故か揃って肩を竦めた。
「だって、この場ではレイルズが一番身分として上になるわけだからなあ。仕切るなら貴方がやってくれないと。あれ? もしかして、その辺って分かってなかったりしますか?」
驚きのあまり無言で目を瞬くレイを見て、クリス少尉は大きなため息を吐く。
「だとよ。どうする?」
その視線は三人組の方に向いている。
「ど、どうするって言われても……」
そう言われて、三人組も困ったように顔を見合わせる。
それから、何故か大きなため息を吐いたマティウス少尉がレイに向き直った。
「レイルズ。貴方は分かってないみたいだから教えて差し上げます」
何事かと、慌てて彼に向き直り話を聞く姿勢になる。
「竜騎士は、実際の戦場では司令官と同等。つまり大佐と同等かそれ以上の身分として扱われます」
それはこの場合、レイの直属の上司となったジェイド大佐と同じか、それ以上の身分だと言っているのだ。
「えっと……」
しかし、竜騎士の身分について教えてもらった時に、そんな話を聞いた事を思い出して慌てて頷く。
「そして、今の貴方は竜騎士見習い。これはつまり、士官候補生扱いとは言っても中尉と同等の身分という事になるわけです。分かりましたか?」
「ええ、それはそうかもしれないけど……」
「けども、だってもない! 身分ってのはそういうもんなんです」
思いっきり呆れたようにそういったマティウス少尉は、眉を寄せるレイの顔を見て、堪える間も無く吹き出した。
何事かと他の者達もレイを見て、揃って吹き出す。
「ちょっ。レイルズ、なんて顔してるんですか!」
三人組が、揃ってそう言いしゃがみ込んで大笑いしている。
「まあ、どうやら世間知らずだって噂は本当みたいだな」
呆れたようなクリス少尉の呟きに、オリヴァー少尉も苦笑いしつつ頷いている。
なんだか彼らとの間に壁を作られた気がしたレイは、小さく拳を握って口を開いた。
「あの、僕は一番年下で、おっしゃる通りに世間知らずです。ですので、この二週間は僕も皆と同じ身分として扱ってほしいです。出来れば、その……敬語も無しでお願いします!」
その言葉に、五人全員が笑いを収めてレイを振り返る。
「いいのか?」
クリス少尉の言葉に、レイは満面の笑みで大きく頷いた。
「もちろんです。是非それでお願いします!」
「だとよ。それじゃあレイルズも俺達と同じ少尉扱いで良いんだと」
「本当に、いいんで……いいのか?」
言い直したフェルダー少尉の言葉に、もう一度レイは大きく頷く。
「へえ、まあそれで良いんなら俺達は別に構わないよ」
何か言いたげにクリス少尉とオリヴァー少尉を横目で見たマティウス少尉の言葉をクリス少尉は全く無視して、彼は大きなため息を吐いた。
「まあ、本人がそれで良いと言うのなら、構わないんじゃないか?」
「だな。じゃあ改めてよろしくな」
「ありがとうございます! では、改めてよろしくお願いします!」
クリス少尉とオリヴァー少尉のやや諦めたようなその言葉に、レイはもう一度満面の笑みで頷いたのだった。




