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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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前途多難の顔合わせ

「ジェイド・ラムネイです。大佐の位をいただいております。はじめまして古竜の主殿」

「ウィリアム・ハーディです。ジェイド大佐の副官で大尉の位をいただいております。はじめまして、古竜の主殿」

 到着した駐屯地内の事務所にある小会議室にて、レイは今回の遠征訓練の直属の上司となるジェイド大佐とその副官のウィリアム大尉との顔合わせを行なっていた。

 マイリーと同じような、やや浅黒い肌と亜麻色の髪のジェイド大佐と、銀髪でやや癖毛の髪を短くして前髪を上げたウィリアム大尉は、そう言ってそれぞれに右手を差し出してくれた。

「レイルズ・グレアムと申します。どうぞよろしくお願いします!」

 順番に右手を握り返しながらそう挨拶をする。



「十六歳と聞いていたが、これはまた立派に育ったもんだな」

「確かに、体格に見合った働きを期待しますよ」

 手を離した二人は、自分達の頭半分以上背が高いレイを見上げてから、顔を見合わせてそう言って苦笑いしている。

 ジェイド大佐も決して小柄な方ではない。がっしりとした筋骨隆々の体格は横幅もありしっかりと鍛えているのが制服の上からでもよく分かったし、握手をした右手は大きな剣ダコがいくつも出来た硬い手をしていた。対してウィリアム大尉は身長は大佐と変わらないが全体に細身だ。剣ダコはあるものの、大佐やレイに比べるとかなり柔らかな綺麗な手をしていた。

「本来であれば、貴方の方が身分としては上になりますが、この訓練期間中は、あくまでも一士官候補生として扱います。よろしいですね」

「はい、もちろんです!」

 直立してそう答えるレイを見て、ジェイド大佐は満足気に頷いた。

「ではレイルズ、今回同行する他の士官候補生達を紹介するので、来たまえ」

「はい!」

 しっかりと返事をして、部屋を出て行く大佐と大尉の後に続いた。




「なあ、これで全員じゃあないのか?」

「さあなあ。参加する士官候補生の人数までは聞いていないから、遅れて来てる奴がいるんじゃないか?」

「ええ、それはねえだろう?」

 いかにも貴族の若者といった風情の第一部隊の制服を着た若者達が三人、置いてあったソファーに堂々と座って好き勝手な事を言って笑っている。

 扉横の壁際には同じ制服を着た彼らよりも少し年長の男性が二人、腕を組んで黙ったまま並んで壁に寄りかかって立っていた。

 この二人と三人は、部屋に入った時から一切口を利いていない。

 何故なら、ソファーに座っている三人はオルダム在住の生粋の貴族出身で、立ったままの二人はどちらも地方貴族の出身なのだ。

 今ソファーに座っている三人が揃って部屋に入って来た際に、先に部屋に来ていた二人の方から挨拶をしたのだが、三人は明らかに聞こえない振りをして無視したまま振り返りもしなかったのだ。

 それを見た二人は特に何も言わず、それっきり離れた壁際に立ったまま黙って上官が来るのを待ち続けている。



「全員起立!」

 突然部屋に響き渡った大きな声に、開いたままの扉に背を向けてソファーに座って寛いでいた三人が飛び上がってその場に直立する。

 壁際の二人は、大佐達が部屋に入って来た瞬間に即座に気づいて直立している。

「誰がソファーに座って待てと言った!」

 部屋に入ったところで立ち止まった大佐の大声に、三人は何も言えずに前を向いたまま黙っている。

「そこの三人、ここへ並べ!」

 大佐の号令に、ソファーから立ち上がって直立していた大急ぎで三人が大佐の前に並ぶ。

「お前達は、毎回気を抜きすぎだ! その場で腕立て百回!」

「はい!」

 即座にその場で腕立てを始める三人を見て壁際に立った二人は声を出さずに小さく笑い、レイは驚きのあまり言葉も無く呆然としたまま、黙々とその場で腕立て伏せをする三人を見つめていた。

「終わりました!」

 ほぼ同時に三人が腕立てを終えて直立する。少し息が上がっている程度なので、しっかりと鍛えてはいるようだ。

「以後勝手な行動は慎むように!」

「了解しました!」

 敬礼する三人を見て、大佐は小さくため息を吐いた。

「全く、いつまで学生気分でいるつもりだ。そんな適当な気分で任地へ行けば、戦いになった瞬間に死ぬぞ」

 無言で敬礼したまま直立している三人を見て、大佐はもう一度ため息を吐いた。

「もう良い、直れ」

 敬礼を解いた三人が腕を後ろに回して軽く足を開いて立つ。

 後ろに控えていた大尉が、壁際に立ったままの二人を促して三人の隣に並ばせ、その隣にレイも並ばせた。二人が腕を後ろに回して軽く握り足を開いて立つのを見てレイもそれに倣った。



 ウィリアム大尉が大佐の横に並んでこちらに向き直り、手元のファイルを見ながら点呼を取る。

「マティウス少尉」

「はい!」

「フェルダー少尉」

「はい!」

「アイズナー少尉」

「はい!」

「オリヴァー少尉」

「はい!」

「クリストフ少尉」

「はい!」

「竜騎士見習い、レイルズ」

「はい!」

 最後に呼ばれたレイは、いつものように元気よく返事をした。

 しかしその瞬間、五人全員が目を見開いて横に並んだレイを振り返った。

「誰が横を向いて良いと言った!」

「申し訳ありません!」

 そう言って即座に前を向く五人を見て、もう一度大佐はため息を吐いた。

「まあ良い。今名前を呼んだ際に分かっただろうが、今回は特別に竜騎士隊から一名、竜騎士見習いが士官候補生として遠征訓練に参加する事になった。互いに切磋琢磨して、しっかりと学び己に与えられた役割を遂行するように。今から一刻、親交を深めるための歓談の時間とする。時間になったら表に装備を持って集合するように! 以上だ!」

 大佐はそれだけを言うと、さっさと引き上げてしまった。

「えっと……」

 部屋には、呆然とレイルズを見つめる五人と、こんな時にどうしたら良いのか全く分からずに困って立ち尽くすレイが取り残されたのだった。



 壁面に置かれ空っぽの棚に座ったニコスのシルフ達は、立ち尽くしているレイを心配そうに見つめているだけで何も教えようとしない。


『頑張れ、主様!』

『頑張れ頑張れ!』

『最初が肝心だよ!』


『おいおい、助けてやらなくて良いのか?』

 ふわりと現れたブルーのシルフの言葉に、ニコスのシルフは笑って首を振った。


『主様は分かってる』

『大丈夫大丈夫』

『まずはやらせてみましょう』


 笑顔のニコスのシルフの言葉に、ブルーのシルフも心配そうにしつつもまずは黙って様子を見る事にしたのだった。

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