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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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一緒!

 朝練を終えて部屋に戻ったレイは、軽く湯を使って汗を流してからルークとカウリ、それからラスティをはじめとした従卒達と一緒に食堂へ向かった。



「えっと、明後日からは汗をかいてもさっきみたいに湯を使えなくなるね」

 いつものように山盛りに取ってきた食事を食べながら、ふと思いついてそう言葉にした。

 特に理由は無い。郊外遠征と言うくらいだから、きっとテントに泊まるのだろうくらいの考えから出た言葉だ。

「確かにいつものように、湯をふんだんに使って汗を流す。というようなわけにはいきませんね。ですが、体を拭う程度の湯はご用意して差し上げられますよ。それに真夏と違って外の気温はかなり低いですから、それほど心配なさらなくても大丈夫ですよ」

 ルークが教えてくれると思ったのに、何故かルークは意味ありげにラスティを見て、その視線に気付いたラスティがにっこりと笑ってそう教えてくれた。

「へえ、そうなんだ。じゃあ心配しなくていいね」

 ラスティの答えに納得して、話をしながら作っていたレバーフライを二枚挟んだパンを食べようとした時、何か引っかかるものを感じて、その理由を考えて食べようとした手が止まる。

「あれ? 今のって……」

「ん? どうかしたか?」

 レイと同じく、二枚重ねのレバーフライを挟んだパンを食べていたルークが、小さなレイの呟きが聞こえて、不思議そうにレイを見る。

「えっと、今のってどういう意味ですか?」

 戸惑うように首を傾げたレイが、目の前のレバーフライを挟んだパンを見つめながらそう尋ねる。

「ええ? 今のって?」

 驚いたルークに質問を質問で返されて、レイは困ったように眉を寄せながら小さく首を振る。

「すみません。ルークじゃなくてラスティに質問です。ねえラスティ、今のって、今のってどういう意味ですか?」

「はい? 何の事でしょうか?」

 笑顔だが、不思議そうに食べている手を止めてこっちを見てくれるラスティに、レイは戸惑いつつ口を開く。

「えっと、今ラスティが言った言葉。夏と違ってそれほど汗をかかないだろうからって言ったでしょう?」

「はい、言いましたね」

「その前に、こう言ったよね。体を拭う程度のお湯は用意して差し上げられますって」

「はい、確かに言いましたね」

「それって、もしかして……」

 ものすごく遠慮がちな言葉と共に、期待に満ちた目で見つめられて、苦笑いしたラスティは大きく頷いた。

「はい、レイルズ様のお考えの通りですよ。今回の遠征には、私もお供させていただきます」

「ええ、ラスティが一緒に来てくれるの!」

 期待通りの言葉に目を輝かせたレイが、持っていたレバーフライを挟んだパンを落としかけて、慌てて両手で掴み直す。

「うわあ、危ない!」

 焦ったような悲鳴と、手からこぼれたパンを慌てて掴もうとしてそのまま指先に当たってさらに弾き飛ばしてしまい、まるでお手玉のように頭上に高く飛んだパンが落ちてきたところを必死で掴んだレイを見て、ルークが遠慮なく吹き出す。

「はあ、びっくりした。よしパンは無事だ。えっと、ねえ! それでラスティが来てくれるんですか!」

 落とすまいとして力一杯掴んでしまい、ちょっとへしゃげて変形したパンを一旦お皿に戻したレイは、目を輝かせてルークを見た。

「おう、そりゃあラスティはお前の従卒なんだから、一緒に行くだろう?」

 何を当然、と言わんばかりに笑ったルークの言葉に、レイは不思議そうに目を瞬く。

「そのための従卒だよ。分かるか? 民間人である竜騎士隊の本部付きの執事と違って、ラスティは軍人だって事」

「あ!」

 その言葉の意味をようやく理解して、レイは満面の笑みで大きく頷く。

「そっか、分かりました。今回は巡行の時みたいに今ある駐屯地へ行くわけじゃないから、先にいる部隊の人にお世話してもらう、ってわけじゃあないんだね」

「そういう事。そのための軍人の従卒なんだよ」

 笑ったルークの言葉に納得したレイはもう一度笑顔で大きく頷いて、それからようやくレバーフライを挟んだ少し形の歪んだパンに齧り付いたのだった。

 そんなレイを、ラスティは苦笑いしながら見つめていたのだった。



 実はラスティは、明後日の早朝。準備万端整えて彼が出て行く際、いかにも名残惜しくて最後まで見送りに行くかのように厩舎までついて行って、さあ、では行きましょうか。と言って自分もラプトルに乗って見せるまで、一緒に行くのは内緒にしていようと密かに楽しみにしていたのだ。

「ううん、ちょっと残念ですね。レイルズ様の驚く顔が見たかったですが、まあ、今の驚いたお顔も可愛かったので、それでよしとしましょうか」

 小さく笑ってそう呟き、ラスティは燻製肉を切って口に入れたのだった。

 そしてそんな彼の様子を、蜂蜜の瓶の上に座ったブルーのシルフは面白そうに眺めていたのだった。

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