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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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寝坊した朝のいつもの光景

 翌朝、レイはいつものようにシルフ達に起こされたのだけれども、酷い頭痛で顔を上げる事も目を開く事も出来なかった。

「うう、頭痛い……喉乾いたよう……」

 眉間に思いっきり皺を寄せながら小さくそう呟いて、抱きしめた枕ごと寝返りを打ってそのまままた顔を埋めて静かになってしまった。

 寝返りを打った拍子に一斉に飛んで逃げたシルフ達が、静かになったレイの周りに戻って来てまた眠ってしまったレイの顔を覗き込む。


『寝ちゃったね』

『寝ちゃったね』

『どうする?』

『どうするどうする』

『起こすの?』

『起こすのかな?』

 困ったように顔を見合わせたシルフ達だったが、揃ってにっこりと笑うと一斉に寝る振りをした。


『寝るの〜〜!』

『寝るの〜〜!』

『朝だけどおやすみなの〜〜』

『おやすみなの〜〜』


 嬉しそうにそう言って欠伸をする振りをした何人かのシルフ達が、眠るレイの胸元や枕の上、あるいはふわふわな髪の毛の中に潜り込んで寝る振りを始める。

 それを見て、残りのシルフ達はお気に入りのレイのふわふわな赤毛を引っ張ってまた遊び始める。

 カーテンが引かれた薄暗い室内では、それからしばらくの間シルフ達の楽しそうな笑い声とレイの気持ち良さそうな静かな寝息だけが聞こえていたのだった。



「レイルズ様、朝練に参加なさるのならそろそろ起きてください」

 白服を手にしたラスティがノックの音の後に部屋に入って来た時、いつも早起きのレイは珍しくまだ熟睡中だった。

「おや、お珍しい」

 苦笑いしてそう呟いたラスティは、一つ深呼吸をしてからレイの肩に手を掛けてそっとゆすった。

「レイルズ様、おはようございます。朝練はお休みなさいますか?」

 ちなみに、今日は全員まだ寝ているので、誰も朝練には参加しないらしい。

 しかし、ラスティの呼びかけにも全くの無反応だ。いつもなら、ラスティの声が聞こえたらすぐに目を覚ますのに。

「まあ、昨夜は少々深酒が過ぎましたからね。皆様今朝は朝練もお休みのようですし、このままもう少しお休みいただきましょうかね」

 当然、こうなる事が予想されていたので、実は昨夜から今日の午前中は竜騎士達全員、基本的に緊急事態でも起こらない限りお休みの予定になっている。

 綺麗に編まれたこめかみの三つ編みが、まるで返事をするかのように左右にぴょこぴょこと動くのを見てラスティは小さく吹き出した。

「では、ごゆっくりお休みください」

 笑ってそう言って一礼したラスティは、レイの髪がまたしても勝手に束になったまま右に左に跳ね回ったり、毛先がまるで生きているかのように絡まり始めるのを見てもう一度吹き出したのだった。

「精霊の皆様方、どうかお手柔らかにお願いいたします」

 そう言ってもう一度一礼したラスティだったが、顔を上げながら考えて小さく呟いた。

「いや、違うな。この場合はお願いするのはそこじゃないな……」

 その呟きに何事かと手を止めてラスティを振り返ったシルフ達は、軽く咳払いをした彼の次の言葉を待った。

「こほん。ええ、精霊の皆様方。どうぞご存分に寝坊助様の髪でお遊びください。ですが願わくば、後程寝坊助様がお目覚めになった暁には、絡まった髪を解すのをどうぞお手伝いくださいませ」

 その言葉に、シルフ達はそれはそれは大喜びで手を叩き合ったり飛び跳ねたり、輪になってダンスをしたりして大はしゃぎしていたのだった。

 そして残念ながら精霊が見えないラスティは、彼の言葉に大喜びしたシルフ達から一斉に投げキスされたことを、とうとう知らないままに部屋を出て行ってしまったのだった。


『残念残念』

『彼には我らは見えない』

『残念残念』

『だけど彼も大好き』

『大好き大好き』

『主様の大好きな人』

『大好き大好き』

『彼は優しい』

『優しい優しい』


 楽しそうにレイの髪を絡ませたり編んだりしながら、シルフ達は笑いさざめいていたのだった。




「ううん……」

 レイが目を覚ましたのは、そろそろ太陽が頂点を過ぎようかという時間だった。

「あれ? えっと……どうしてこんなに部屋が明るいんだろう……」

 寝ぼけ眼で天井を見上げながらそう呟いたレイは、直後に襲って来た酷い頭痛に情けない悲鳴を上げて目元を覆った。

「ううん、久々に二日酔いだ〜〜」

 何度か目を擦ってようやく開くようになったが、その眉間には深いシワが刻まれている。

「ブルー……いる?」

 枕に抱きついたまま、なんとかそれだけを言う。

『ああ、ここにいるぞ』

 笑みを含んだその声に、なんとか目をもう一度開いたレイは大きなため息を吐いた。

「えっと、今何時?」

『そろそろ十二点鐘の鐘が鳴る頃だぞ』

「うええ、寝過ごした〜〜〜」

 そのあまりにも情けない悲鳴に、ブルーのシルフが笑う。

『おはよう、まあ昨夜はかなり呑んでいたようだからな』

 からかうようのその言葉に、声にならない唸り声をあげてレイは仰向けに転がった。

「うう、確かにちょっと飲み過ぎた気がする。美味しかったんだけどなあ……」

 もう一度大きなため息を吐いてから、手をついてゆっくりと起き上がる。

「えっと、ウィンディーネの姫、良き水をお願いします!」

 枕元の小さなテーブルにいつも置いてくれてある空のグラスを手にしたレイは、何とかそれだけを言った。

 瞬時にグラスの縁に一人のウィンディーネが現れてグラスを軽く叩く。

 一瞬で水で満たされたグラスをもう一度叩いてウィンディーネはいなくなった。

「ありがとうね」

 それだけを言って、一息に水を飲み干す。

「ああ美味しい! もう一杯お願いします!」

 空になったグラスに、また一瞬で水が現れる。

 結局レイは四杯の水を飲み干してようやく起き上がれるようになったのだった。

「顔洗って来よう。これって絶対、すごい寝癖に……うわあ、やっぱりなってる!」

 自分の髪を触ったレイの悲鳴に、彼が起きた事に気付いて部屋に来てくれたラスティは堪える間も無く吹き出したのだった。

 そんな彼を見て、シルフ達は大喜びで手を叩き合っていたのだった。

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