酔っ払い達
「えへへ、どれもとっても美味しいれす……」
空になったグラスを何が面白いのかくるりくるりと回しながら、ソファーに深々と座ってすっかりご機嫌になったレイが笑う。
「しっかし相変わらず酔っ払っても良い子なんだよなあ。こら、お前の中にちょっとくらい羽目を外すとかって考えはないのかよ」
笑ったロベリオがそう言いながらレイのふわふわな赤毛を突っつく。
自分が飲むよりも、レイに面白がって飲ませる方が多かったロベリオとユージンは、見る限りそれほど酔った様子もない。
「は? めを、はずすって、にゃんれすか!」
「いやいや、お前無茶言うなよ。目は外すなって!」
「ぎゃはは、そんなの出来たらシルフ達もびっくりだって!」
いきなり起き上がってロベリオに詰め寄るレイの言葉に、ロベリオとユージンが二人揃ってそんな事を言いながら大笑いしてクッションをバンバンと叩いている。
その横では、タドラがまた別の大きなクッションに抱きつくみたいにして突っ伏して、こちらも大爆笑している。
「ぎゃはは、目が外れるって! 何それ怖いよ〜〜〜!」
震える振りをしながらタドラの叫ぶ声に、またロベリオ達が笑う。
「お前らなあ」
向かいのソファーでルークと並んで座って飲んでいるカウリは、完全に単なる酔っ払いになっているそんな彼らを見て呆れ顔だ。
どうやら酔っていないように見えたのは見かけだけで、ロベリオ達も実は相当酔っ払っているみたいだ。
とはいえ今回はあくまでも身内での飲み会だから、まあこの程度はご愛嬌の範囲だろう。
まだゲラゲラと大口を開けて大笑いしている若者組を横目に眺めながら、マイリーとヴィゴは少し遅れてこの新作ワインの飲み比べに参加したアルス皇子と一緒に、もう何本目か数える気もないまた新しい赤のワインを開けたところだ。
「ああ、また違うのを、飲んで、います、ね! 僕、それは、まだ、飲んだ事、ないれす!」
目敏くそれを見つけたレイが、満面の笑みで息を切らしながらそう言って、机に置かれた新しいグラスを手に勢いよく立ち上がろうとした。
「ああ、待て待て、危ないからいきなり立つんじゃないよ。ほら、持って行ってやるからそこで待っていなさい」
ヴィゴのグラスにワインを注いでいたマイリーが苦笑いしながらそう言い、ロベリオ達に引っ張られて素直に座ったレイを見てルーク達がまた大笑いしている。
「ほら、どうぞ。だけどもうそろそろ飲み過ぎじゃないか?」
立ち上がったマイリーが側へ来てくれて、レイの空のグラスにそっとワインをやや少なめに入れてくれる。
「お願いしま〜〜す!」
「こちらにもお願いしま〜〜す!」
若竜三人組のご機嫌な声が続き、ルークとカウリも新しいグラスを笑いながら差し出した。
「言っておくが、これは一本しか届かなかった貴重なワインなんだぞ。心して味わえよ」
胸を張ってそう言いながら、順番にグラスに注いでくれる。
「へえ、一本だけですか?」
支援しているワイナリーからの新酒のワインの場合、支援している金額にもよるが、よほど出来の悪い年でない限り数十本単位で届くのが普通だ。
「これは俺の故郷のクームスから少し離れた辺境の地の個人経営のワイナリーから届いたワインだよ。これがとにかく美味いんだけど、もうそろそろ作っている爺さんが年齢的にも限界らしく、どんどん生産量が減ってるんだよ。出来れば誰かに後を継いでもらいたいんだけど、こればっかりは無理強い出来るものではないしな。まあいざとなったら諦めるさ」
「へえ、成る程。個人経営で、後継がいないとなると、諦める他は無さそうですね」
納得したようにルークが呟き、注いでもらったワインの香りをゆっくりと吸った。
「うわあ、すっげえいい香り」
目を見開いたルークが何か言う前に、ロベリオとユージンの大きな声が揃う。
「確かにこれはすごい。まさに濃厚な香りだな。ううん、これは確かにちょっと無くすには惜しいな」
苦笑いしたルークの呟きに、マイリーもうんうんと頷いている。とはいえ、オルダムにいる彼らに何かできるわけもなく、これはもう経緯を見守る他はなさそうだ。
「美味しいれす!」
そんな彼らの無言のやりとりなど全く気付かず、もらったワインを一口飲んだレイが満面の笑みでそう叫ぶ。
「うん、確かにその一言に尽きるな。これは美味い」
ヴィゴとアルス皇子も顔を見合わせて頷き合い、嬉しそうに笑いながらゆっくりとそれぞれのワインを口にした。
そこからは、各自の秘蔵の一本が登場して、なんとも贅沢な時間を過ごしたのだった。
「えっと、どれもすっごくすっごく美味しかったれす!」
後半の数本は、レイには少々酒精が強すぎたようで、大きな声でそう叫んだきり、いきなりクッションに抱きついたまま静かになってしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
いきなり全く動かなくなったレイを心配して、ルークが立ち上がって様子を見に来る。ロベリオ達も左右から心配そうに覗き込んでいる。
しかし、その直後に聞こえてきた気持ちの良さそうな寝息に、ルークとロベリオが揃って吹き出す。
「確か以前もこんな感じだったよな。あれだけご機嫌で飲んでたくせにいきなりの寝落ちとか、なかなかの大物だねえ」
完全に熟睡しているレイの赤毛を、ルークが笑いながら引っ張る。
「ううん、毎朝遊んでるっていうシルフ達の気持ちが分かるなあ。これか確かに絡ませて遊びたくなるぞ」
そう言って笑いながら両手で赤毛を撚り合わせるみたいにして絡ませ始める。
それを見て、嬉々として集まってきたシルフ達と一緒になってレイの髪で遊び始めたルークを見て、マイリーとヴィゴ、それからアルス皇子の三人が揃って吹き出す。
「ルークも、どうやらかなり酔っ払っているみたいだね。でもまあ、たまにはこんな日があっても良いよね。平和で何よりだよ」
笑ったアルス皇子の嬉しそうな呟きに、マイリーとヴィゴは揃って頷くのだった。
「精霊王の感謝と祝福を!」
アルス皇子の突然の言葉に、レイ以外の全員が笑顔で持っていたグラスを高々と掲げた。
「しぇいれいおうに、かんちゃとしゅくふくを!」
しかし、その直後にいきなり起き上がってそう叫んだレイの大声に、ほぼ全員が飲んでいたワインを吹き出す羽目になったのだった。




