支援制度
翌日、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、ルークとタドラと一緒に朝練に向かっていた。
「昨夜ロベリオ達から聞いたけど、エケドラから今年のワインが届いたんだって?」
歩きながらタドラにそう聞かれて、レイは笑顔で大きく頷いた。
「はい! 赤とロゼのワインが届いてました。また後日、白のワインも届くって聞いてます」
「エケドラの赤とロゼのワインは飲んだ事がないからさ。是非飲ませてよ」
タドラの言葉に、レイはもう一度笑顔で頷く。
「ああ、良いなあ。それなら今度本部で新酒の試飲会をやろうか。俺が支援しているワイナリーからも幾つか新酒が届いてるんだよな。マイリー達もそんな事言っていたから、誘えば喜んで提供してくれると思うぞ」
「良いですね。それなら、僕も支援しているワイナリーからの新酒が届いてるから喜んで提供しますよ」
「へえ、それはぜひやってください。もちろん喜んで提供しますよ!」
何だか嬉しくなってそう言った後に、レイは不意に無言になって考えてしまった。
「何だ? どうかしたか?」
急に無言になったレイを見て、ルークが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ワイナリーを支援してるって……何ですか?」
「あ、そっち?」
急な質問に、ルークが笑って頷く。
「何って、言葉の通りさ。俺達が個人的に醸造所を支援する事だよ。まあ、何をするかと言えば主に資金面での援助を行ってる。例えばワイナリーといっても大小あって、大きな所はそれこそ広い葡萄畑を有して大々的にワインを作っているんだけど、実は個人経営の小さな規模の所も多いんだよな。そういった小さなワイナリーの方が、特徴的だったり挑戦的な美味しいワインを作ってくれるところが多かったりするんだ。だけど当然個人の範疇でしか仕事が出来ないから、生産量も限られるし資金面で苦労したりする事も多いんだ。特に葡萄の出来不出来でワインの味は大きく左右されるからね」
「自然相手の仕事って大変なんでしょう? 雨が降らなかったり、逆に長雨だったりしても作物の出来に大きく影響するって聞くからね」
ルークの説明に続き、一緒に聞いていたタドラもそう言ってレイを振り返る。
「ああ、それはもちろんそうだと思いますね。そっか、個人経営の所だと、その年の葡萄の出来が悪いと、当然ワインの出来も悪くなるからその年の収入が一気に減っちゃったりするんだ。うわあ、それは絶対に大変そう」
一年に一度しか作れない、いわば作り直しがきかないものでそうなると、それこそ作る側にとっては死活問題だろう。
それに気付いたレイが、焦ったようにそう言って首を振る。
「だからさ、安定して仕事をしてもらえるように、気に入ったワインを作っているワイナリーを個人的に支援する制度があったりするんだ。大抵はその地域の商人ギルドが総括してくれているね。支援すると、今言ったように作ったワインが届いたり、欲しければ追加で買ったりする事も出来るわけ」
タドラの説明に、レイは笑顔で何度も頷く。
「まあ、これも金持ちの貴族の仕事のうちだな。レイルズも、貴腐ワインが好きなんだから、いい機会だし何処かのワイナリーを支援してみても良いんじゃないか? よかったら紹介してやるぞ」
「へえ、そうなんですね。じゃあ、僕も何処か支援してみてもいいか、も……」
ルークの言葉に何気なくそう呟いた時、不意に思いついた考えに言葉が途切れる。
「ねえルーク! それって、それって……支援出来るのは、個人経営の醸造所だけ、ですか?」
急に目を輝かせて、ルークの腕を掴んでそう尋ねる。
少し考えたルークは、笑顔で頷いてくれた。今のレイの考えている事などルークにはお見通しだったのだ。
「もちろん、大手のところだって支援出来るよ。それ以外だと、郊外の神殿なんかは、修行の一環として葡萄畑を耕して醸造所を有しているところも多いから、そういった神殿への支援制度もあるなあ」
目を見開いて満面の笑みになるレイの頬を、ルークが笑って突っつく。
「それならゲルハルト公爵閣下に相談してごらん。閣下は特に辺境地域の支援に力を入れておられるからね」
「まあ、ゲルハルト公爵閣下の場合は、支援した醸造所から届く、色んな珍しいワインやウイスキーが目的だってもっぱらの噂だけどさ」
タドラも当然レイの言いたい事は分かっていたが、笑ってからかうようにそう言ってくれた。
「はい、じゃあそうします!」
目を輝かせて何度も頷くレイの様子に、二人も笑顔で頷いてくれたのだった。
そんな話をしながら到着した訓練所では、レイに気付いて駆け寄って来て挨拶してくれたマークとキムを見て、レイも笑顔で挨拶を返したのだった。




