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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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それぞれの午前中

「じゃあ、朝練お疲れ様でした! ゆっくり休んでくださいね〜〜!」

 食事を終えて部屋に戻るカウリに、レイとティミーは揃って満面の笑みで手を振って見送った。

「おう。それじゃあ遠慮なく休ませてもらうから、俺の分までしっかりお仕事しといてくれよな」

 振り返って苦笑いしつつそう言ったカウリの言葉に、横で見ていたロベリオ達が遠慮なく吹き出している。

「僕は今日も精霊魔法訓練所ですから、残念ながら事務仕事のお手伝い出来ませんね。では、レイルズ様が頑張って三人分働いてくださいね」

 にっこり笑ってそう言うティミーの言葉にまたしてもロベリオ達が吹き出し、レイも遅れて吹き出して揃って大笑いになったのだった。



「なんだよ、さっきから人の顔をチラチラと見て」

 そんな若者組の戯れ合う様子を苦笑いしつつ少し離れたところから眺めていたマイリーが、何か言いたげに横目で自分を見ているルークを振り返ってそんな事を言う。

「いやあ、別にぃ。平和だなあと思って感心していただけで〜〜す」

 こちらも大いに含むところのある口調で、肩を竦めたルークがそう答える。

 そんなルークに鼻で笑ったマイリーは、そのまま知らん顔で階段を上がって事務所へ向かった。

 そしてそんな二人のそれぞれが言いたい事を両方理解しているヴィゴは、小さくため息を吐いて笑うとマイリーを追いかけて事務所へ向かったのだった。

「じゃあ、冗談抜きでまた資料整理を手伝ってくれるか」

 苦笑いしたルークにそう言われて、素直に返事をしたレイも急いで事務所へ向かったのだった。



「もうルーク、毎回毎回資料整理を溜めすぎです。地層が積み上がりすぎて何が何だか分からなくなってますよ」

 散らかった資料の山やメモ書きを整理しながら、呆れたようにため息を吐いたレイが文句を言う。

「あはは、ちょっとこのところ忙しかったもんでねえ。まあ溜め込んでいたことは否定しないよ。整理上手なレイルズ君。頼りにしてるからよろしくな!」

 一応自分でも整理しながら、ルークが誤魔化すように笑ってそう言って肩を竦める。

「そうそう、レイルズって意外に整理整頓が上手いんだよ」

 そんな二人のやり取りを聞いていたロベリオの言葉に、ユージンだけでなくマイリーとヴィゴも吹き出す音が聞こえた。

「意外って何ですか。意外って! 普通はこれくらい出来ますよ」

 メモを手にしたレイが、その言葉に口を尖らせながら文句を言い。またあちこちから笑い声が聞こえた。

「まあこれも適材適所だよ。頼りにしてるから、そっちが終わったら俺の分もよろしくな」

 マイリーがそう言いながら手を上げて、自分の横に積み上がった資料の山を指差しながら手招きする。

「ああもう、ルークもマイリーも溜めすぎです!」

「大丈夫だ。どこに何があるかは分かってるぞ」

「そういう問題じゃあないです!」

 真顔で全く同じ答えをした二人にレイが叫び返して、事務所は笑いに包まれたのだった。




「はあ、疲れた。冗談抜きで今回は本当に死ぬかと思ったぞ」

 一方、部屋に戻ったカウリはモーガンに剣と剣帯を外してもらい、上着を脱がせてもらって身軽になったところで、ため息と共にそう言いながらソファーに座り、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

 まだ痺れている両手を投げ出したまま、天井を見上げて大きなため息を吐く。

「お疲れ様でした。夜には夜会の予定は入っていますが、それまで部屋でこのままお休みいただいて構いませんので、どうぞごゆっくり」

「へーい」

 気の抜けた返事をするカウリの様子に、柔らかな綿兎の大判の毛布を広げたモーガンは、カウリにそっとそれをかけてやりながら呆れたように笑っている。

「しかし話には聞いていたけど、全員と連続でやりあうのはキツかったなあ。まだ腕の感覚が無えよ」

 もう一度大きなため息を吐いたカウリが、まだ痺れの残る両手で顔を覆いながらそう呟く。

「だけどさあ、聞いてくれるか。すっげえ意外だったんだよ」

 指の間からモーガンを見て、小さく笑いながらそんな事を言う。

「おや、何かありましたか?」

 カウリが脱いだ上着にブラシをかけていたモーガンが、その言葉に驚いたように振り返ってそう尋ねる。

「あのマイリーがさ、俺に勝ちを譲ってくれたんだぜ。いやあ、驚いたなんてもんじゃあなかったよ」

「ええ、それはまた……」

 マイリーの性格をよく知るモーガンも、その言葉に驚いて目を見開く。

「一体全体、どういう心境の変化なのかねえ。ルークから聞いたけど、この間のアルジェント卿の館で行われた戦略室の会の会合の時もそうだったらしいからなあ。まあ、悪い変化じゃあないんだろうけどね」

 カウリの言葉に、モーガンも笑顔で頷く。

「お怪我をなさって以降。マイリー様は本当に変わられましたからね。まあ、元々凄いお方でしたが、私は今のマイリー様の方が、人としてはずっと魅力的だと思いますね」

「ああ、それは俺もそう思うなあ。なんて言うか、ちょっと隙があるくらいの方が、魅力的だよな。まあ俺は隙ばっかりだけどさ」

 小さく吹き出したカウリの言葉に、上着を壁の金具に掛けていたモーガンはにっこりと笑って振り返る。

「一般兵達の噂によると、カウリ様の場合は、普段は隙だらけで泣き言ばっかり仰っている癖に、時折見せる真剣な様子が堪らないのだそうですよ」

 不意をつかれて思いっきり吹き出して咳き込むカウリを見て、モーガンは声を上げて笑っていたのだった。

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