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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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咄嗟の対応とそれぞれの変化

「うああ、マジでもう無理だって」

 満面の笑みで二本の木剣を手にするヴィゴを見て、顔を覆ってその場にしゃがみ込むカウリ。

「ほら、頑張れ、あと二人だぞ」

 これ以上ないくらいの嬉しそうな声でそう言われて、しゃがんだままのカウリが上目遣いにヴィゴを見上げる。

「一応聞きますけど……花を持たせてくれる気、あります?」

 まるでいつものレイのように口を尖らせるその様子に、ヴィゴが堪えきれずに吹き出す。

「さてなあ、どうして欲しい?」

「言って良いんっすか?」

「おう、一応聞くだけは聞いてやるぞ」

 もう一度手を引かれて立ち上がったカウリは、渡された新しい木剣を半ば無意識で受け取りつつ大きなため息を吐く。

「もう握力がほぼ無くなってるんですけどねえ。さっきのマイリーとの一戦で、完全に俺の限界超えてます。なのでもうヴィゴの不戦勝でいいと思うんっすけどねえ」

「そんな寂しい事言うなよ。せっかくなんだから俺とも遊んでくれよ」

 にんまりと笑ってそう言われて、カウリが悲鳴を上げるのとヴィゴが持っていた木剣を大きく振りかぶるのはほぼ同時だった。

「いくぞ!」

「だから無理ですって! ああもう、お手柔らかに願いますよ!」

 情けない悲鳴を上げつつも、しっかりと構えている辺りはさすがだ。まあカウリとて、せっかくここまで来たのだから全員とやり合いたい気持ちはある。

 しかし本人のやる気とは裏腹に、残念ながら握力の低下は思っていた以上に深刻だった。

 木剣同士が大きな音を立てて打ち合わされた直後、堪えきれずにカウリの手から木剣が弾かれて吹っ飛ぶ。本人も勢い余って仰向けに倒れて咄嗟に受け身を取って転がる。

「危ない!」

 見ていたレイの悲鳴と、兵士達の悲鳴が重なる。

 カウリの手から吹っ飛ばされた木剣は、勢いよく回転しながら少し離れたところで見学していたティミーに向かってまっすぐに飛んで来たのだ。



 自分に向かってふっ飛んでくる木剣を、ティミーは悲鳴すら上げられずに目を見開いたまま見つめていた。



「シルフ! その木剣をとめろ!」

 しかし咄嗟に叫んだヴィゴとマイリーの声がほぼ同時に響いた時には、もう木剣はティミーの目の前まで来ていた。

 間に合わない!

 誰もがそう思った直後、ティミーの目の前に突然光る盾が現れて突っ込んで来た木剣を直前で受け止めた。

 しかも、その光る盾は受け止めた木剣を弾く事もなくふんわりと受け止め、勢いを殺してその場に落として見せたのだ。

「うわあ、よかった! 間に合った〜〜!」

 隣にいたレイの悲鳴のような叫びが聞こえた直後に、場内に大きなどよめきが走った。

「これは見事だったな。今の光の盾はレイルズがやってくれたのか」

 ヴィゴが早足で駆け寄って来て、感心したようにそう言いながら落ちた木剣を拾う。

「は、はい。光の盾と風の盾の合成魔法です。シルフ達に頼むよりもこっちの方が早いと思って咄嗟に飛ばしました。間に合ってよかったです」

 照れたように笑いつつ、レイも安堵のため息を吐きながらそう答える。

「おお、ありがとうなレイルズ。危うく、ティミーに怪我させるところだったよ」

 ヴィゴに続いてカウリも慌てたように駆け寄ってきてレイにお礼を言う。

 二人と顔を見合わせて嬉しそうに笑うレイに、隣に座ったままのティミーは今更襲ってきた恐怖のあまり目を見開いたまま固まっていたのだった。



「へえ、さすがはレイルズだなあ。咄嗟にあれだけの強度の合成魔法を発動出来るのなら、もう充分現場で扱えるんじゃね?」

 今回は完全に出遅れてしまったルークは、少し離れたところで完全に観客気分で眺めながらそう呟いていた。

「ううん。連戦はここまでか。カウリもなかなか頑張ったじゃんか。それにしても今回は、それぞれに意外なくらいに色々と変化が見えた勝負になったなあ」

 感心したようにそう呟きながら小さく笑って指を折って数え始める。

「さっきのレイルズの、緊急時の咄嗟の反応の速さにしてもそうだし、今日の主役であるカウリが、竜騎士の剣を賜って意外なくらいにしっかりと腹を括った事もそうだろう。それから若竜三人組の成長っぷり。三人とも見栄えまで考えて戦いつつも、最後はしっかりとカウリに不自然なく花を持たせて終わらせてたもんなあ。そしてマイリーだよ。彼が勝負事で勝ちを譲るなんて、間違い無く初めて見た。この間のアルジェント卿の屋敷での戦略室の会の会合の時もそうだったけど、これは本当に一体どういう心境の変化なんだ?」

 完全に面白がりつつ、そう呟いて一つずつ数えていく。

「まあ、どれも悪い変化じゃあないから、良いんだけどさ」

 折った指を見て笑顔になったルークは、そう呟いて自分を見ていたブルーのシルフに笑いかけた。

「さっきのあの光の盾は、レイルズがやったんだろう?」

『勿論、我は一切手出しはしていないよ。ターコイズは慌てておったがな』

 面白がるようにそう言って笑ったブルーのシルフの横に、少し憮然としたターコイズの使いのシルフが現れて座る。

『一応我も咄嗟にシルフを通じての盾を送ったのだぞ』

『まあ少々慌てたので大した強度ではなかったがな』

『ああ、それであんな風に優しく受け止められたのだな』

 納得したようなブルーのシルフの言葉に、ルークが不思議そうに考える。

「ん? どういう意味だ?」

『簡単な事だよ。レイルズが放った光と風の合成魔法による盾だけでは、強度の面で少々心もとない。だが、そこにターコイズの使いのシルフが放った少々弱い風の盾が重なり、いわば二重の盾というよりも、分厚い布が重なったような状態になったのだよ。大した強度ではないが、二重になっていた為に飛んできた剣を受け止められるだけの強度はあり、なおかつ跳ね返すほどの強度は無かったわけだ。これはまた偶然とはいえ面白い事になったものだ。後ほど検証してみるとしよう』

 それを聞いて、ルークは感心したように頷く。

「へえ、あの剣がその場に落ちたのはどうしてかと思ったら、そういう事か。これは今後の合成魔法に関する研究材料が増えたな」

 苦笑いしながらそう呟くと、一つ深呼吸をしてからカウリ達のところへ駆け寄って行った。

 そしてマイリーと話を始めたルークをブルーのシルフは満足そうに眺めた後、ティミーを助け起こして話をしていたレイのところへ飛んで行ったのだった。

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