カウリ対ルーク!
「いやあ、これは素晴らしい。なかなかに見事な戦いぶりじゃあないか」
笑ったマイリーの拍手しながらの言葉に、しゃがみ込んでいたカウリが顔を上げて嫌そうに横目でマイリーを見る。
「お褒めいただき、恐悦至極〜〜!」
座ったまま完全に投げやりな様子で深々と一礼すると、またそれを見てあちこちから笑いがもれる。
「ほら、遊んでないで起きろって。次は俺だぞ」
嬉しそうなルークの声に、カウリはもうこれ以上ないくらいの大きなため息を吐いた。
「冗談抜きで、もうそろそろ限界なんっすけどねえ」
「ええ、あそこまで見事な戦いぶりを見せておいて今更それはないと思うけどなあ。で、得物は何でするんだ。選ばせてやるぞ」
完全に面白がっているルークの言葉に、カウリはもう一度大きなため息を吐いて立ち上がった。
「すんませんけど、その前にちょいと水飲んで来ます」
やや疲れた口調でそう言うと、壁面に用意されている水を飲みに行った。
「はい、どうぞ!」
水場担当の兵士の一人が、満面の笑みで木製のカップに入った水を即座に差し出してくれる。
「おう、ありがとな」
右手に木剣を持ったまま左手でカップを受け取り、その場で立ったまま一気に飲み干す。
「うああ、染み渡る〜〜もう一杯くれるか」
空になったカップを差し出したカウリの言葉に、これまた満面の笑みの別の担当兵士が即座に進み出て、ピッチャーに入った水を入れてくれる。
入れてもらった水を今度は少しゆっくりと飲む。その様子を周りにいた一般兵達は目を輝かせて見つめていた。
「ごちそうさん」
空になったカップを返しながらそう言うと、首を回しながらゆっくりと歩いて戻って行った。
「格好良いよなあ……」
「なんて言うか、大人の魅力だなあ」
「だよなあ」
「やっぱり格好良いよなあ」
その後ろ姿を見つめながら何人もの兵士がそう呟くのをうっかり聞いてしまったカウリは、恥ずかしさのあまり吹き出しそうになるのを必死で堪えていたのだった。
「おかえり。それで得物は何にするんだ?」
手にしていた棒に寄りかかるみたいにして待っていたルークの言葉に、カウリは苦笑いして自分の木剣を軽く上げた。
「じゃあ、もうこれで良いっす」
そう言って、手にした木剣を軽く両手で持って振って見せる。
「おう、了解だ。じゃあちょっと待ってくれよな」
ルークは嬉しそうにそう言うと、すぐにいつも使っている自分の木剣を持って戻って来た。
「しかし、マジでそろそろ腕が限界なんっすけどねえ」
「そんな事言うなよ。次のマイリーが待ち構えてるのにさあ」
構えたままチラリと横目で見ながらそう言われて、カウリも構えたまま横目で示された方を見る。
そこにはにんまりと笑ったマイリーが、二組のトンファーを持ってこっちに向かって手を振っていたのだ。
堪えきれずにカウリが吹き出す。
「隙あり!」
ルークがそう叫んで上段から打ち込んでくる。
「どわあ〜! 卑怯なり〜〜〜!」
笑いながらそう叫び、下からすくい上げるようにして打ち込まれた木剣を弾き返す。
「やるじゃん」
妙に嬉しそうにルークがそう言い、そこから激しい打ち合いとなった。
「だ、か、ら! もう、限界、なんっす、って!」
怒涛のごとく打ち込んでくるルークの木剣を、文句を言いつつも全て受けて流すカウリを見て、見学している兵士達の間から感心する声が上がる。
レイとティミーは少し離れたところで並んで座り、言葉も無く夢中になって二人の動きを必死になって目で追っていた。
「カウリ様、お強いとは聞いていましたけど……なんて言うか、すごいですね」
半ば呆然としたティミーの呟きに、レイも満面の笑みで頷く。
「口ではいつも文句や泣き言ばっかり言ってるくせに、カウリっていざとなったらすっごく強いんだよね。それにここへ来てから相当筋肉もついたし、体力もついたって言ってた。一番問題だった持久力もかなり上がったみたいだしね」
「確かに年齢的な事を考えると、持久力は少し落ちて来そうですから、苦労なさったのでは?」
「でも、目の前に同い年のマイリーとヴィゴって最強のお手本がいるんだから、年齢を理由に自分には出来ないとは言えないもんねえ」
「ああ、それは確かにそうでしょうね。うわあ、言われてみればそれも相当大変かも」
「大変だろうねえ」
「ですよねえ」
完全に観客気分の二人がのんびりとそんな会話をしている目の前で、こちらはそんな余裕など全くない戦いが続いていた。
「なんだかんだ言ってやるじゃんか」
打ち合わせたまま力比べになった時、顔を寄せて妙に嬉しそうにそう言って来たルークの言葉に、カウリが顔をしかめて見せる。
「これでも一応、今日の主役なんでねえ。まあ、恥ずかしくない程度には頑張ってますよ。でもそろそろ退場しても良いっすか?」
「次が待ってるのに、それは駄目だろうが!」
笑ったルークが剣を弾き、即座に対応したカウリが飛んで下がる。
「そうは言ってもねえ!」
文句を言いつつ飛び込んで来たカウリが上段から木剣を叩き込む。
「痛ってえ!」
部屋中に響くような鈍い音が大きく響いた直後に、二人同時の悲鳴が重なり、同時に木剣を手放した二人が後ろに転がって離れる。
「うわあ、折れた!」
兵士達の悲鳴のような声が上がる。
真ん中やや根元に近い位置で豪快にへし折れた二本の木剣が、交差して重なった状態のままで床に落ちる。
「おお、やるなあ」
「あれを叩き折るとは、二人揃って馬鹿力の持ち主だなあ」
呆れたようなマイリーとヴィゴの呟きに、仰向けに転がっていたルークとマイリーが同時に吹き出してその場はまたしても笑いと歓声に包まれたのだった。




