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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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片手剣と盾

「ほら早く!」

 嬉々として自分を促すレイを見て、カウリは手にした木剣を無言で見つめた。

「なあ、ちょっといいか」

 不意に何かを思いついたらしく、にんまりと顔を上げて笑ったカウリを見てレイが不思議そうに首を傾げる。

「せっかく片手剣を拝領したんだから訓練もこれでやってみないか? お前も、これの扱い方の訓練はしてるだろう? ほら、こっちこっち」

 そう言ってレイルズを手招きして、訓練用の道具が置いてある一角へ連れて行く。

 何事かと、竜騎士達も興味津々でカウリのする事を見つめていた。

 カウリが示して見せたのは、訓練用に刃を潰してある片手剣と小型の丸い革の盾の並んだ一角だ。

 これらは主に歩兵が使う一般的な装備の一つで、ルークやヴィゴが持つ両手で扱う剣と違い基本的に右手のみで扱う剣だ。準備されている訓練用の片手剣の長さは様々だが、カウリの持つ竜騎士の剣よりはやや短めの直刀になっていて、それでもこれも充分に打ち合えるだけの長さがある。

「ええ、そりゃあもちろん訓練はしてるけど……」

 レイが普段使っているのは両手剣を模した木剣だが、もちろんさまざまな武器の取り扱いについても基本的に一通りは習っている。

 それに言われてみれば、確かにカウリが拝領したのは片手剣なのだから、これで手合わせを希望するというのも理にかなっている気がした。

「よし、じゃあこれでやろうぜ! 俺もこれで手合わせするのは久し振りだよ」

 レイが拒否しなかったのを見たカウリは嬉しそうにそう言って、早速自分の武器を選び始めた。

「わかりました。じゃあこれでお願いします」

 レイも笑って、自分用の剣と盾を選んだ。



「成る程。考えたな」

 少し離れたところから、改めて武器となる片手剣を選んでいるレイとカウリを見ていたヴィゴが苦笑いしながらそう呟く。

「どういう意味ですか? 片手剣だとカウリの方が有利になる?」

 隣で見ていたタドラが、不思議そうに首を傾げながらそう質問する。

「まあ、間違いなく有利だろうな。レイルズにももちろん片手剣の取り扱いは一通りは教えたが、それはあくまでも知識としての指導であって、さほど実戦的な指導はしていない。だが、カウリは後方支援の兵士として、長年片手剣と盾を持った訓練は定期的に行っていたからな。年季が違う」

「ああ成る程。言われてみればそうですね。へえ、考えたな」

 ロベリオ達も、ヴィゴとタドラの話を聞いて感心している。

 彼らの前では、ようやくそれぞれの武器と盾を選び終えた二人が、改めて進み出て向かい合うところだった。



「では、よろしくお願いします!」

 二人とも右手に片手剣、左手には直径50セルテほどの革製の丸盾を装備している。

 革製とは言っても、中心部分と盾の周囲には鉄の板が打ち付けられていて、防御力は充分にある。

「おう、よろしく!」

 笑ったカウリの言葉とともに、手向い合って一礼する。

 それから手にした片手剣を軽く交差させて打ち合せる。そして次の瞬間から激しい打ち合いが始まった。

 身長ではレイに利がある。上からの打ち下ろしは確実にレイの方が有利だろう。

 しかし、逆にカウリは低く構えて重心を低くしてしっかりと受ける体勢だ。

 しかも力一杯上段から打ち込んだレイの剣を、カウリは軽々と左手に構えた盾で横にいなして流してしまう。

 盾の使い方も、体の捌き方も、明らかにカウリの方が数段上だ。

「ええ、ちょっと待って!」

 勢いに押されて思わず下がったレイが、思わずそう声を上げる。

「ここで待てと言われて待つ馬鹿はいない!」

 笑いながら一気に攻め込むカウリの大声に、手を止めて二人の手合わせを見ていた兵士達がどっと笑う。

「カウリ様、頑張れ!」

「レイルズ様も負けるな!」

 口々に兵士達が二人の応援を始める。

「おうおう、人気者だねえ」

 笑ったカウリがそう言って、レイが打ち込んできた剣を盾を使って横に払う。



 カウリは、この盾の使い方がとても上手い。

 レイはどうしても腕力に頼りがちになってしまい、動きが大振りになるのだ。しかし、カウリのそれは必要最低限の動きで攻撃してくる剣を軽々と捌いている。



「ならこれでどうだ!」

 大柄な身長に任せて上から抑え込むようにして覆いかぶさろうとした瞬間、カウリがこれ以上ないくらいににんまりと笑うのが見えてレイは自分の失敗を悟った。

「これを待ってたんだよ!」

 大きく叫んだカウリが、低く構えたままで逆にレイの屈んだ胸元に飛び込んでくる。

「そりゃ!」

 次の瞬間、レイの胸元に丸盾がまともに叩きつけられて、あおりを食らったレイが後ろに吹っ飛ぶ。

 シールドバッシュと呼ばれる、盾を使った攻撃方法だ。

 咄嗟に受身をとって横に転がったが、即座に襲いかかってきたカウリに止められ胸板を踏みつけられてしまった。そしてそのまま喉元に片手剣が突きつけられってしまった。



「参りました」

 これは完敗だ。

 素直に負けを認めてそう言うと、右手の剣を放して両手を上げた。

 すぐに剣を引いて後ろに下がってくれたので、大きく深呼吸を一つしてから起き上がる。

 改めて剣を拾い、カウリと向かい合って一礼した。

「ありがとうございました!」

 まだまだ自分の未熟さを思い知らされた一戦だったが、カウリは違ったようだ。

 一礼して下がった瞬間、大きなため息と共にその場に座り込んだ。

「うああ、めちゃくちゃ怖え。マジで全員とこれって絶対無理〜〜〜〜!」

 竜騎士となっても相変わらずのいつもの物言いに、見ていた兵士達から次々に吹き出す音が聞こえて、その後に訓練所は大爆笑と拍手に包まれたのだった。

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