いつもの朝の光景と朝練の予定
翌朝、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、寝ぼけまなこでベッドから起き上がって大きな欠伸をした。
「ふああ、昨夜は夢中になってお喋りしてたから、ちょっと遅くなっちゃったんだよなあ。まだ眠いや」
大きな欠伸の後にそう呟き、頭を掻こうとして寝癖だらけの髪に気がついて小さく吹き出す。
「もう、また僕の髪の毛で遊んだね。駄目だって言ってるのに」
口を尖らせながら文句を言ったが、残念ながら笑いながらの文句だったので、集まってきたシルフ達は皆平気そうに笑っている。
『だって主様の髪は大好きなんだもん!』
『大好き大好き!』
『ふわふわで可愛いんだもん!』
『可愛い可愛い!』
何人ものシルフ達が、口々に可愛い可愛いと笑っているのを聞いてレイも吹き出す。
「ええ、僕は可愛いより格好良いって言って欲しいんだけどなあ」
『もちろん主様は格好良いよ〜〜〜!』
『格好良い!』
『良い良い!』
笑いながら即座にそう答えて揃ってうんうんと頷くシルフ達を見て、レイは笑って首を傾げる。
「じゃあ、ちょっと尋ねるけどさ。格好良いって意味、分かってる?」
すると、尋ねられたシルフ達は露骨に慌てたようにふわふわと飛び回り、おかしくてたまらないとばかりに揃って笑い出した。
『格好良いは格好良いだよね?』
『それは何?』
『何だろうね?』
『何だろうね?』
「ほら、やっぱり分かってない〜〜!」
笑ったレイの言葉に、シルフ達が一斉に笑いながら逃げ出した。
『やっぱり主様は可愛い』
『可愛い可愛い』
『可愛くて格好良いのが良いんだって!』
『じゃあ可愛くて格好良い!』
『それは何?』
『何だろうね?』
少し離れた頭上でまた集まったシルフ達が、好き勝手にそう言って大はしゃぎしている。
「やっぱり僕は可愛い認定なんだね。ううん、これはもうちょっと頑張らないと」
笑って、近くに飛んできて鼻の頭にキスをくれたシルフにキスを返すと、大きく深呼吸をしてから立ち上がった。
そしてそのまま窓辺へ行きカーテンを開いて窓も開く。
「ううん、一気に気温が下がってきたね」
ひんやりとした風が吹き込んでくるのに気づき、全開にした窓を少しだけにする。
「おはようございます。朝練に参加なさるのなら、そろそろ起きてください」
その時、ノックの音と共に白服を手にしたラスティが入って来る。
「おはようございます。今起きたところ。じゃあ顔を洗ってきます」
誰もいないベッドを見て、慌ててこっちを見るラスティに笑って手を振ってから急いで洗面所へ向かう。
「お手伝いします。今朝の寝癖はなかなかに豪快ですよ」
白服をベッドに置いたラスティが来てくれたので、急いで顔を洗って寝癖を直すのを手伝ってもらった。
「おおい、早くしないと置いていくぞ〜〜」
白服に着替えて靴下を履いていた時、ノックの音がしてルークが顔を出した。
「ああ、待ってください! 靴を履いたら準備完了です!」
朝練用の柔らかい鹿革の靴を履いたレイは、大急ぎで靴紐を結んだ。
「よし、準備完了! それじゃあいってきます!」
立ち上がって軽く飛び跳ねたレイは、襟元を引っ張りながらそう言って大急ぎで廊下へ駆け出していった。
相変わらず元気なレイの後ろ姿を見送ったラスティは、小さく笑って寝乱れたシーツを剥がした。
「おはようございます!」
「おう、おはよう。相変わらず元気だねえ」
からかうようなカウリの言葉に、レイは笑って胸を張った。
「ええ、元気は無いよりもある方が良いでしょう?」
「あはは、確かにそうだな。じゃあ、俺の分もしっかり頑張ってくれ」
朝から何故か妙に疲れているカウリの言葉に、若竜三人組とティミーが揃って吹き出す。
「さて、新しい竜騎士様の初めての朝練だぞ〜〜〜!」
「ヴィゴ達が張り切ってたからね!」
「頑張ってね!」
ロベリオの言葉に続き、ユージンとタドラも笑いながらそう言ってカウリの背中を叩く。
ルークとティミーが揃ってまた吹き出すのを見て、レイもその言葉の意味に気がついた。
「ねえ! もしかして、ヴィゴと一対一?」
すると、満面の笑みのルークが振り返って大きく頷いた。
「ヴィゴだけじゃないぞ。これも竜騎士隊の伝統でな。新しく竜騎士になった直後の朝練では、殿下を含む俺達全員と総当たり。つまり、全員と木剣で一対一で手合わせするんだ」
「ちなみに今回は、本人を含む全員の同意の上で、本来は見習いは参加しないんだけどレイルズ君にもカウリとの対戦の権利が与えられてるんだ。さて、どうする? 残念だけど無理そうならやめておくけどさ」
そう言ったルークだけではなく、若竜三人組とティミーも満面の笑みで自分を見つめている。
「もちろん喜んで参加させていただきます!」
目を見開いて即座にそう答えたレイの言葉に、カウリは情けない悲鳴を上げて顔を覆ったのだった。




