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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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蒼の森の夜

「ごちそうさまでした。はあ、今年も一番大物の収穫の目処が立ちましたね。まだまだやる事はありますが、なんとか一区切りついたと思っていいでしょうね」

 食事を終えて、洗い場に食器を運んだタキスの言葉に、ニコスとギード、そしてアンフィーも揃って笑顔で大きく頷いた。



 その日、蒼の森のタキス達は久し振りにゆっくりと夕食を食べ終え、なんとなく四人揃って居間でのんびりと寛いでいた。

 手早く洗い物を終えたニコスが酒のつまみを準備し始めたのを見て、ギードは戸棚から数本の酒を取り出していそいそと戻ってきた。

「まあ、今日はこれで乾杯してもよかろうて」

 そう言って、嬉しそうに未開封の三十年もののウイスキーの瓶を顔の横に掲げて笑って見せる。

 それを見た三人が揃って吹き出し、これまた揃って拍手をしたのだった。

 普段、夕食の際に彼らがよく飲んでいるのは、ニコスが作っている自家製の果実酒か、ギードがいつもブレンウッドへ行った際に樽で買っている安価なワインがほとんどだ。夜、なんとなく居間で四人で集まって飲んでいるのも、ほとんどがそれらの安価なお酒だ。

 それなりの値段のワインやウイスキーなどのお酒も飲まないわけではないが、いつも飲んでいるという程ではない。

 竜騎士達が、ここへ来るたびに木箱に詰めて沢山持ってきてくれた年代物のウイスキーやブランデー、ワインなどのここではそうそう手に入らない高級なお酒の数々は、冬至や夏至、降誕祭などの季節の節目となる日。あるいはシヴァ将軍達がロディナから定期的に来られて、大人数で食事をした後の交流の時間の際などに開けているくらいなのだ。

 しかし、今日は秋の収穫物の中でも最大に手間と時間のかかる小麦の収穫を全て終えたのだ。とはいえ、この後には干した麦の穂を脱穀したり製粉したりと、まだまだパンを焼くための小麦粉にするには多くの工程を経なければならない。しかし一番手間と労力と時間のかかる収穫を終えたのだから、これは祝っても良いだろう。

 つまみを準備して戻ってきたニコスが席についたのを見て、ギードは手にした三十年もののウイスキーの口を覆っている硬い蝋をナイフを使って掻き落とした。

 手早く封を開けて、用意された氷の入ったグラスにゆっくりとウイスキーを注ぐ。

「では、秋の御恵みを与えてくださった精霊王に感謝と祝福を!」

「精霊王に感謝と祝福を!」

 一番の年長者であるタキスの乾杯の言葉に続き、三人がそれぞれのグラスを手に乾杯の言葉を精霊王に捧げた。



「ううん、さすがは三十年もの。香りが違いますねえ」

 アンフィーがグラスを手に、うっとりと香りを楽しみながらそう呟く。

「ふむ、確かに良い香りじゃわい」

 ギードも、ゆっくりと口に含んだそれを楽しみつつ目を閉じて何度も頷いている。

 ニコスとタキスは、揃ってうんうんと頷きつつ黙って香りを楽しんでいた。

「それにしても驚きました。私は母方の実家がロディナの穀倉地帯にあるんですよ。だからトリケラトプスを使ったすごい麦の収穫方法があるって話は何度か聞いた事がありました。正直、最初は冗談だろうと思っていたくらいなんですけどねえ。詳しいやり方の話を聞いて、すごい事を考える人がいたもんだとそりゃあ感心したのを覚えていますよ。まさかその開発者がギードだったなんてね」

 アンフィーのしみじみとした呟きに、真っ赤になったギードが飲み掛けのウイスキーを噴き出して咳き込んでいる。それを見てニコスとタキスが揃って手を叩いて大笑いしていた。

「あれはのう、とにかく手間のかかる麦の収穫を道具で何とか出来んかと、無精者が必死になって考えた結果じゃよ」

「無精者?」

 驚いたアンフィーの言葉に、ギードは笑いながら大きく頷く。

「そうよ。これ以上ない無精者の考えであろう? 収穫を自分でやらずに、トリケラトプスと道具でなんとかしようなどな」

「え、いや、ですが……」

「しかしまあ、その不精者が必死になって考えた結果、その道具でワシだけでなく大勢の人が楽出来るようになったのだから、不精者も悪くはなかろう? ほんに人生何が起こるか分からぬもんじゃなあ」

「成る程。ギードは働き者の不精者って訳だな」

 大真面目なニコスの言葉に、横で聞いていたタキスが吹き出す。

「自分が楽して収穫したいが為に、せっせと日々研究と工夫を重ねる。成る程、確かに働き者の無精者だのう」

 その言葉に、四人全員揃って大きく吹き出し、大爆笑になったのだった。



 ようやく笑いの収まったその時、机の上に何人ものシルフ達が現れて座るのを見て四人の目が輝く。

『こんばんはレイルズです』

『今お話ししても大丈夫かな?』

「もちろんですよ。レイ、元気でやっていますか?」

 いつもの聞き慣れた、少し照れたようなレイの声に、笑顔のタキスがいつものように代表して返事をしたのだった。

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