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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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葉巻とワインと歓談の時間

「はあ、葉巻が美味え……」

 しみじみとそう呟いてゆっくりと葉巻越しに息を吸い込んだカウリは、天井を向いて煙を思いっきり噴き出してそのまま背もたれに倒れ込んで脱力してしまった。

「おいおい、気を抜きすぎだぞ。火種をこぼしたらどうするんだって」

 笑ったルークがそう言い、ソファーに倒れ込んだカウリの手から葉巻を取り上げて机に置かれた大きな灰皿に置く。

「ああ、もう駄目。限界っす」

 しばらく天井を見上げたままで放心していたが、大きなため息と共にそう呟き腹筋だけで起き上がったカウリは、手を伸ばして取り上げられた葉巻をもう一度口にした。

 少し短くなった葉巻を、ため息を吐いて眺めてからまたゆっくりと吸い込む。

「お疲れ様。ほら、ルークの言う通りだぞ。しっかりせぬか」

 ディレント公爵が、苦笑いしながらやって来てカウリの隣に座る。

「あはは、恐れ入ります」

 短くなった葉巻を灰皿でもみ消したカウリは、困ったようにそう言ってディレント公爵を振り返る。

「しかしまあ、なかなかに立派であったな。な、そう思うであろう?」

 視線は、カウリを挟んで反対側に座っているルークとレイに向けられている。

「はい、すっごく格好良かったです!」

 ワイングラスを持ったレイの無邪気な答えにディレント公爵とルークが吹き出し、カウリが情けない悲鳴を上げて顔を覆うのは同時だった。

「もう勘弁してくれ〜〜!」

「ええ、どうしてだよ。格好良かったから、格好良かったって言ってるだけなのに!」

 口を尖らせるレイの言葉に、ルークとディレント公爵だけでなく、周りで聞いていた人たちも次々に吹き出して周りは大笑いになった。



 祝賀会が無事に終わり、竜騎士隊の皆と一緒にレイとカウリが連れて来られたのがこの部屋だ。

 かなり広いその部屋には、あちこちに大きなソファーが置かれていて好きに寛げるようになっている。机の上にはさまざまなワインと摘み、そして灰皿と葉巻の入った木箱が置かれている。

 また別の机には、陣取り盤が幾つも並べられている。

 ここは、香りを楽しむ会の倶楽部が主催している祝賀会の二次会で、戦略室の会や主だったいくつかの個人主催の倶楽部が協賛して開催しているのだ。

 参加しているのはある一定年齢以上の主だった貴族の男性のみで、特に竜騎士隊に関係している人はほぼ全員が参加している状態だ。そのため、軍関係者が若干多い顔ぶれになっている。

 この二次会は、叙任式を終えた新たな竜騎士の為の祝賀会の後に開催されるのが恒例で、祝賀会の際にはゆっくり話が出来なかった彼と、ソファーに座って寛ぎながら葉巻やワインを片手に話をするのが主な目的なのだ。

 当然、カウリは座ったまま動く事が出来ず、さまざまな人達に勧められるままに葉巻を吸い、ワインを飲んでは談笑しているのだ。

 ようやく一通りの挨拶が終わり、最後のディレント公爵との歓談の時間になったのだった。

 これらの会にも暗黙の了解ごとが多々あり、基本的には身分の低い人から挨拶をする事、葉巻やワインの無理強いはしない事、縁談話は禁止など、これもなかなかに高度な知識と駆け引きが必要な社交の場なのだ。

 しかし、カウリはなんだかんだと文句を言いつつも、押し寄せて来るさまざまな人々と笑顔で挨拶を交わし、さまざまな話題に怯む事なく対応していた。

 その堂々たる姿に、皆感心しきりだった。



 両公爵がカウリとの歓談を済ませれば、ここからは無礼講となり大体が陣取り盤の対決になだれ込むのがお約束だ。

 カウリも陣取り盤はそれなりに強い事は有名なので、普段あまり直接彼と接触の無い人達は、早々に陣取り盤の周りに集まって彼が来るのを揃って待ち兼ねている状態だ。

「ほら、まずは私と一手お願いしたいね」

 ワイングラスを持ったゲルハルト公爵に笑顔でそう言われて、新しい葉巻に火をつけたばかりだったカウリが苦笑いしながら立ち上がった。

「ご指名とあらば仕方ございませんねえ。灰皿は……ああ、ありますね。では失礼します」

 隣に座ったディレント公爵に軽く一礼すると、カウリはゆっくりと立ち上がって葉巻を手にしたままゲルハルト公爵の向いのソファーに座った。

 あっという間に人だかりが出来て、カウリが見えなくなる。



「大人気だね」

 新しいワインをもらったレイが、笑顔でその様子を見ながら無邪気に感心している。

「まあ、なかなか頑張ってると思うぞ。ううん、それにしても見事な剣だったな」

 葉巻を吸いながらのルークの呟きに、同じ事を思っていたレイも頷く。レイの周りは、シルフ達が風の幕を張ってくれているので葉巻の煙は届かず、彼の少し弱い喉を守ってくれている。

「真っ直ぐじゃなくて、少し湾曲してたね」

 ワインを飲みながら、先ほど別室で見せてもらった新しい竜騎士の剣を思い出してレイは笑顔になる。

「あれはサーベル。片刃の片手剣だね。何でも、カウリが一番得意なのがあの片手剣らしいよ」

 マイリーが持つ剣も、同じく片刃のサーベルだ。しかし剣自体はやや細身でほぼ真っ直ぐなのに対して、カウリの剣はやや幅広で剣先部分が少しだけ湾曲したしっかりとした作りになっている。

「へえ、そうなんですね。剣にもいろんな種類があるんですね」

 感心するレイは、自分の持っている剣を思い出して少し考える。

「そっか、僕の剣は両手でも片手でも持てるように柄の部分がやや大きくてガードの部分もここだけなんだね」

 そう言って、指を交差させてばつ印を作る。

「だけど、カウリやマイリーが持つ片手剣は、基本的に手を守るためのガードが握った時の甲側に付いているんですね」

 そう言って、ばつ印の横に丸く弧を描いて見せる。

「まあ、俺達が持つ竜騎士の剣は、実際に斬り合うっていうよりは、術の発動を助ける杖としての役割の方が大きいからなあ。だから、もちろん実用性ってのもあるけど、本人の好みや体格がかなり考慮されて、どんな剣にするのか決まるんだって聞いたよ」

「へえ、そうなんですね。確かにヴィゴの持つ剣は大きくて長い剣だもんね」

「一応俺のもそれなりにデカい剣だけど、ヴィゴが持ってるのは、あれは別格だよ。普通はあんなデカいのは持たない。しかもいざとなったら、ヴィゴはあれを片手で振り回せるんだからなあ」

「それは僕にも無理です!」

 苦笑いしながら首を振るレイを見て、ルークも同じく苦笑いしながら首を振った。

「俺でも無理。でもまあ、ヴィゴを俺達と同列に語るのがそもそも間違ってる。あの腕力は普通じゃないからなあ」

 うんうんと頷き合っている二人の会話を聞いて、若かりし頃にはヴィゴ並の腕力の持ち主であり、戦斧の達人との異名を取ったディレント公爵は、素知らぬ顔でそんな彼らの会話を聞きつつ新しい葉巻に火をつけていたのだった。

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