宣誓
「精霊王に感謝と祝福を。私、カウリ・シュタインベルグはここに竜騎士としての栄誉と義務を負い、その証たる竜騎士の剣を受け取る事を宣誓します」
顔を上げたカウリは、堂々とそう宣誓する。
笑顔で頷いた陛下が、カウリの為に用意された一振りの剣を手にゆっくりと一歩前に進み出る。
そして、手にしたその剣を横向きにして両手でカウリの前に差し出す。
カウリはそれを両手でしっかりと受け取り、そのままゆっくりと立ち上がる。
やや緑がかった銀色の、紛う事なきミスリルの輝きをまとった少しだけ湾曲したやや幅広の片刃の剣が現れる。
日の光を受けて輝くその剣を手に、一度高々と剣を突き上げる。
その瞬間、舞台の前に大人しく座っていたカウリの竜であるカルサイトが起き上がり、大きく翼を広げて首をもたげた。
そして天に向かって高々と雄叫びを上げたのだ。
決して人には出せぬその力強くも大きな雄叫びは、集まってきたシルフ達によって更に大きく拡声され更に木霊のように幾重にも響き渡り、一の郭や城は元よりオルダムの街中にまで届き響き渡った。
その直後、街中の神殿の鐘が一斉に打ち鳴らされ、まるで竜の雄叫びに呼応するかのように幾重にも木霊して響き渡ったのだった。
それに続いて観覧席から、そして整列していた兵士達からも一斉に地響きのような歓声が上がり、その後に大きな拍手が沸き起こる。
カウリはゆっくりと持っていた鞘に一旦剣を収めるとそのままその場に跪き、改めて剣を抜いた。
歓声がぴたりと止み、会場は水を打ったように静まり返る。
祝福の鐘の音だけが、遠くから幾重にも重なり響き渡っていた。
いつもは賑やかなシルフ達さえもが、目を輝かせて一斉に押し黙ったままでカウリを見つめている。
左手に持った鞘はそのまま床に置き、抜いた剣をゆっくりと返してピンと伸ばした両手で持ち、切っ先を自分の胸元に向ける。
「古の誓約に則り、新たなる竜騎士として我ここに宣誓する」
自らの胸元に剣を向けたままのカウリは、顔を上げ臆する事なく正面から陛下を見上げる。
陛下もまた、真正面からその視線を受け止めている。
「我守るべし。竜との絆と精霊を。我守るべし。我らが民とその領土。我守るべし、我の誇りと我の意思。精霊王よ。我が行いを見届け給え」
やや頬を赤くしつつも、堂々と宣誓するカウリは文句なしに格好良い。
レイは、瞬きすら忘れて目の前の光景を見つめていた。
「私、カウリ・シュタインベルグはここに竜騎士としての剣を取り、我が伴侶の竜と共に陛下にこの剣を捧げ、永遠の忠誠を捧げる事をお誓い申し上げます」
「カウリ・シュタインベルグの剣、確かに受け取った」
剣を受け取った陛下が、そっとその剣に口付けてから抜き身のままの剣を横向きにしてカウリに返した。
跪いたまま剣を受け取ったカウリがゆっくりと立ち上がり、音を立てて一気に剣を鞘に収める。
その瞬間に合わせて、背後に整列していた竜騎士たちも一斉に腰の剣を軽く抜いてから音を立てて戻した。
聖なる火花が大きく散り、息を殺して誓いを見つめていたシルフ達が、一斉に大喜びで手を叩いてはしゃぎ回る。
「精霊王よ、御照覧あれ! 新たなる竜騎士に祝福を!」
堂々たるカルサイトの声が会場中に響く。
「精霊王よ、御照覧あれ! 新たなる竜騎士に祝福を!」
カルサイトの声に続いて、竜騎士一同も声を揃えて唱和する。
レイも、もちろん一緒になって出来るだけ大きな声で唱和したのだった。
再び起こったうねりのような大歓声と大きな拍手は、いつまでも鳴り止む事なく響き続けていたのだった。
「うああ〜〜〜! めちゃくちゃ緊張した〜〜〜〜!」
情けないカウリの叫び声に、大真面目にお祝いの言葉を言おうとしていたレイは、まるでいつもの自分のようなその叫びに堪えきれずに思い切り吹き出したのだった。
見事な宣誓のあと、まずは陛下が舞台から下り、続いてカウリがカルサイトに乗って会場を後にし、立ち会った竜騎士達も順に会場を後にしたのだった。
そのままラプトルに乗って城にある竜騎士隊専用の部屋へ戻ると、一足先に戻っていたカウリがソファーに倒れ込んでクッションに抱きついているところだった。
そして皆が戻って来た事に気付いて顔を上げたカウリの、開口一番の台詞がそれだったのだ。
思い切り吹き出すレイを見て、後ろで見ていた竜騎士隊の皆も、遠慮無く吹き出して部屋は暖かな笑いに包まれたのだった。
カルサイトの使いのシルフは、ソファーの背もたれに座ってそんなカウリの事をとろけるような甘い瞳で見つめていたのだった。




