叙任式の始まり
「うわあ、すごい人数だね」
到着したところでラプトルから降りて、そのままアルス皇子を先頭に歩いて会場へ入って行く。
大歓声に迎えられた広場には、以前アルジェント卿と一緒に見た時のような、仕切りのついた大きな特設の観覧席が作られていて、すでに大勢の着飾った人達で埋め尽くされていた。
広場の正面、ちょうど花祭りの時に陛下や竜騎士隊の観覧席があった場所には大きな舞台が設られていて、おそらくあそこでカウリの叙任式が行われるのだろうと思われた。
ゆっくりと進み出てきた竜騎士隊が舞台の横で止まる。
そしてその舞台の前には大きく広い場所が開けられていて、その後ろに第二部隊と第四部隊をはじめとしたオルダムにいる主な部隊が勢揃いして整列していた。
思わず第四部隊の中にマークとキムの姿を探したが、残念ながらここからは遠すぎて二人の姿を見つける事は出来なかった。
平然と前を向いて直立した姿勢を保ちつつも、頭の中では事前に聞いていた今日の進行を必死になって思い出しているレイだった。
「では行くよ。しっかり前を向いていなさい」
耳元で聞こえたマイリーの声に、レイは頷いて小さな声で返事をした。
ゆっくりと歩いて正面の舞台に上がり、舞台の後ろ側に真ん中を開けて整列する。そのまま舞台の上で会場の方を向いて直立したところで、おそらく司会進行役なのだろう第四部隊の士官が一人進み出て来た。
「ご起立願います」
会場中に響いた声が陛下の入場を告げ、観覧席にいた人達が一斉に立ち上がる。
そして、広場に整列していた兵士達も直立する。
レイも、改めて背筋を伸ばして直立した。
大僧正を背後に従えた陛下が入って来る。
大僧正は太った体に豪華としか言いようがない衣装を身に纏い、紫色のこれも豪奢な肩掛けをしている。
陛下は何度か見た任命の儀式の時のような豪華な衣装と、複雑な文様の刺繍が全面に渡って施された見事な肩掛けを身につけている。恐らくあれが陛下の第一級礼装なのだろう。
拍手の中を舞台中央まで進み出た陛下と大僧正が足を止める。
それを見て、上空を旋回していたカルサイトが舞台前に用意された広い場所にゆっくりと降下してくる。
ふわりと重さを感じさせない動きで着地したカルサイトの背から、第一級礼装の真っ白な制服を身にまとったカウリが降りてくる。
背筋を伸ばして地面に降り立ち、顔を寄せるカルサイトの首をそっと叩いてから舞台上へゆっくりと背筋を伸ばして悠々を歩いて行くカウリは、文句なしに格好良い。
「あれ、平気そうな顔してるけどさ、絶対にガッチガチに緊張してそうだな」
「確かに、いつもよりも動きが緩慢だな」
ロベリオとユージンが真顔のままでこっそりと内緒話をしている。
しかし、シルフを通じての内緒話なので残念ながら竜騎士隊の全員に筒抜けだ。そして恐らく陛下とカウリにも。
「覚えてろよお前ら」
笑みを含んだカウリの声が耳元で聞こえて、レイは笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。
そして、指定された定位置でカウリが止まったのを見て、司会役の士官が口を開く。
「一同、敬礼!」
司会役の士官の声に、兵士達が陛下に向かって一斉に敬礼する。カウリをはじめとした竜騎士隊も、全員がその声に合わせて揃って敬礼する。レイも、もちろん皆と一緒に出来るだけ角度を揃えて敬礼をした。
しばらくして陛下が頷き軽く片手を上げる。
「只今より、叙任式を執り行います。一同休め!」
また司会の士官の声が響き、兵士達が号令一下、一斉に敬礼を下ろしてまた直立する。
それを見て、観覧席にいた貴族の人達がゆっくりと着席する。
「本日、ここに精霊竜カルサイトの主にして竜騎士見習いであるカウリ・シュタインベルグを正式な竜騎士として認め、ここにその証である竜騎士の剣を贈る。カウリ・シュタインベルグ。前へ」
朗々と響く声で、陛下がそう告げる。
小さく息を飲んだカウリがゆっくりと二歩前へ進み出て、その場に片膝をついて跪く。左手は膝の上へ、右手は下げたままだ。
「古の誓約に則り、ここに新たなる竜騎士が誕生したことを精霊王に報告するものなり。常に精霊竜と共にあれ。そして精霊竜と共にこの国を守る大いなる力となれ。新たなる竜騎士に精霊王の祝福を」
まず、大僧正が進み出て、大きな宝石の付いたミスリル製の豪華な杖でカウリの肩をゆっくりと叩く。
大喜びのシルフ達が集まって来て、杖とカウリに交互に先を争うようにしてキスを贈っていた。
カウリは跪いたままで顔を伏せてじっとしている。
「カウリ・シュタインベルグ。顔を上げよ」
大僧正の言葉に、カウリがゆっくりと顔を上げる。
「精霊王に感謝と祝福を。私、カウリ・シュタインベルグはここに竜騎士としての栄誉と義務を負い、その証たる竜騎士の剣を受け取る事を宣誓します」
顔を上げたカウリは、堂々とそう告げる。
笑顔で頷いた陛下が、用意されていた新たな竜騎士の剣を手に一歩前に進み出る。
そして、手にしたその剣を横向きにして両手でカウリの前に差し出す。
顔を上げたカウリがそれを両手でしっかりと受け取り、そのままゆっくりと立ち上がる。
そして左手で鞘を持ち、ゆっくりとその剣を引き抜いた。
少しだけ湾曲した、やや幅広の片刃の剣が現れる。日の光を受けて煌めくそのやや緑がかった銀色のそれは、紛う事なきミスリルの輝きだ。
その輝きを目にした観覧席から、大きなどよめきと拍手が起こった。
この後に続く、あの剣に刻まれた誓いの言葉を思い出して、見ているレイは期待に目を輝かせていたのだった。




