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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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昼食会と出発

「おめでとう、カウリ。その白い竜騎士の制服がよく似合っていてよ」

 笑顔のサマンサ様の言葉にいつもよりも少し顔の赤いカウリも笑顔で頷き、そっとその痩せた手にキスを贈った。

 それから順に席につき、昼食が運ばれて来る。


『おめでとうなんだって』

『おめでとう?』

『おめでとうだよ!』

『何がおめでとうなの?』

『カルサイトの主様がおめでとうなんだって』

『おめでとうって何?』

『おめでとうって何?』

『何だろうね?』

『何だろうね?』


 用意された華やかな食事をいただいている間、呼びもしないのに勝手に集まって来ては楽しそうに大はしゃぎしながらそんな事を言い合って笑っているシルフ達に、レイは手を止めて顔を上げた。



 ちなみに膝掛けをしたレイの膝の上には、当然のように猫のレイが座って寛いでいるし、同じく膝掛けをしたカウリの膝の上には、猫のフリージアがこれまた当然のように収まりすっかり寛いでいる。

 もう二匹と変わらない大きさになっているタイムは、日当たりの良い窓辺に置かれたソファーでのびのびと手足を伸ばして寛いでいる。

「今日、カウリは竜騎士になるんだよ」

 無意識に猫の頭を撫でながらのレイの言葉に、お皿の縁に座っていたシルフの一人が振り返る。


『彼は既にカルサイトの主様だよ?』


 レイの言葉に、振り返ったシルフが首を傾げながら不思議そうにそう尋ねる。

 周りのシルフ達も、彼女の真似をして一斉に首を傾げる。

「えっと……」

 パンを手にしたまま、この無邪気なシルフ達に今日の事を何と言って説明しようか困ってしまう。

「陛下から、カウリへ唯一の新しいミスリルの剣を賜るんだ。ほら、俺達が持っているみたいな自分の竜の守護石の嵌った特別な剣だよ」

 苦笑いしたルークが横からそう言ってくれる。


『ミスリルは好き!』

『あれはとても良き音がするもの』

『ミスリルは好き!』

『ミスリルは好き!』

『良き音良き音』


 ミスリルと聞いたシルフ達が、一斉にそう言って嬉しそうに何度も頷く。

「今日はカルサイトも一緒だぞ」

 笑ったカウリの言葉にシルフ達がまた一斉に笑う。


『愛しき竜と共にあれ』

『愛しき主に祝福を!』

『愛しき竜の翼と共に』

『我ら良き風を送らん』

『愛しき竜に祝福を!』

『愛しき主に祝福を!』


 カウリに次々にキスを贈りながら、シルフ達が祝福の言葉を口にする。

 今日の叙任式が何なのかは理解出来なくとも、彼女達はその本質を理解している。

 つまり、愛しき竜とその主にとって、今日が良き日であるのだと。

「ありがとうな。これからもよろしく」

 笑ったカウリが指先に留まったシルフにそっとキスを贈るのを、その場にいた皆が笑顔で見つめていたのだった。

 目の前に次々に並べられる昼食とは思えぬ豪華な料理に舌鼓を打ちながら、その様子を見つめているレイも、もうこれ以上ないくらいにずっと笑顔でいたのだった。



「それでは後ほど会場で会おう」

 笑った陛下の言葉に、整列した竜騎士達が全員揃って敬礼する。

 まずは両陛下とティア妃殿下が退席し、続いて車椅子のサマンサ様が退席するのを見送ってから、竜騎士達もその場を後にした。

 別室に通されて少し休んだ後、カウリは迎えに来た兵士と一緒に別行動となり、レイは皆と一緒にそのまま外へ出て行った。

 そこにはラプトルが並んで待っていて、当然、レイの前にはいつも使っている鞍よりもかなり豪華な装飾の施された儀礼用の鞍を載せたゼクスが待っていてくれた。

 担当の兵士から手綱を受け取って軽々とその背に乗る。

「では行くとしよう。しっかりと胸を張って前を向いていなさい」

 耳元でマイリーの声が聞こえて、レイは真剣な顔で小さく返事をした。

 整列した兵士達に見送られて、ラプトルに乗った竜騎士達は二列に整列したままゆっくりと会場へ向けて出発したのだった。

 彼らの周りでは、うるさいくらいにシルフ達が大はしゃぎして手を叩いたり手を取り合って輪になって踊ったりしていたのだった。




 一方、一人だけ別行動となったカウリは、しばらく別室で待たされた後にいつもの本部横の中庭に来ていた。

 そこには、これもいつもよりも華やかな鞍を載せた彼の伴侶の竜であるカルサイトが待っていたのだ。

「お待たせ、シエラ。いよいよだよ」

 差し出された大きな頭に、小さくそう呟いたカウリが両手で力一杯抱きつく。

 目を閉じてゆっくりとまるで頬擦りするかのようにカウリに鼻先を擦り付けていたカルサイトは、静かに喉を鳴らし始めた。

 地響きのような、しかしとても暖かい音が中庭に響き渡る。

「はあ、緊張し過ぎて本気で心臓が口から出そうだ」

 俯いたまま小さくそう呟いて笑ったカウリは、大きく深呼吸を一つするとゆっくりと手を離した。

 改めて自分の竜を正面から見つめる。

「行こう。俺達の剣を頂きにな」

「ええ、行きましょうカウリ。大丈夫ですよ。私は常に貴方と共にあります」

 とろけるような優しいカルサイトの言葉に、大きく頷いたカウリはそのままカルサイトの腕に上がり、そこから一気に背中の鞍に飛び乗った。

 中庭に整列していた多くの兵士達が、それを見て一斉に直立して敬礼する。

 大きく翼を広げたカルサイトは軽く一度だけ羽ばたいて、そのまま垂直に羽ばたきもせずにゆっくりと上昇していく。

 精霊竜は、空を飛ぶ鳥とは全く別の原理で空を飛んでいる。

 それはつまり、風の精霊であるシルフ達の加護によりその巨体を浮かせ、翼に風を受けて飛ぶのだ。

 カウリの竜の姿を見た城から、ものすごい歓声と拍手が沸き起こる。

 兵士達に敬礼を返したカウリは、そのままゆっくりと叙任式の会場である花祭り広場へカルサイトと共に向かったのだった。

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