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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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新たな見習い巫女の事

「ええ、一体何の話なんですか? しかも僕に関係あるって何なんですか。うう、全然分からないけど気になるよう」

 早々にパイを食べ終えたレイが、お代わりのカナエ草のお茶を飲みながら困ったように眉を寄せてルークを見る。

「ああ、あの件か」

 笑ったルークが口を開こうとしたその時、かなり小さめに切ったパイを食べ終えていたヴィゴが、唐突にそう言って一人で納得するのを隣に座ったカウリが驚いた様に振り返った。

「あれ、ヴィゴは何か知ってるみたいな口振りっすけど、一体何なんですか?」

 レイと同じく全く話が分からないカウリの言葉に、カナエ草のお茶を飲んでいたヴィゴがマイリーを見ながら頷いた。

「マイリーとルークが言っていた件だよ。ようやくこっちへ来たのか」

「ああ、まずはオルダムの街の女神の神殿で日常のお勤めに慣れてもらって、最低でも三位の巫女の資格を持った時点でこっちの神殿の分所に来てもらう予定だよ。まあ、ここまで最低でも一年以上はかかるだろうから、急がせるつもりはないよ」

 こちらもレイが食べていたのよりもかなり小さめのパイと、カナエ草のお茶を目の前に置かれたマイリーが苦笑いしながらそう言って、きちんとお祈りをしてから食べ始めた。

「詳しい話は後で聞こう。ロベリオ達にもまだ話していないんだろう?」

 カウリと顔を見合わせて揃って首を傾げている若竜三人組を見たヴィゴの言葉に、マイリーが苦笑いしながら頷く。

「おお、これは確かに美味いな。栗好きのレイルズが喜ぶわけだ」

 隣ではルークも素知らぬ顔でそんな事を言って、同じく自分の前に置かれたパイを食べている。

「まあ、どうやら今すぐ何かあるって話ではないみたいだから、食べ終わってから詳しい話を聞く事にしようぜ」

 やや投げやりなカウリの声に、若竜三人組が揃って返事をする。

 レイとティミーも顔を見合わせてもう一度首を傾げてから、追加で持って来てくれたビスケットを揃って摘んだのだった。




「それで、一体何の話なんですか?」

 お代わりのカナエ草のお茶も無くなった頃、我慢し切れなくなったレイが、マイリーと顔を突き合わせて何かの書類を見ていたルークの袖を引っ張った。

「こらこら、引っ張るんじゃないよ」

 笑ったルークが顔を上げて振り返り、シワになっているレイの眉間を突っつく。

「まあ、とにかくこれを見てごらん」

 そう言って、レイの前に一枚の紙を置いた。

 レイの反対側に座ったティミーも一緒に覗き込む。

 女性の名前と出身地など、ごく簡単な内容が書かれただけのもののようだ。

「ペリエル・アメディア、十二歳。これがさっき話していた、街の女神の神殿に来た方なんですね。それで一体、この方はどなたなんですか?」

 全く自分との関係が見つからずに首を傾げているレイをチラリと見て、代表してティミーが質問する。

「彼女は、俺の故郷のクームスの出身の孤児でね。今回、女神の神殿に巫女として出家するに当たって俺がオルダムでの後見人になった。今日は挨拶を兼ねて女神の神殿まで面会に行って来たんだよ。ルークは、まあ俺の付き添いだ。俺一人で、初対面の十二歳の少女の相手をするのはかなり無理があるからなあ」

 にんまり笑ったマイリーの言葉に、若竜三人組が揃って吹き出す。

「確かに。それはマイリーにはかなり無理があるなあ」

「だよなあ。ニーカの時も、相当怖がられていたもんなあ」

「ああ、確かにそうだったよね。毎回僕達とルークで、彼は怖くないんだよって言い聞かせてたものねえ」

「まあ、あの頃よりは若干だけど、マイリーの表情筋が仕事をするようにはなったと思うけどなあ」

 からかうような若竜三人組とルークの言葉に、マイリーは鼻で笑った。

「怖がられていたのは知ってる。俺も正直言って、毎回一人で行くのが苦痛だったからなあ。途中でルークが交代してくれて助かったよ」

「マイリー酷い!」

 笑った若竜三人組とルークの声が綺麗に重なる。

「ええ、それって何の話ですか?」

 驚くティミーとレイに、若竜三人組が、ニーカがここへ来てすぐの頃、怪我をして白の塔に入院していたニーカとの定期的な面会に最初の頃マイリーが担当していた事を聞き、揃って呆れたように笑ったのだった。



「まあ、初対面の十二歳の女の子なら、俺じゃなくてルークを連れて行ったのも納得だな」

 レイの前に置かれた紙を見たヴィゴも苦笑いしながら頷いている。

 ヴィゴは、社交界では愛妻家であり子煩悩な父親として有名だが、何しろ大柄で見た目が怖いので、初対面の子供との面会の付き添いとして連れていくには、少々問題がありそうだ。

「確かにそれはあるなあ」

 苦笑いしたマイリーがそう言って、もう一枚の書類をヴィゴに渡す。

「彼女は、俺の故郷のクームスにいた子で、母親を早くに無くして宝石鉱山で働く父親と一緒に暮らしていたんだ。だけどその父親を不慮の事故で亡くしたらしい。それで他に身寄りも無く困っているところで俺の実家が面倒を見ている組合(ギルド)で保護したんだそうだ。それで父上が援助している孤児院へ入る際に、彼女に精霊魔法の高い適性が認められた」

 マイリーのその言葉に、若竜三人組とレイ達の驚く声が重なる。

「へえ、それで女神の神殿に……って事は、水の適性が高い?」

 女神の神殿では、女神オフィーリアの息子であるマルコット様に水の精霊魔法の行為の使い手であった事もあり、水の精霊魔法が使えると重宝される場合が多い。

 それを知っているタドラの言葉だったが、マイリーはにんまりと笑ってヴィゴが見ていた書類を取り上げて彼らの前に置いた。

 全員がそれを見て無言になる。



「うわあ、四大精霊魔法全てと光の精霊魔法に高い適性だって!」

「すっげえ。一般人で、しかも身寄りが無い子を保護してそれって……」

「これは精霊王の采配だね」

 一瞬で、彼女をここに連れて来た意味を理解した若竜三人組が感心したように口々にそう言って何度も頷いている。

「またすごい方を見つけましたね。確かにこれは精霊王の采配かもしれません」

 ティミーまでが、感心したように何度も頷きながらそんな事を言う。

 揃って感心している彼らの言葉を聞き、一人だけ意味が分かっていないレイは、困ったように自分を見つめているニコスのシルフに必死になって視線で助けを求めたのだった。

 その様子を見て苦笑いしたニコスのシルフ達とブルーの使いのシルフは、揃ってふわりと飛んで来てレイの肩に並んで座ったのだった。

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