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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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緑の跳ね馬亭の新作お菓子

「おかえり。ブレンウッドのバルテン男爵から、荷物と一緒に緑の跳ね馬亭のお菓子が届いてるんだってさ」

 本部に戻ったレイとティミーは、それぞれの荷物をラスティとグラナートに渡してそのまま休憩室へ向かった。

 ちょうど廊下で会ったタドラから嬉しい事を教えてもらい、大喜びで早足で休憩室へ駆け込む二人の後をいくつかの書類の束を持ったタドラが続いた。



「おかえり。ほら、噂してたら帰ってきたよ」

「本当だ。聞こえてたんじゃないか?」

「ただいま帰りました!」

「ただいま帰りました! 緑の跳ね馬亭のおやつがあるって聞いたので、急いで来ました!」

 振り返ったロベリオとユージンの笑顔に、休憩室へ駆け込んで来たティミーとレイが揃って嬉しそうにそう答える。

「おう、新作の、栗を使った焼き菓子と栗のパイが届いてるよ。まずはどっちを食べようかって話をしていたところなんだ」

「それなら、栗好きのレイルズ君の意見を聞いてからにすればいいんじゃないかって言ってたところさ」

 目を輝かせるレイを見て、控えていた執事がワゴンに乗ったケーキの入った木箱の蓋を開けて中を見せてくれる。

「ええ、どっちかなんて選べません!」

 並んだそれは、どちらも大きな円形のケーキで、一つは栗の甘露煮がぎっしりと並んだタルトだ。もう一つは、まるでお花のように飾り切りが入れられた冠のような形をした栗のパイだ。

 これはマフィンなどと違って、食べる際に切り分けてもらわなければならない。

「レイルズ様。僕はこっちのパイを食べてみたいです」

 ティミーが小さな声で、レイの横でパイを指差しながらそう言って彼を見上げる。

「それじゃあパイにしよう」

 笑顔のレイの言葉に、二人は嬉しそうに手を叩き合った。

「なんだってさ。じゃあ、パイを切ってもらえるかな」

 ロベリオがパイを指差しながらそう言うと、執事は一礼してタルトの入った木箱に蓋をしてからパイを取り出して手早く切り始めた。

「ほら座って。おおい、休憩してお茶にしようよ」

 呼ばれた隣のソファーでは、陣取り盤を挟みながらヴィゴとカウリの二人が書類をさばいている真っ最中だ。

「あれ、マイリーとルークは?」

 部屋を見回したレイの言葉にヴィゴが顔を上げる。

「ああ、二人はちょっと所用で街まで出てるよ。夕方までには戻ると言っていたから、そろそろ帰ってくるんじゃないか?」

「二人一緒にですか?」

 どちらも忙しいのはいつもの事だが、二人揃って街まで出掛けると言うのは珍しい。不思議そうなレイの言葉に、立ち上がったヴィゴも首を振った。

「さあなあ、なんの用かは俺も聞いていないな」

 書類を置いたカウリも小さく肩を竦めて首を振っているので、本当に知らないみたいだ。

「俺達も知らないなあ。でもまあ、あの二人は色々抱えてくれているからさ。何かあれば言ってくれると思ってるよ」

「そうだよね。そこは頼りにしてる」

 ロベリオの言葉にユージンも苦笑いしつつ頷いている。

 最近は彼らも少しずつだがマイリーやルークの仕事を手伝っている。主に貴族達を相手にする時に。



「まあ、これも適材適所だよ。任せておけばいい」

 笑ってそう言ったヴィゴとカウリも席についたところで、綺麗に切り分けられたパイが置かれた。

「ふわあ。美味しそうですね」

 真っ白な生クリームと、栗の甘露煮が添えられたそれを見て、レイとティミーが揃って笑顔になる。

「甘露煮はケーキと一緒に届いていたもので、これは緑の跳ね馬亭で今年から販売しているものなのだとか。少々小粒ですが、とても綺麗で美味しい甘露煮です」

 蒼の森のニコスが毎年作って送ってくれる甘露煮は、蒼の森の栗林で収穫したものでとても大粒で美味しい。しかし通常市場に出回る加工用の栗は、ほとんどが防風林や農家が柵がわりに植える木から収穫するいわば副産物なので、小粒のものが多いのだ。

「美味しいです」

 早速一粒口に入れたレイが嬉しそうにそう言って笑う。

「パイもサクサクです」

 隣ではティミーも、レイのお皿にあるそれよりもかなり小さめに切ってもらったパイを切り分けて食べながらご機嫌だ。

 それを見て、ロベリオ達もそれぞれの前に置かれたパイを食べ始めた。

「ううん、これは確かに美味しい」

 それぞれパイを口にして笑顔で頷き合っていると、足音がしてルークとマイリーが戻って来た。

「おかえりなさい。えっと、緑の跳ね馬亭から新作の栗のパイとタルトが届いてるよ。今パイを切っていただいているところです」

 満面の笑みのレイの報告に、手にしていた書類を机の上に置いたルークが吹き出す。隣ではマイリーも笑っている。

「じゃあ俺達にも、お茶と一緒にその新作パイをいただけるかな。疲れて喉がカラカラだよ」

 レイの隣に座ったルークは、そう言って大きく伸びをして目の前に置かれた冷やしたカナエ草のお茶を一気に飲み干した。

 向かいでは、同じく冷えたカナエ草のお茶をマイリーも飲み干している。

「えっと、何だか二人ともお疲れみたいだけど、何かあったの?」

 切ったパイを飲み込んだレイが、少し心配そうにルークを見る。

「おう、後で報告するけど色々と大変だったんだよ」

「確かに大変だったな。まあ悪いがこの一件はお前に任せるから、上手くやってくれ」

「ああ、俺に丸投げしたな。まあいいけどさあ」

 笑ったマイリーの言葉に、ルークが態とらしくそう言って大きなため息を吐く。

「何があった?」

 何やら言いたげな、主語の無い会話をする二人の様子を見て真顔になったヴィゴとカウリがそう尋ねる。

「まあ、後で詳しく報告するよ。今すぐどうこうって話では無いが、将来的にはいずれ俺達にも関係してくる話だからな」

 そこでルークはチラリと横目でレイを見て笑った。

「主に、レイルズ君に、だよなあ」

「ああ、そうだな。レイルズは絶対に関係大有りだからな」

 マイリーもそう言ってうんうんと頷いている。

 全く心当たりが無くて首を傾げたレイは、困ったようにティミーと顔を見合わせて揃ってもう一度首を傾げたのだった。

 そんな彼らを、ソファーの背に座ったブルーのシルフとニコスのシルフ達が、にこにこと笑ってこちらも何か言いたげに笑って頷いていたのだった。

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