いつもの朝の光景
『寝てるね』
『寝てるね』
『起こすの?』
『起こすの?』
『どうしようかなあ〜〜』
『どうしようかなあ〜〜〜』
翌朝、いつもの時間に集まってきたシルフ達は、枕に抱きついて気持ちよく熟睡しているレイを見て、顔を見合わせて笑い合っていた。
けれどもそのうちの何人かは、いつものように豪快に絡まり合った髪の毛に潜り込んでさらに遊び始めている。
『ふわふわ〜〜』
『くるくる〜〜』
それを見た他のシルフ達も集まってきて、好きに髪の毛を引っ張ったり結んだりし始める。
こめかみの三つ編みはブンブン振り回されて、これまたいい遊び道具になっている。
『程々にな』
枕元に座ったブルーのシルフは、そんな彼女達の無邪気な悪戯を止めるでもなく笑いながら眺めているだけだ。
「ううん……」
小さく唸ったレイが、抱きしめた枕ごと寝返りを打って横に転がる。
慌てたようにシルフ達が一斉に飛び上がり、またそのまま寝息を立て始めた彼を見てくすくすと笑い出した。
『びっくりしたね』
『びっくりんびっくり』
『でも起きないねえ』
『起きない起きない』
『じゃあもうちょっと遊ぶ?』
『どうしようかなあ〜〜』
『どうしようかなあ〜〜!』
『やっぱり遊ぶ!』
『遊ぶ遊ぶ!』
最後は大喜びで手を叩きあい、またせっせと髪の毛をいじって絡め始めた。
もう、床に置かれた絨毯も、それから窓辺に吊るされたプランツハンガーも編めるところは全部これ以上ないくらいに細い三つ編みが編まれていて、それがさらに編まれて複雑に絡まり合っている。
どうやら遊ぶ道具が増えたおかげで、最近の彼女達の三つ編みの腕前はさらに上がったみたいだった。
「おはようございます。朝練に参加なさるのなら、そろそろ起きてください」
ノックの音がして、白服を手にしたラスティが入ってくる。
「おやおや珍しい。まだお休み中だ」
小さくそう呟いて苦笑いしたラスティは、寝癖だらけのレイの髪を見て堪えきれずに小さく吹き出す。
「おはようございます。レイルズ様、起きてくださらないと、髪の毛が大変な事になっていますよ。ううん、毛皮の絨毯とプランツハンガーの抑止力もそろそろ限界みたいですねえ」
笑って鳥の巣みたいに豪快に絡まり合っている髪をそっと撫でてから、抱きついている枕をそっと引き抜く。
「ううん……」
眉間に皺を寄せたレイが、ベッドに手をついてゆっくりと起き上がる。
「おはよう、ラスティ……眠いです……」
「おや、では今日の朝練への参加はお辞めになりますか?」
朝練はあくまでも自主的な参加なので、別に疲れているなら無理に参加させる必要は無い。
まだ怪我から復帰して間がないので無理させるのはいけないと思ってそう言ったのだが、レイは慌てたように起き上がって両手で顔を叩いた。
「駄目! ちゃんと行きます!」
「ではまずは顔を洗って、その寝癖を何とかしないと朝練に行けませんね」
笑ったラスティの言葉に、レイは自分の髪を触ってそのまま勢いよく吹き出した。
「もう、だから僕の髪はおもちゃじゃないって言ってるのに!」
『だってふわふわで可愛いんだも〜ん!』
『大好き大好き!』
『ふわふわでくるくる』
『可愛い可愛い』
『大好き大好き!』
次々に集まってくるシルフ達が、笑いながらそう言ってまた髪の毛を引っ張り始める。
「だから、駄目だってば。今からこれを解かすから手伝ってください!」
引っ張られた髪を取り返しながら笑ってそう言い、早足に洗面所へ向かったレイの後ろ姿を見送り、ベッドの上に白服を置いたラスティも足早にその後を追って行った。
「ふう、どうにかなったね」
さすがに遊びすぎた自覚のあるシルフ達が自主的に絡まった髪をほぐしてくれたおかげで、何とか時間内に絡まった髪は元に戻す事が出来た。
「今朝の絡まり具合は、久し振りに豪快でしたね」
「あはは、それは僕も思った。えっと絨毯がもう全部三つ編みになってるね」
レイの言葉に、部屋に戻ったところだったラスティが驚いて足元を見る。それから、窓辺に並んでぶら下がっているプランツハンガーを見た。
「おやおや。これは大変だ。全部編まれてしまっていますね」
呆れたようなラスティの呟きに、服を脱いでいたレイも思わず笑ってしまった。
「これはそろそろ次の遊び道具を探してあげないと駄目みたいだね」
「そのようですねえ。ううん、これは困った。ちょっと考えておきますから、それまで頑張ってシルフ達のおもちゃになってください」
大真面目なラスティの言葉に、レイは堪えきれずにもう一度大きく吹き出したのだった。
『だって主様の髪は大好きなんだもん!』
『可愛い可愛い』
『ふわふわで素敵』
『大好き大好き』
『ね〜〜!』
『ね〜〜〜〜〜〜!』
二人の会話を聞いていたシルフ達は、口々にそう言っては手を叩き合って大喜びしている。
その声が聞こえたレイはもう笑い堪えられずに、ベッドに倒れ込んで枕に抱きついて大笑いしていたのだった。
「おおい、朝練に行くんなら早く出てこいよ〜〜」
「おはようございます。置いて行きますよ〜〜〜!」
ノックの音がして、笑顔のロベリオとティミーが顔を覗かせる。
「はあい、今行きます!」
その声に腹筋で軽々と起き上がったレイは、大急ぎで部屋を駆け出して行ったのだった。




