蒼の森の家族との語らい
「こんばんは。僕だよ。皆どうしてますか?」
笑顔でそう言って膝の上に並んだシルフ達に手を振る。
『レイ元気でやっていますか?』
タキスの声のシルフがいつものように答えてくれる。
『おおレイか』
『今其方の噂をしておったところだぞ』
『ああなんてタイミングだ』
『もしかして聞こえてたんじゃないか?』
笑ったギードとニコスの声も聞こえる。
『あの私もおります』
遠慮がちに片手を上げたアンフィーの声に、レイは笑顔で大きく頷く。
「もちろんそこにいてね、いつもありがとうねアンフィー。ねえ、子供達の様子はどう?」
手を振り返してそう言い、まずは蒼の森の皆の様子や、畑の作物の出来具合、それから子竜達の様子を聞く。
「そっか、元気ならよかった」
二匹とも体がかなり成長していて足の筋肉がしっかりと付き始めた事や、黒角山羊の子供がもうすっかり大きくなった事などを聞いて笑い合った。
それからレイが、昨夜アルジェント卿のお屋敷に泊めてもらった事や、そこで見た驚きの一夜の事を嬉々として話し始め、四人揃って何度も驚きの声を上げることになったのだった。
『屋敷につく精霊で守護精霊とな』
『さすがのワシもそんな精霊は初めて聞いたぞ』
驚くギードの言葉にタキスとアンフィーの同意する声が重なる。
「あれ、もしかしてニコスは知ってたの?」
最初こそ驚いていたが、四人の中ではニコスだけがレイの詳しい説明に驚いている様子が無い。
レイの声に、ニコスのシルフが笑う。
『もちろんその守護精霊って言葉自体は初めて聞くよ』
『だけどオルベラートでも』
『王宮には守護竜と対をなす』
『特別な精霊がいるのだという話は聞いた事があるよ』
『恐らくそれが件の守護精霊の事なんだろうさ』
『だけど少なくとも実際にその精霊と会ったって話は初めて聞いたよ』
苦笑いするニコスの声を届けるシルフ達の言葉に、レイも納得して頷く。
「へえ、やっぱりオルベラートのお城にもそんな精霊がいるんだね。だけど、きっとぐっすり眠っていて外に出てこないんだろうね。えっと、ブルーが言っていたけど、国を守る王城の守護精霊が眠っているのは、国が安定して栄えている証拠なんだってさ」
『ああそれは嬉しい話だな』
『確かにオルベラートもファンラーゼンと同じで』
『国も栄えているし政治も安定しているからなあ』
笑ったニコスの言葉に、レイも笑顔で頷く。
「オリヴェル王子殿下もいらっしゃるしね」
『ああそうだな……』
一瞬口ごもるニコスの声を届けるシルフの様子に、レイはニコスが蒼の森でオリヴェル王子殿下とティア妃殿下にお会いしたのだと言う話を思い出していた。
「殿下にお会い出来て良かったね」
『あ、ああ……そうだな』
少し涙ぐんだ様子のニコスの声を伝えるシルフに笑いかけ、そこからは戦略室の会の方達とたくさん陣取り盤の相手をしてもらったことを話した。
『へえ早打ちに目隠し打ちか』
『そりゃあレイルズもずいぶんと腕を上げたもんだな』
『これは是非今度一度お手合わせを願いたいもんだな』
笑ったニコスの言葉に、レイが驚いて目を見開く。
「ええ、待って。ニコスは陣取り盤が出来るの?」
『そりゃあ知ってるよ』
『若様が初めて陣取り盤を習った時には』
『俺がお相手を勤めたんだからな』
「そっか、僕もラスティだけじゃなくて他の従卒の人達や執事さんに相手をしてもらう事だってあったもんね」
納得するレイの呟きに、ニコスが笑う。
『まあ陣取り盤は貴族達の間では特に人気が高いからな』
『全くやらない人もいるけど』
『あまり弱いと馬鹿にされたり』
『他の事でも相手にされなかったりするんだよ』
『だから皆必死になってある程度は打てるように勉強するなあ』
『まあ個人の向き不向きはあるからさ』
『何が何でも陣取り盤じゃなきゃ駄目って事はないけどね』
「へえ、そうなんだ。僕今のところ陣取り盤くらいしかそう言った遊びって知らないけど、ほかにもあるの?」
無邪気な質問にニコスが笑う。
『もちろん色々あるよ』
『陣取り盤以外だと人気があるのはカードかな』
『それ以外にボードゲームってのもあるよ』
「ボードゲーム? 板で何をするの?」
不思議そうなレイの質問にニコスが少し考える。
『板の上に迷路みたいな道が書いてあって』
『サイとよばれる四角い駒を転がして出た目の数だけ進む遊びだよ』
『他にも色々あるからさ』
『ラスティ様やルーク様に聞いてみるといい』
『きっと色々教えてくださるよ』
「へえ、そんなに色々あるんだ。じゃあ今度ラスティに聞いてみるね。あ、マイリーはきっと詳しそう」
『ああ確かにそうかもな』
『ティミー様も知ってると思うぞ』
『ボードゲームは子供でも出来るものも多いからな』
その言葉に目を輝かせるレイの様子に、感心して話を聞いていたタキス達も笑い出し、その場は温かな笑いに包まれたのだった。
「ふああ、そろそろ眠くなってきました。それじゃあもう休むね。明日は精霊魔法訓練所へ行く日なんだ」
小さな欠伸を噛み殺したレイの言葉に、ニコス達が慌てたように揃って頷く。
『昨日も夜更かしだったんだろう?』
『もういいから休みなさい』
「はあい、それじゃあおやすみなさい、皆にブルーの守りがありますように」
ベッドに潜り込んで毛布を引き上げたレイは笑顔でそう言って並んだシルフ達に手を振った。
『おやすみなさい』
『貴方に蒼竜様の守りがありますように』
『おやすみなさいゆっくり休んでくださいね』
『おやすみ早く休むんじゃぞ』
『おやすみなさい』
順番に優しい声でそう言ってくれる皆の声を聞き、笑顔でもう一度手を振ったレイは大きく深呼吸をしてそっと目を閉じたのだった。
それを見て、並んだシルフ達が次々にくるりと回って消えていった。
『おやすみ。良き夢が常に其方の元にありますように』
最後にブルーのシルフが優しい声でそう言って、滑らかな頬にそっとキスを贈った。
静まり返った部屋には、レイの規則正しい寝息の音だけが聞こえていたのだった。




