お疲れ様の帰宅
「おかえりなさいませ。楽しかったご様子ですね」
本部に戻ったレイを笑顔のラスティが出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。うん、すっごく楽しかったよ」
「はい、とても楽しかったし勉強になりました!」
笑顔のレイに続き、ティミーも嬉しそうにそう言って何度も頷く。
「それはよろしゅうございましたね。明日はお二人とも精霊魔法訓練所へ行く予定になっています。お疲れでしょうから、早めに休まれる方がよろしいのでは?」
「そうだね、僕眠いです。それじゃあおやすみなさい」
ラスティの言葉に頷き、横を向いて小さくあくびを噛み殺しているティミーを見て、彼の従卒であるグラナートが苦笑いしながら頷き、ティミーを促してそのまま部屋へ戻って行った。
「それじゃあ、おやすみなさい」
レイもかなり眠かったので、もうこのまま休む事にしてルークとマイリーに挨拶をしてからラスティと一緒に部屋へ戻った。
「おやおや、二人ともお疲れのようだな」
「まあ、昨夜はかなり夜更かしだったらしいからな」
二人を見送ったルークの呟きに、マイリーも苦笑いしていたのだった。
それから顔を見合わせた二人はそのまま事務所へ向かい、当然のように残っていた書類仕事を片付けたのだった。
「ふああ、確かに疲れました。もう今日は僕も早く休みます」
部屋に戻るなり大きなあくびをしてそう言ったレイに、ラスティも苦笑いして頷いていた。
ラスティはアルジェント卿のところの執事から、レイとティミーが昨夜かなりの夜更かしをしていた事や、その後のルークやマイリーとの会話から、その夜に不思議な精霊達と共に過ごしたらしい事も報告を受けている。
かなりお疲れだろうとも聞いているので、早々に休ませられるように湯の用意も既にしてある。
手早く外した剣帯を受け取り、上着も脱がせてやる。
「湯の準備は出来ておりますから、どうぞお使いください」
笑ってそう言い、背中を叩いて湯殿へ向かわせる。
「ありがとうね。じゃあ湯を使ってきます」
嬉しそうにそう言うと、用意してくれていた着替えを持ったレイはそのまま湯殿へ向かった。
その後ろ姿を見送ったラスティは、ベッドに置かれていた枕をもう一度並べ直してから小さく笑って開けていた窓のカーテンを閉めた。それから、湯上がりにすぐに飲めるように用意してあった冷やしたカナエ草のお茶を取りに控えの間へ向かった。
「はあ、やっぱりちょっと疲れたみたい。昨日は夜更かしだったんだよ」
赤毛に負けないくらいに頬を真っ赤にしたレイが戻ってきて、用意してあった冷やしたカナエ草のお茶を見て、嬉しそうに一息に飲み干す。
それから嬉々として昨夜のアルジェント卿の屋敷であった事を話し始めた。
「屋敷の守護精霊。それは初めて聞きますね」
アルジェント卿のコレクションの中にあるアンティークの陣取り盤に、精霊がいるらしい事は比較的有名な話だ。もちろん、その精霊は誰でも相手をしてくれる訳ではないが、それなりの腕とアルジェント卿が見込んだ相手には、出て来て陣取り盤の相手をするのだと聞いているが、屋敷の守護聖霊などと言うのは、初めて聞く。だがどうやら危険な精霊ではないようなので安心していた。
それに、ティミーだけでなく、レイまで陣取り盤の精霊に相手をしてもらったのだと聞いて、ラスティは密かに感心していたのだった。
「もちろん僕は、一人じゃなくてブルーと一緒だったんだよ。そりゃあ確かにちょっとは出来るようになったかなとは思うけど、殿下やマイリーと互角に打ち合うほどの腕を相手に僕なんかが務まるわけないって。でもブルーは凄かったんだよ」
とにかく強い事で有名な陣取り盤の精霊を相手に有無を言わさず叩きのめしたのだと聞き、さすがは古竜だとラスティは呆れるやら感心するやら大忙しになったのだった。
「ではおやすみなさい。明日も、蒼竜様の守りがありますように」
「おやすみなさい、明日もラスティにブルーの守りがありますように」
ベッドに潜り込んだレイに、笑顔のラスティがいつものお休みの挨拶をして額にキスをくれる。レイも笑顔でいつもの挨拶を返してその頬にキスを贈った。
顔を見合わせて笑い合い、ラスティが明かりを消して一礼して部屋を出て行くのをレイは笑顔で見送ったのだった。
扉が閉まったのを見てから、レイは小さく深呼吸をして枕元にいるブルーのシルフを見た。
「ねえ、タキス達はどうしてる? もう休んだかな?」
そろそろ蒼の森では収穫の時期を迎えている。いつも以上にすることは山積みだろうから、もしかしたら疲れて早めに休んでいるかもしれない。
そう思って聞いたのだが、ブルーのシルフはふわりと浮き上がってレイの胸元に降り立った。
『居間で飲む用意をしているぞ。呼んでやろうか?』
笑ったその言葉に嬉しくなって小さく頷く。
「うん、お願い出来るかな。皆の声が聞きたい」
ゆっくりと起き上がって枕にもたれかかるレイを見てブルーのシルフが頷くと、レイの膝の上に何人ものシルフ達が現れて座るのを見て、レイは嬉しそうな笑顔になるのだった。




