彼女達の姿
「では、名残惜しいがそろそろお暇するか。ティミーが限界のようだからな」
笑ったマイリーの言葉に、ついうとうとしていたティミーが慌てたように顔を上げる。
「ああ、すみません」
先ほどまで、精霊竜の話を聞いていた時には夢中になって聞いていたのだけれど、その後にマイリーが会議の際に聞いてきた、最近の貴族達の交友関係の話になった途端に、レイとティミーは話についていけなくなってしまい、若干時間を持て余していたのだ。
しかも昨夜は夜更かしが過ぎた為、特にティミーは正直言ってかなり眠くなって来ていたのだ。
「構わないさ。昨夜は夜更かしだったんだろう?」
「それに、マルモルももう眠ってしまったみたいだしな」
笑ったアルジェント卿の手の上にもうマルモルの姿は無く、なんでも話題が変わった途端に興味を無くしたらしく、わざとらしく小さなあくびを一つしてから優雅に一礼して消えてしまったのだそうだ。
「あはは、そうだったんですね」
笑ったレイの言葉に、ティミーも笑顔で頷く。
「それにしても思ったんだけど、さっきのマルモル嬢とあの陣取り盤の精霊って、服装は違うけど見た目がそっくりだったな」
「ああ確かに。それは俺も思ったな。何か理由があるのか?」
ルークの言葉にマイリーも同意するように頷き、顔を見合わせた後に揃ってブルーのシルフを振り返った。
「何か理由があるのか?」
『何故我に聞く』
面白がるようなブルーの言葉にマイリーがにんまりと笑う。
「そりゃあ、答えの知っていそうな奴に聞くのが一番早いだろうが」
『我を便利屋扱いするな』
これまた面白そうに笑ったブルーのシルフが、ふわりと飛んでマイリーの膝の上に立つ。
『あの姿になったのは、当然だがマルモルの方が早い。この陣取り盤がこの屋敷に来てから、アレがマルモルの姿を真似て自分の姿を作ったのだよ』
「へ、へえ。精霊はそんな事が出来るんだ」
横で一緒に聞いていたルークの驚く声に、ブルーのシルフが振り返る。
『普通は出来ぬ。それが出来るのは、元の姿を持たぬ、いわゆる物の精霊だけだよ』
「成る程。シルフやウィンディーネ達。いわゆる四大精霊と光の精霊は元々の姿があるからそのような事は出来ないわけか」
『まあ、そんなところだ。マルモルの姿は、名付け親である少女が持っていた木彫りの人形が元だそうだ』
「ああ、そっか。マルモルだって屋敷の守護精霊って事は、シルフ達みたいに元々の姿は無かったわけだからな」
ブルーの説明に、納得したようにルークが頷く。
「だけど彼女達の姿は、シルフに似ているような気がするな。俺はシルフの姿が元なのだと思っていたんだけどな」
笑ったマイリーの言葉に、ブルーのシルフが笑う。
『マルモルによると、その彼女の持っていた人形というのが、シルフの人形だったらしいからな』
「つまり、もともと姿の無かったマルモルが、シルフの人形を元に自分の姿を作り、それを元にして陣取り盤の精霊が自分の姿を真似て作った。って事は、どちらも元を正せばシルフが元って事だよな」
『まあ、そうとも言うな』
完全に面白がっているブルーの答えに、聞いていた全員が揃って吹き出した。
「まあ、精霊と言えばシルフってくらいに、精霊の姿が見える者達にとっては一番彼女達の姿を見る機会が多いって事だな」
「確かに一番どこにでもいるものね」
笑ったレイがそう言って天井を見上げると、呼びもし無いのに勝手に集まって来たシルフ達が嬉しそうに一斉に手を振った。
笑顔で手を振りかえすレイを見て、マイリーがゆっくりと立ち上がる。
「さて、それじゃあそろそろ戻ろう。このままだとティミーがラプトルから居眠りして落っこちるぞ」
慌てたように顔を上げるティミーを見て、また皆で笑い合った。
「お世話になりました。すっごく楽しかったです!」
「本当にお世話になりました。えっと、マルモルやレディローズにもまた会いたいって伝えてください!」
ティミーとレイの言葉に、玄関まで見送りに来てくれたアルジェント卿も笑顔になる。
「もちろんだよ。またいつでも遊びに来てくれたまえ。其方達なら大歓迎だ」
揃って笑顔になる二人を見て、笑顔で頷いたアルジェント卿が下がる。
「では、世話になりました」
笑顔のルークの言葉にもアルジェント卿が嬉しそうに手を上げ、そして隣にいるマイリーを見た。
「アル、世話になりました。この数日はなかなかに楽しい有意義な時間でした。ぜひまたこのような機会を作って頂きたいですね」
「そうだな。ではまた皆で集まるとしよう。其方も今日のところはしっかりと休みなさい」
「残念ながらまだ色々と仕事が残っていますのでね」
平然とそう言ったマイリーに、アルジェント卿は呆れたようにため息を吐いた。
「では戻ろうか」
マイリーの言葉に、護衛の者達に囲まれた一同は、改めて鞍上からアルジェント卿に手を振って屋敷を後にしたのだった。
「さすがにすっかり暗くなっちゃったね。えっと光の精霊さん、明かりをお願い出来ますか」
胸元のペンダントに向かってそう話しかけると、ペンダントが小さく跳ねて光の精霊が三人現れた。そして彼らの先頭とその左右に進み出てやや明るめの光を放ってくれた。
「ああ、これなら足元がよく見えるよ。ありがとうなウィスプ」
そう言うルークの乗るラプトルの前にも、彼が呼んだ光の精霊が同じくらいの明かりを灯している。
「こういう時にいつも思うが、自分に光の精霊の適性が無いのが悔しいな」
苦笑いするマイリーの呟きに、まだあまり上手く光の精霊を扱えないティミーも苦笑いしながらうんうんと頷いていた。
そのまま本部へ到着するまで、光の精霊達は彼らの周りを明るく照らしてくれていたのだった。




