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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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離れの遊戯室にて

「ではよろしく頼む」

「お手柔らかに」

 二人がそう言って一礼するのを見て、レイも慌てて深々と頭を下げた。



 食事を終えた一同は、アルジェント卿の提案で、昨夜レイとティミーがあの陣取り盤の精霊と勝負をした離れの遊戯室に移動していて、そこで早速ブルー対アルジェント卿と、ブルー対ルークの同時の勝負をする事となったのだ。

 レイは先ほどの食事の後の彼らの話を聞いていて、いつも自分がロベリオ達やタドラと組んでルークやマイリーに相手をしてもらっているように、二人が一緒に組んで、二対一でブルーと対決するのだと思っていたのだ。

 しかし、二人ともせっかくだから一対一の真剣勝負を希望してブルーがそれを受けた為、レイの向かい側のソファーには、アルジェント卿とルークが並んで座り、向かいのソファーにはレイが一人で座っている。

 ティミーは、そんな彼らを横から見られるようにソファーの横に机に向かって置かれた一人用のソファーに座っている。

 机の上には、既に駒の準備が出来た陣取り盤が二台並んでいて、アルジェント卿とルークの前にそれぞれ置かれている。

 アルジェント卿が使っているのは、昨夜レディローズが現れたあの見事な細工の施された陣取り盤で、当然駒はあの鉱石を使った駒だ。

 そして隣のルークが使っているのも同じくらいに見事な細工が施されたアンティークで、こちらは真っ黒な艶のある木を使った陣取り盤だった。この駒は動物の角で出来ているのだそうで、何とも言えない優しい飴色の艶のあるとても綺麗な駒だった。

 レイは部屋の中を見回したが、残念ながらこの離れの守護精霊も、あのレディローズの姿もどこにも見当たらなかった。



『手加減はせぬぞ。泣いても知らんからな』

「ぬかせ、吠え面かかせてやるからな」

 ルークの笑った言葉をレイの膝の上に座ったブルーシルフは鼻で笑った。

『では、我は女王を落として三手進呈する故、其方達は好きに進めるといい』

 当然のように言い放たれたその言葉に、二人の目が揃って見開かれる。

「いくら何でも、それはさすがに屈辱だな。遠慮……」

 アルジェント卿がそう言って断ろうとした時、ルークが左手を伸ばしてアルジェント卿の目の前に差し出して途中でその言葉を遮った。

「閣下。相手が良いと言うんだから有り難くいただきましょう。ラピスを相手に女王無しなのは、正直言ってありがたいですよ」

「しかし……」

 ルークが笑って首を振るのを見て、座り直したアルジェント卿は真剣な顔で頷いた。

「確かにそうだな。では、遠慮せずにそうさせていただくとしよう。参る」

 そう言った二人がそれぞれ三手進ませるのを、レイは黙って見つめていた。



 それぞれの盤にはブルーが寄越した古代種の大きなシルフが現れて駒を動かしている。レイは、ブルーが落とした駒を盤上から下げては並べていたが、もう完全に同時進行する目の前の勝負を追いかけられなくなっていた。

 とにかくブルーは、返すのが早い。ほぼ早打ちと言っても間違いではないくらいに全ての手を即座に返すのだ。それも容赦のない形で。

 今まで、レイはマイリーが一番容赦のない打ち手だと思っていたが、ブルーの攻め方はその比ではなかった。

 既に勝負は中盤に差し掛かっているが、ルークもアルジェント卿も、先ほどから全く喋らなくなった。

 真顔で盤上を見つめたまま、時折手が止まるようになっている。

 それに対して、ブルーは即座に打ち返すので、はっきり言って考える時間が全くと言っていいほどに無いのだ。これは辛い。

 横で見ているティミーは、先ほどから時折怯えるように小さく震えては深呼吸をしては置いてあったクッションにしがみつくみたいにして抱きついていた。

 それでも視線は盤上から離れない。

 一手たりとも見逃すまいと、それはそれは必死になって二人の勝負を見守っていたのだった。



「恐れ入りました」

「うむ、これは参った。もう手も足も出ぬわ」

 結局、ブルーが二人を圧倒する形で呆気なく勝負はついてしまった。

『なんだ、もう終いか。大した事はないな』

 勝って当然と言わんばかりのその口調に、二人は悔しそうにはしていたが素直に負けを認めた。

「いやあ、予想以上だな」

「全くだ。恐れ入ったよ」

 大きなため息とともにルークがそう言ってソファーに倒れ込み、アルジェント卿は妙に嬉しそうに笑いつつ、黙って盤上の駒を見つめていた。正確には、赤い帽子を被せたあのローズクオーツの歩兵の駒を。



「今日は大人しかったな」

「そうですね。いつもなら勝手に駒が動き出して捕まえるのに苦労するのに」

 二人が当然のようにそう言って笑うのを見て、レイとティミーは何とも言えない顔で、揃って同じようにローズクオーツの歩兵の駒を見つめていた。

『さてなあ。間違いなくどこぞに隠れてこの勝負を見ていただろうが、さすがに昨日の今日で我の前に姿を表す勇気はあるまい』

 鼻で笑ったブルーのシルフがそう言って立ち上がった時、いきなりローズクオーツの歩兵のコマがその場でぴょんぴょんと飛び跳ねたのだ。

 驚いたのはレイとティミーだけで、アルジェント卿とルークはそれを見ても平然としている。そしてブルーのシルフも。



『こ……古竜に告ぐ! もう一度私と勝負しなさい!』

『良かろう。其方の気が済むまで相手をしてやろうではないか。ただしもう泣くなよ』

 決死の覚悟で放たれたその宣戦布告に対し、ブルーのシルフは当然のようにそう言って受けて立った。

 身を乗り出すようにした四人が無言で見つめる中、また一瞬で盤上の駒の位置が元通りに配置され、レディローズとブルーの再戦が開始されたのだった。

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