おはようございます
「うう……」
眉間に皺を寄せたレイが、小さな声で唸って抱えていたクッションに顔を埋める。
そのまま横に倒れ込んで驚いて目を開く。
「あれ、ここ何処……?」
そのままゆっくりと上半身を起こして横を見てから小さく吹き出す。
「そっか、あのまま寝ちゃったんだ」
そこにいたのは、レイのお腹のあたりに顔を埋めるようにして熟睡しているティミーの姿だった。
その前髪に何本もの三つ編みが出来ているのを見て慌てたように自分の髪の毛を触る。
「あはは、相変わらずの鳥の巣になってる。もう、駄目じゃないか」
笑ってそう呟き、集まってきたシルフ達にそっとキスを贈ってから小さく深呼吸をして自分のお腹の辺りを見る。
「あれ、これはブルーが掛けてくれたの?」
ずり落ちていた見覚えの無い毛布を引っ張りながら、空中に向かって話しかける。
『おはようレイ。ああ、それは其方達が寝てすぐにシルフ達が掛けてくれたのだよ』
笑いながらそう言って、柔らかな頬にそっとキスを贈る。
『それよりも、どこか傷めたりしておらんか? かなり無理な寝相だったようだからな』
確かに、ソファーに座ったまま寝てしまったので、ちょっと肩周りが強張っている気がする。
「おはようブルー。うん、確かにちょっと体が強張ってる感じだけど別にどこも傷めたりしていないよ」
肩を回して伸びをしながら笑ってそう言い、まだ熟睡しているティミーを見てから机の上を見る。
「あれ? 誰が片付けてくれたの?」
散らかっていたはずの駒が綺麗に整えられて木箱に収まっている。盤上には王の駒以外はこちらの側の駒だけが並んでいた。
『ああ、あれは夜明け頃にここへ来た執事が片付けてくれたものだよ。部屋に其方達がいないのに気付いてかなり慌てていたぞ』
「あはは、そうなんだね。悪い事しちゃったかな。ところで今何時なんだろう? この部屋は窓がないから分からないや」
レイが目を覚ました時に、それまで真っ暗だった部屋は光の精霊達が明かりを灯してくれているので、部屋の中は昼間のように明るい。
『外はそろそろ太陽が頂点に差し掛かる頃だよ。何も食べていないのだから、腹が減ったのではないか?』
笑ったブルーのシルフの言葉に、レイが小さく吹き出す。
「そりゃあお腹空いてる訳だ。完全に朝食を食べ損なっちゃったんだね。ティミー、そろそろ起きようよ」
笑いながらそう言って、眠っているティミーの頬をそっと叩く。
「うわあ、柔らかくてふわふわだ」
嬉しそうにそう言うと両手で頬をつまんでムニムニと揉み始めた。
「うう、ちょっと、何するんれふか」
目を覚ましたティミーが、笑いながらそう叫んでレイの手を掴む。
「おはようティミー、もうお昼なんだってさ」
「おはようございます。ええ、もうそんな時間なんですか! って言うか、ここって……ああ、あのまま寝ちゃったんですね」
慌てたように周りを見回し、自分が何処にいるのか分かったティミーも笑ってソファーに座り直す。
『おはようティミー』
『昨夜は大騒ぎだったな』
ターコイズの使いのシルフが現れ、嬉しそうにそう言ってティミーの頬にキスを贈る。
「おはようゲイル。じゃあ、起きてまずは部屋に戻らないとね。きっと執事は僕達が部屋にいなかったから驚いたんじゃないでしょうか」
笑顔でそう言って立ち上がるティミーを見て、レイも笑顔で立ち上がって揃って大きく伸びをした。
「うん、ブルーがそう言ってたよ。ところでこの陣取り盤は、このままで良いのかな?」
机の上に置いたままの陣取り盤を見たレイが困ったようにそう呟くと、ブルーのシルフがふわりと飛んできて王様の駒の横に立った。
『専用の布で手入れしてから片付けていたから、とりあえずはこのままで良かろうさ』
王様の頭を叩きながらそう言っているブルーのシルフの言葉に、レイも納得したように頷く。
「そっか、かなり古いものみたいだし、お手入れが必要なんだね。じゃあこのまま置いておけばいいね」
顔を見合わせたレイとティミーは、とりあえず最初の部屋へ戻る事にした。
「ああ、お目覚めでしたか。おはようございます」
ちょうど部屋に入ろうとしたところで、湯殿に置いておく用の布の山を抱えて戻ってきた執事と鉢合わせした。
「おはようございます。えっと、色々散らかしちゃって申し訳ありませんでした。あの部屋にあった陣取り盤は、あのまま置いてあるんだけど良かったでしょうか?」
「散らかしたままでごめんなさい」
レイとティミーの言葉に、布の束を抱え直した執事は笑顔で頷いた。
「はい、後ほど手入れして片付けておきますので、どうぞそのままに。では、まずはお食事の前に顔を洗ってお召し替えをお願い致します。レイルズ様にはお手伝いが必要そうですね」
当然、レイの髪の事はラスティからこちらの執事に申し送りされているので、実はもう一人控えの部屋に執事が待機している。
「あはは、お願いしますね」
笑ったレイがティミーと一緒に部屋に入るのを見送ってから、早足で湯殿へ行って持って来た布を手早く戸棚に片付ける。
洗面所では、二人が仲良く一つの水盤で取り合いっこをしながら顔を洗うのを見て、出てきたもう一人の執事とともに、まずは二人の身支度を整える手伝いをしたのだった。




