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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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勝負開始!

「うわあ、綺麗な駒だね」

「本当ですね。これは素晴らしい」

 駒の入った木箱を開けた二人の声が重なる。

 形は見慣れたいつもの駒とさほど変わらないが、素材が鉱物で出来ていたのだ。

 駒ごとに様々な鉱石を削って作られたそれらは、どれも艶やかな輝きを放っている。

「ああ、僕の駒は赤っぽい色が集められてるんだね。へえ、王様と女王はミスリルなんだ。金色と銀色の杖と王冠を被っているね」

 無邪気なその言葉に、ティミーも王様の駒を手に取って見る。

「へえ、これは凄いですね。細工も見事だ」

 ティミーも王様の駒を見て、その繊細な彫刻に感心したようにそう言って駒をくるくると回して見ていた。

「僕の駒は色んな青い色になっていますね。ああ、ターコイズがある。こっちはラピスラズリですね。どうしますか? 僕達の竜はどちらも青い色ですけど」

 顔を見合わせて笑い合った二人は、そのまま開けた色の駒を使う事にした。



「では、女王の駒を落として三手進呈しますよ」

「そうだね。お願いします」

 陣取り盤を挟んで向いに座ったティミーの言葉に、レイは笑顔で頷く。

 今の二人の腕だと、本気でティミーが攻めればそれだけの差をつけてもあっという間に勝負はつくだろう。

 だが今からするのは早く勝負を決めるのが目的ではなく、この陣取り盤に宿っているのだという悪戯っ子の精霊を満足させてあげるのが目的なのだ。だから、一方的に攻めてすぐに勝負を決めるのではなく、まずは二人が楽しむことが第一なのである。

 心得ている二人は顔を見合わせて大きく頷くと、まずはレイが先に三手駒を進め始めた。



「じゃあ僕はこっちから攻めるよ」

「レイルズ様がそちら側を取るのなら、僕はこっち側に陣を張りますね」

 本来ならあり得ないが、今回はレイルズの勉強を兼ねて詳しい説明をしながら進める事になったので、お互いの攻略方法も報告しながらの展開となっている。

「ええ、こうなった時って馬車で止めるしかないんだよね」

「そうですね。僕がこっち側から攻めるとしたらそれしか方法はありませんね」

「うう、これだと僕の馬車が二台共壊滅だ」

「そんな時は、こっちの僧侶を持ってくるんですよ」

 ニコスのシルフ達も途中からは加わり、時折こっそり攻め方を教えてくれたりもした。

 そのおかげもあって、中盤以降はそれなりに対等な勝負になっていた。



「あれ、ここって……」

 次の駒を進めようとした時、あったはずの位置の駒が盤上から無くなっているのに気付いてレイの手が止まる。

「ねえ、ここって……」

「あれ? ええと、その位置って確か歩兵がいましたよね?」

「うん、そのはずなんだけどなあ……」

 まさか袖に引っ掛けて落としたかと焦って足元を見ると、靴の横に薄紅色のローズクオーツで作られた歩兵の駒が見えた。

「ごめんなさい。僕が落としたみたい」

 慌てて謝って駒を拾う。

 正式な対決ならばこれはレイは失格になるくらいの事態だが、二人は顔を見合わせて小さく笑い合った。

「気にしませんからどうぞ戻してください。僕も、自分の駒ばかり見ていて落ちたのに全然気が付きませんでした。でもおかしいですね。その位置なら、袖が当たる位置ではないと思うんですけど? それに、落ちた音ってしましたか?」

 遊戯室の床は、部分的には小さな絨毯が敷かれているが、今二人が座っているソファーの下には何も敷かれていない。なので、もしも駒を知らずに落としたら、間違いなく木の床に当たって大きな音を立てているはずなのだ。鉱石で作られた駒はそれなりの重さがある。

「ううん、僕も全然気が付かなかったね」

 首を振るレイを見て、ティミーも不思議そうにしていた。

「じゃあごめんなさい、とりあえず元の位置に戻させてもらうね」

 ティミーの同意をもらったので、落ちていた元の位置に駒を戻す。それから改めて別の駒を進めた。

 その後も楽しく話をしながらせっせと駒を動かして、時折手を止めてティミーの解説を聞いたりしながら、二人は終始笑顔で駒を動かし合っていた。



「あれ、また歩兵がいないよ?」

 既に盤上の駒は半分以下になっていて、勝負は終盤に差し掛かっている。

 こうなると完全にお互いの駒の位置を把握しているはずなのに、なぜかまたしても歩兵の駒がいなくなっている。

「これって、さっきも落ちていなくなった駒だよ」

 駒があったはずの場所を指さしたレイの言葉に、ティミーも首を傾げつつも頷いている。

 しかも、今度はどれだけ探しても足元に駒が落ちていない。

 二人はまた顔を見合わせて揃って首を傾げ、一旦勝負を中止して足元だけでなく部屋の床を見て回った。



「ああ、あった!」



 しばらくしてレイの叫ぶ声が聞こえて、ちょうどソファーの下を覗き込んでいたティミーは慌てて立ち上がった。

「何処にあったんですか?」

 立ち上がりながらそう尋ねた時、部屋の一番奥の窓のすぐ横にいたレイが、なぜかティミーの足元を指差しながらこっちに向かって走ってきたのだ。

「ティミー捕まえて!」

 まさかネズミでも出たのかと思って慌てて足元を見ると、まさかのローズクオーツのあの歩兵の駒が、まるで生きているかのように左右に揺れながらぴょんぴょんとこっちへ向かって飛び跳ねていたのだ。



「うわうわうわ〜〜〜!」

 両手を広げたティミーは、咄嗟に伸ばした手を前で打ち合わせた。

 まさにこっちへ向かって飛び跳ねて来ていたその駒を、両手で叩いて捕まえて見せたのだ。

 しかし、掌の中でまるで逃げようとするかのように駒が暴れるのを見て、驚きのあまりティミーは駒を落っことしてしまった。

「ああ、逃げる〜〜〜!」

 その叫び声に我に返ったティミーは、レイと一緒になって廊下へ逃げて行った駒を追いかけて駆け出して行った。

 その後ろを、揃って笑いを堪えたブルーとターコイズの使いのシルフ達が追いかけて行ったのだった。

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