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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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怖がりティミー

「ええと……誰かいますか?」

 レイの腕にしがみついたまま、並んで一緒に廊下へ出たティミーは、光の精霊が照らしてくれている広い廊下に向かって小さな声で話しかけた。

 レイは笑顔で見ているだけで今は何も言わない。

 しんと静まり返った廊下を見て、ティミーがごくりと唾を飲み込む。

「どうする?」

 あまりに真剣なティミーの様子に、レイは少し考えてゆっくりと小さな声で話しかけた。

「マシュー達から聞いた事があるんです。ここはお化けが出るって」

「ええ、お化け?」

「はい、マシュー達も何度もここに泊まった事があるそうなのですが、その時に変な音を何度も聞いているそうです。冗談だと思って聞いていましたけど、あの足音って間違いなくマシュー達の言ってたそれですよね!」

 真剣なその言葉に、レイは無言で花瓶の縁に座ってこっちを見ているこの屋敷の守護精霊のマルモルを見た。

 彼女はおかしくて堪らないとばかりに笑い転げている。

 レイの視線に気づいた彼女は、笑いながら頷きそのままふわりと浮き上がって消えたかと思うと、突然ティミーの目の前へ現れた。

 突然の出来事に、ティミーは目を見開いたまま呆然と立ち尽くしている。

 するとマルモルはくるりと回ってティミーの鼻先をごく軽く叩いたのだ。

 ペチンと、ごく小さな音がレイの耳にも聞こえた。



「ひゃあ〜〜〜〜!」



 叩かれた事で唐突に我に返ったティミーが気の抜けるような哀れな悲鳴を上げて、レイの体に両手両足を使って文字通り全身でしがみついた。

「ティミー、大丈夫だって」

 苦笑いしたレイがそう言ってティミーの背中を叩くが、半ばパニックになっているティミーはふるふると首を振るだけでしがみついたまま顔も上げようとしない。

「もしかして、お化けが怖い?」

「レイルズ様は怖くないんですか!」

 ムキになるティミーに笑いかけて、レイはまだティミーの側を離れないマルモルを見た。

「マルモルの姿や声は、ティミーにも見えてるし聞こえているんだよね?」


『もちろん』


「待ってください! レイルズ様は誰と話をしてるんですか〜〜!」

 廊下に怯えたようなティミーの叫ぶ声が響く。


『まあまあ、それにしてもなんて可愛い子なのかしら! もう、キスしちゃう!』


 コロコロと笑ったマルモルは楽しそうに笑いながらそう言い、レイにしがみついて離れないティミーの頬にキスを贈った。

 突然の出来事に反応出来ずにまたしても目を見開いたまま固まるティミー。

 レイはもう、笑いを堪えるのに必死だった。

 さすがに今ここで笑ったら、おそらく拗ねて当分口も聞いてもらえなくなりそうな事くらいはレイにも分かった。

「とにかく部屋に戻ろうよ、ほら手を離してティミー」

 しかし、しがみついたまま離れないティミーを見て、小さく笑ったレイは仕方がないのでそのまま歩いて部屋まで戻って行った。当然、ティミーをしがみつかせたままで。




「ほら、部屋に戻ったから離してくださいって」

 もう一度そう言って背中を叩いてやると、恐る恐るといった感じに手を離してくれたので、並んでベッドに座る。

 すると、座ったティミーの膝の上に、マルモルが現れて当然のように座った。


『初めまして、空竜の主殿』


 当然のようにそう話しかけられて、またしてもティミーが固まる。

 レイは、隣に座って苦笑いしながら黙って様子を見ているだけで口出ししない。

「は、初めまして。貴女は精霊なんですか? それとも……お化け?」

 最後は消えそうな声でそう尋ねられて、マルモルはもう笑い転げている。


『では怖がりの主殿に名乗らせてもらうわ』


 そう言って立ち上がったマルモルは、優雅に一礼した。


『では改めて、初めまして、空竜の主殿。私はこの屋敷の守護精霊。マルモルよ』


「しゅ、守護精霊?」

 笑って頷く彼女の横に、ターコイズの使いのシルフが現れる。

「ゲイル!」

 一転して嬉しそうな声になるティミーに、ターコイズの使いのシルフが笑う。

『お初にお目にかかる守護精霊マルモルよ』

『ターコイズだ』

『我が主殿が一晩世話になる故よろしく頼む』


『はいな。お任せあれ!』


 得意気にそう言うと、ふわりと浮き上がってもう一度ティミーの鼻先にキスをしてから、くるりと回ってマルモルは消えてしまった。

 その消えた空間を、呆然と見つめたままぽかんと口を開けてまた固まっているティミー。

『ティミーよしっかりしなさい』

 笑って肩に座ったターコイズの使いのシルフに頬を叩かれて、何度か瞬きをしたティミーはようやく我に返った。

「今のって……ねえゲイル! 守護精霊って何! 僕そんな精霊がいるなんて、そんなの精霊魔法訓練所で習わなかったよ!」

 悲鳴のようなティミーの叫ぶ声に、レイも隣でうんうんと頷く。

「でも、レイルズ様は彼女と話をしていましたよね?」

「うん、さっきティミーが湯を使ってる間にも出てきたんだ。それで今のティミーがしたみたいにブルーと一緒に挨拶したんだよ」

 その言葉に、またしても固まるティミー。

 笑ったターコイズのシルフが、驚くティミーに先ほどブルーがしてくれたように守護精霊とは何なのかを詳しく説明した。

 枕を抱えてその説明を聞いていたティミーは、もう驚きのあまり言葉もなく、コクコクと半ば無意識にずっと頷き続けていたのだった。

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