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ルークとアルジェント卿の語らい

「それではおやすみなさい。すっごく勉強になりました!」

「僕もすっごく楽しかったです!おやすみなさい!」



 レイとティミーはルークとアルジェント卿に交互に対戦してもらい、気がつけばいつもならお休みを言ってもうベッドに入っている時間になっていたので、ここで二人は脱落となった。

「ああ、お疲れ様。明日もゆっくりでいいから、遠慮なく寝坊してくれて良いぞ」

 笑ったルークの言葉に、ティミーとレイの目が揃って輝く。

「だけど夜更かしは程々にな」

 すると、ルークの言葉を聞いたアルジェント卿が二人を見てにんまりと笑った。

「今回、其方達二人の為に特別に離れの客室を用意したから、今夜はそちらで休むといい。外へ出なければ、建物の中の部屋はどこを見ても構わんよ。何があるかは言わぬから、楽しんで来るといい」

 それを聞いて苦笑いするルークを二人は不思議そうに見つつも、揃って大きく頷いた。

「ではご案内いたします」

「はい、よろしくお願いします」

 声を揃える二人に執事も笑顔で一礼して、遊戯室を後にしたのだった。



「あの二人を離れに泊まらせますか」

 執事が用意するブランデーを横目に、陣取り盤を挟んでソファーに座るルークが面白そうにそう言って笑う。

「なかなか良い考えであろう? さて、あの二人はどんな武勇伝を作ってくれるのか楽しみだよ」

 こちらもおかしくてたまらないと言わんばかりに笑いながら、アルジェント卿がブランデーを口に含む。

「ふむ、良い香りだ」

「さすがはグラスミアのアルベール工房のブランデーだ。しかも三十年もの」

 ルークも嬉しそうにそう言って、香りを楽しむようにゆっくりとグラスの中の氷を回す。

 しばらくの間、二人は無言でそれぞれのお酒を楽しんでいた。




「それで、父上は何か言ってましたか?」

 兵士の駒を動かしたルークが、何か言いたげにアルジェント卿を見る。

「巫女殿に関しては、今のところあまり過剰な支援は行っておらぬそうだ。まあ、帯飾りの一件は当然レイルズが用意していると思っておったようだな。どうやら、まだ閣下は彼女達との距離感を図りかねておるようだよ」

 笑ったアルジェント卿が、そう言って兵士の駒を進める。

「へえ、本当にらしくないなあ。父上も耄碌したかね?」

 呆れたようなルークの言葉に、アルジェント卿が吹き出す。

「おいおい、そんな事を言うたら後が怖いぞ。まあ、あまり公爵自身が前に出ると、どうしても神殿との接触が多くなる。そちらはかなり繊細な問題だからなあ」

「確かにねえ。ティア妃殿下に続いてサマンサ様までが、わざわざ名指しであのような事をなさってくださった。こちらの手は打った。あとは相手の出方次第ですからね」

「これでまだダンマリを決め込むようであれば、最後はマティルダ様だ。だがこれをやってしまえば、ほぼ命令と大差なくなる故なあ。今の段階では、まだそこまで慌てる必要もあるまい」

「確かにそうですよね。こう言ってはなんですが、あの二人の恋はまだまだ子供の初恋ですよ。実際の肉体関係があるわけではないのだから、確かに急ぐ必要はないかと思いますけどね」

「子供の初恋、か。確かにそうだな。見ていて微笑ましいわい」

「二人とも良い子過ぎて、自分の欲や希望を本当に言わないんですよね。逆にこうなると、何も言わずとも周りが張り切るんだって事がよく分かりましたね」

 苦笑いするルークの言葉にアルジェント卿も笑っている。



「こうなるとガルネーレ伯爵の三男坊が、竜騎士の花束を渡したのだという巫女の還俗の申し入れを正式に神殿に行ってくれたというのは大きいなあ」

「ああ、ニコラスでしたっけ。聞きましたよ。まだ若いのに大したもんだ」

「伯爵は喜んでいたよ。三男坊は自力で花嫁を見つけてきたと言うてな」

「神殿側はどう出ますかね?」

「どうであろうなあ。だが還俗自体は巫女の権利として認められておる。反対する余程の理由が無い限りは、通常はそのまま申し入れを受理して終わりだがな」

「ですよね。まあ、還俗したって実績を作ってもらっておくのは良い事です。ニコラスにはしっかり頑張ってもらいましょう」

「ボナギル伯爵も、その場に同席した縁だと言うて還俗の申し入れの際には口添えしたそうだからな。神殿側は、頭が痛い事だろうさ」

「なるほどねえ、竜司祭の養い親まで出てきたら、これも軽率な対応は出来ませんよね。さて、どうなるか楽しみだよ」

「全くだな。まあ、我らはここは経過を見守らせていただくとしよう」



 そんな話をしながらも、盤上の互いの駒はどんどんと減っていく。



「相変わらず可愛くない攻め方をするのう。なんだこれは」

 言葉の割には嬉しそうなアルジェント卿の言葉に、ルークがにんまりと笑う。

「すみませんねえ。何しろ素直じゃないもんで」

「性格が攻め方にも出るか」

 呆れたようなアルジェント卿の言葉に二人同時に吹き出す。

「そういう意味では、それなりに打てるようになったとは言っても、レイルズの攻め方はまだまだ真正直に過ぎるな。あれでもうちょっと狡猾に立ち回れるようになれば、かなり良いところまで来るのではないか?」

「まあそうは思いますけど、狡猾なレイルズなんて想像つきますか?」

 笑いを堪えたルークの言葉に、アルジェント卿がもう一度吹き出す。

「確かにそうだな。彼はあれで良いのかもしれぬ」

「あれでいいんですよ。でもまあ今のうちにもうちょっと人生経験を積んでおいて欲しいなとは思いますけどね」

 そう言いながら、馬車の駒を進める。

「そういう意味では、秋の遠征訓練は彼にとっては、今までとは違った良き人生経験となるであろう。どれほど成長して戻って来るか、今から楽しみだよ」

「まだ行ってないうちから、帰って来た時の話をしないでください」

「精霊に笑われるな」

「本当ですね。精霊に笑われる」



 まだ起こってもいない事象の結果の話をする時、精霊に笑われると言う表現を使う。



「だけど、シルフ達なんていつも笑ってる気がするんだけど、この場合は誰が笑う事を言うんだろうなあ」

「言われてみればそうだな。笑っておらぬ時の方がめずらしいわ」

 お互いの顔を見て、また小さく吹き出す。

「ところで、これで王手ですよね?」

 にんまりと笑って、赤い帽子を被った兵士で馬車の駒を落とす。

「おう、やられた!」

 顔を覆って情けない声を上げたアルジェント卿を見てルークは笑って得意げに胸を張る。

 すると周りでそれを見ていたシルフ達が一緒になってルークの真似をして揃って胸を張り、ルークとアルジェント卿は、二人揃って大笑いになったのだった。

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