遊戯室での歓談
「それじゃあ、楽しんでおいで」
「あんまり夜更かしするんじゃあないぞ」
「それじゃあね。また明日」
明日は予定があるのだというマイリーとロベリオとユージンが、ポルト大佐や護衛の者達と一緒にラプトルに乗って本部へ帰っていくのを、レイはティミーとルーク、それからアルジェント卿と並んで笑顔で見送った。
「楽しかったよ。ではまた」
バーナルド伯爵も笑顔でそう言い、護衛の者達と一緒に同じ一の郭にある館へ帰って行った。
「さて、では中に戻ろうか」
笑顔のアルジェント卿に促されて揃って中へ入り、そのまま当然の様に全員揃って先程の遊戯室へ戻る。
「アルジェント卿以外は、結局いつもの顔ぶれになっちゃったな」
残った顔ぶれを見て笑ったルークがそう言い、ソファーに座って新しい攻略本を手にする。ティミーもその隣に座って同じく新しい攻略本を開いて読み始めた。
それを見た執事が二人の目の前の机の上に、それぞれ陣取り盤を移動させてくれた。
レイは、駒を並び直して最初の位置になっている陣取り盤の前に座り、同じく新しい攻略本を手に取って気になっていたマイリーが書いたページを開いて、その内容を盤上で再現して確認しながら読み始めた。
しばらくそれぞれに好きに過ごし、途中からはお酒の入ったグラスを片手にそれぞれの盤上を見ては好きに意見を言い合い、その後でレイはまたアルジェント卿に相手をしてもらったりもした。
「しかし、先程夕食の時に聞いた其方の話には驚かされたよ」
ひと勝負終えて、先程の対戦を再現しながらどこの守りが甘かったかを詳しく説明してくれていたアルジェント卿が、呆れた様に笑いながら駒を片付けているレイを見た。
夕食の席で、レイはサマンサ様がジャスミンだけで無くクラウディアとニーカにも手作りの帯飾りのお守りをお贈りくださった話をしたのだ。
実は、この話は昨日ここに泊まったマイリーから詳しく聞いている。当然、アルジェント卿だけでなく前日から一緒に泊まっていた戦略室の会の部員達全員の耳に入っている。もちろん両公爵の耳にも。
しかし、あえてそんな事は言わずにレイの口から聞いたかの様に感心してそう言ったのだ。
「はい、とても素敵な刺繍の入った帯飾りでした。彼女達はそれは普段遣いにするのでは無く、正装の際に使う様にするんだって言ってました」
「それは当然であろう。なるほどなあ。ふむ、ありがたい話だ」
アルジェント卿の言葉に無邪気な笑顔で頷くレイを見て、隣で聞いていたティミーが何か言いたげにルークを見上げる。
「うん? どうかしたか?」
「いえ、レイルズ様は愛されてるんだなあって感心していたんです」
にっこり笑ったティミーの言葉にルークがにんまりと笑う
「だろう? げに最強は無垢と無邪気なり。ってな」
小さく吹き出して何度も頷くティミーを見て、ルークも吹き出す。
「こういうところはティミーの方が間違いなく先輩だな。頑張って教えてやってくれよな」
「ええ、指導担当はルーク様なのでしょう? 僕なんかがレイルズ様に何か教えるなんておこがましいです〜〜」
「何だかよく分からないけど、二人が僕で遊んでるって事は分かりました!」
「あはは、レイルズも言う様になったなあ。いいぞその調子だ」
口を尖らせつつも笑いながら文句を言うレイの言葉にルークは大喜びだ。
「巫女様方も、贈り物を喜んでくださったみたいで良かったです」
その様子を見て、ティミーも嬉しそうにしている。
「ああ、俺のところにも、さっき伝言のシルフが来て彼女達からお礼を言われたよ」
笑ったルークの言葉に、レイも笑顔で頷く。
「ああそうだ。ねえルーク。一つ質問してもいいですか?」
攻略本を手にようとしたレイは、ふと手を止めて少し考えてからルークを振り返った。
「おう、どうした。俺でわかる事なら教えてやるよ」
「えっと、その帯飾りなんだけどね。クッキーから聞いたんだけど、祭事の内容によっては身につける帯飾りの色や素材なんかに決まりがあったりもするんだって。何となく一通りは贈ったんだけど、ルビーが付いた帯飾りは今回は贈っていないんです。でもそれはサマンサ様から頂いたのがあるから、もういらないですか? それとも気にせず、ルビーのついたのも贈ったほうがいいですか?」
「ああ、それなら気にせずお前からも贈ってあげればいいよ。だけどあまり高価なものは普段に贈ると逆に遠慮されそうだしなあ。次にルビーを使う様な祭事があるのは降誕祭の時だから、その少し前に贈ってあげればいいよ。十一の月の初め頃かな」
「えっと、ルビーの付いたものも複数あっても構わないんだね」
「構わないっていうか、場合によっては二つ必要な場合もあるからなあ。まあお前からとサマンサ様からいただいた二つがあれば、少なくとも彼女達は不自由はしないだろうさ。だけど、さすがにサマンサ様からいただいたのを他の子に貸すわけはいかないから、そうなると何かあった時のためにも最低でも予備を一つ。出来ればもう一つくらいは欲しいって事。まあ父上も今回の話を聞いてるから、間違いなくルビーのついた帯飾りを贈ってくれると思うけどね」
「分かりました。じゃあ忘れない様にその頃にルビーの帯飾りを贈る事にします。いつもお世話になっている公爵閣下にも感謝を」
ルークの説明に無邪気にそう言って頷くレイに、ルークも苦笑いして肩を竦めた。
「今回の一件は、俺からすれば逆に父上がそのあたりの手配をしていなかった事に驚きだね。二人とも身寄りが無いのは分かってるのにさ。でもまあもしかしたら、その辺りはレイルズが既にやってると思ってたのかもな。今度会ったら追及しておこう。絶対何か裏で考えていそうだもんなあ」
ルークはごく小さな声でそう呟きため息を吐くと、大きく伸びをしてソファーにもたれかかった。そのまま横にあったクッションを抱えて、顔を寄せ合って仲良く陣取り盤を挟んで話を始めた見習い二人をのんびりと眺めていたのだった。




