マイリーの事
夕食前に両公爵を始めとする戦略室の会の人達が帰ってしまったので、残ったのはレイとティミー以外はマイリーとルーク、ロベリオとユージン、竜騎士隊の面々以外は主催者のアルジェント卿以外に残ったのはポルト大佐とバーナルド伯爵だけになってしまった。
「まあ、これくらいの人数の方が好きに対決出来るだろう。だがまずは夕食にいたしましょうぞ」
笑ったアルジェント卿の言葉に、一同は散らかした陣取り盤はそのままに執事の案内で別室へと向かった。
到着した部屋には、本格的な晩餐の用意がされていて、本来ならばまだ未成年のティミーは同席出来ないが、今回は特別に彼にも席が用意されていた。それどころか、今度はレイとティミーの二人をアルジェント卿が招待した形を取り、二人並んで招待客が座る中でも一番上座に座らされてしまい、揃って緊張にカチカチになりつつも豪華なお料理の数々に舌鼓を打ったのだった。
ティミーの席には、特別に彼の為に用意された他のお皿よりもやや少なめでしかも食べやすそうに工夫された小さな料理が並んでいて彼を喜ばせた。
夕食の席では難しい話は無く、マイリーの故郷のクームスの宝石鉱山の話や、アルジェント卿の竜騎士時代の話を聞かせてもらった。
レイとティミーは目を輝かせて話を聞きたがり、最後にはアルジェント卿から、マイリーが見習い期間を終えて正式に竜騎士となり、竜騎士の剣を賜った時の話まで教えてもらい大喜びする二人だった。
「いやあ、懐かしい。痩せっぽちで食欲も無く、身体作りに苦労していたマイリーがついこの間の事のように思い出されるよ。しかし月日が経つのは早いもんだなあ。あんなに可愛かったのに、すっかりふてぶてしくなりおってからに」
頬を紅潮させつつもカチカチに緊張していたのだというマイリーの閲兵式の時の話をしながら、嬉しそうにアルジェント卿がそう言って何度も頷いている。
「アル、いい加減にしてください。俺をいじめて面白いですか」
平然としつつも片手で顔を覆ったマイリーの抗議にレイとティミーが笑う。何しろ今のマイリーは耳どころか首まで真っ赤になっているのだから、こんなマイリーは滅多に見られるものではない。
結局、マイリー本人以外は全員が大喜びでもっともっととアルジェント卿からマイリーが若かった頃の話をこぞって聞きたがって話は大いに弾み、最後には新人時代の、とある身持ちの悪いご婦人に酔いつぶされてお持ち帰りされそうになった時の話まで暴露されてしまい、マイリーが恥ずかしさのあまり悶絶してレイルズのような悲鳴を上げさせる事に成功して、その場は大爆笑になったのだった。
「ああ、もうこの話は終わりだ! 終わり!」
ムキになって抵抗するマイリーの言葉にアルジェント卿が笑いながらも頷き、デザートが運ばれて来たところでようやく暴露話が一段落したのだった。
「いやあ、しかしマイリーも本当に丸くなったもんだねえ。なんのかんの言いつつも、アルジェント卿が話をする事自体は止めなかったんだからさ」
ルークはデザートの果物を口に入れながら、やや憮然としながらも素知らぬ顔でデザートを口にするマイリーをこっそり眺めて感心していた。
以前の彼であれば、食事中はにこやかに話をする事はあってもそれは差し障りのない話題がほとんどで、ましてや自分の若い頃の恥ずかしい話などをされた日には完全に無視して聞こえない振りをするか、あるいは話している本人に対してにこやかにしつつも無言の抗議の視線を送って黙らせる程度の事はやっていたのだ。それなのに、今日のマイリーは恥ずかしがりこそすれアルジェント卿が嬉々としてマイリーの若い頃の恥ずかしい話をする事自体は止めようとしなかったのだ。
アルジェント卿も、マイリー本人が本気で嫌がれば無理矢理話を続けるほどの事はしない。口では文句を言いつつマイリーがそれほど嫌がっていなかったからこそ、レイやティミーにロベリオ達さえも知らないような詳しい話をしてくれたのだろう。
「ううん、この辺りはもしかしたら二人の間で事前の申し合わせとかがあったりしたのかねえ。まあ、何にせよこの変化は良い事だよな」
ごく小さな声で嬉しそうにそう呟くと、お皿の横で自分を見つめている愛しい竜の使いのシルフににこりと笑いかける。
「これであとは、女性の扱いがもう少し何とかなれば最高だと思うんだけどね」
笑ったオパールの使いのシルフが頷くのを見て、ルークも笑って最後の一切れになった果物を口に放り込んだのだった。




