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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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贈り物のお礼

『クラウディアです』

『隣にニーカもいるわ』

『素敵な贈り物を本当にありがとう』


 最後は二人のシルフが声を揃えてそう言って嬉しそうに笑いながら手を振る。

 これは普通の伝言のシルフ達だから、聞こえている声はシルフの声だ。

『箱を開けてびっくりしたわ』

『あんなに沢山本当にありがとう』

『それに皆にって届けてくださった分も素晴らしかったわ』

『ルーク様とロベリオ様とユージン様』

『それからティミーからも沢山頂いたのよ』

『皆で大喜びで抱き合ってちょっとだけ泣いちゃったわ』

 口々に二人のシルフが話すその言葉を聞いて、レイは嬉しくなって大きく頷いた。

「ああ、もう届いたんだね。こっちこそ、今まで気が付かなくてごめんね。気軽に相談してくれれば良かったのに」

 笑ったレイの言葉に、二人のシルフが揃って慌てたように首を振るのを見て、レイも苦笑いしてその事はそれ以上言わなかった。




『実は先にルーク様にお礼を言おうと思って伝言のシルフを寄越したの』

『だけどお忙しいみたいで今は駄目だってシルフ達が言うから』

『それで相談してロベリオ様を呼ぶようにお願いしたの』

『そうしたら出てくださったんだけど』

『ティミーとユージン様とご一緒に』

『何処かへお出掛けの最中だって仰るから』

『贈り物のお礼だけ言ってすぐに失礼したのよ』

『それでレイを呼んだんだけどね』

『今度も今はお忙しいからちょっと待っててって言われて』

『ちょっだけ待っていたのよ』

 クラウディアとニーカの二人の伝言のシルフ達が、交互に笑いながら連絡を寄越した経緯を伝えてくれる。

「あはは、そうだったんだね。お待たせしてごめんね。実は今、皆でアルジェント卿のお屋敷に来ているんだ。えっと、陣取り盤っていう盤上で駒を取り合うゲームがあるんだけどさ。これがすっごく面白くて愛好者がたくさんいるんだ。多分、貴族の男性の方はほとんどの方がやってるんじゃないかな。今日はその中でも最強と名高い戦略室の会って倶楽部があってね、それの会合に呼んで頂いたんだ」

『へえ、すごい』

『じゃあレイルズもそこの会員なの?』

 無邪気に感心するニーカの言葉に、レイは慌てて首を振った。

「とんでもない。僕なんかじゃあとてもついていけないような、すっごく強いお方ばかりだよ。今日の僕は招待客扱いなんだよ。えっと、マイリーとルークはここの会員なんだってさ」

『そうなのね』

『マイリー様は確かにお強そう』

『私達にはさっぱり分からない世界だけどね』

 感心するクラウディアの言葉に、ニーカのシルフが笑いながらそう言って肩を竦めていた。

「そうだよ。マイリーは陣取り盤では最強って言われてるんだけどさ、ティミーがね、実は凄かったんだよ!」

 レイは笑顔でそう言って、初めてマイリーと対戦した時の事や、自分が怪我で寝込んでいる間にディレント公爵やゲルハルト公爵を打ち負かして未成年ながら入部の権利を獲得した事などを話した。

 二人にとっては文字通り全くの未知の世界だが、ティミーが凄いのだという事はなんとなく理解したのだった。



「ああ、ごめんね。長々と話しちゃって。そろそろ戻らないと駄目だよね」

 すっかり話し込んでいたが、彼女達にはまだきっとお勤めがあるだろう。我に返って慌てて謝るレイに、二人のシルフは揃って首を振った。

『大丈夫よ』

『夕刻のお勤めまでまだ少し時間があるの』

『皆からもしっかりお礼を言ってねって頼まれてるわ』

『ルーク様ロベリオ様ユージン様』

『それからティミーにも心からの感謝をお伝えいただけますか』

 二人のシルフが揃って両手を握って額に当てて跪くのを見て、レイは大きく頷いた。

「分かった。今なら皆ここにいるから皆が喜んでいたって伝えておくね」

『ありがとうございます』

 嬉しそうな二人のシルフの声が重なる。

『それじゃあまたね』

『次に会えるのはどこかしらね』

 笑って手を振る二人のシルフを見て、レイも笑顔で手を振る。

「そうだね。訓練所か、本部にお掃除に来てくれた時かなあ。でも僕もまだ今週の予定を詳しく聞いてないから分からないね」

『そうなのね』

『どうか無理しないでね』

『それじゃあまたね』

『それじゃあまた!』

 笑って手を振ってくるりと回っていなくなるシルフ達を笑顔で見送る。



「良かった。贈り物は喜んでもらえたみたいだね」

 消えたシルフ達のいた場所に現れたブルーのシルフに、レイは笑って嬉しそうにそう言ってクッションを抱えた。

『ああ、良かったな』

 頷くブルーのシルフに照れたように笑ってクッションに顔を埋める。

「良かった、喜んでもらえた」

 ぐりぐりとクッションに顔を埋めているレイを見て、ブルーのシルフが低い声で笑う。

『ほらほら、そろそろ戻らないとティミーの勝負を見逃してしまうぞ』

「ああ、そうだった! 大変だ、戻らないと!」

 慌てて起き上がってクッションを戻して大きく伸びをする。

「ええと。控えの間にいる執事さんを呼べばいいんだよね」

 立ち上がって軽く服を払ったレイは、そう呟いて控えの間の扉を軽くノックする。

 すぐに執事が出て来てくれて、そのまま先程の遊戯室へ戻った。



「ああ、やっと戻って来たな。ほらここへ来いって!」

 部屋に入ったレイに気がついたルークが、顔を上げて手招きしてくれる。

 大急ぎで開けてくれたルークの隣に潜り込んで、はや終盤に差し掛かった盤上を息をこらして見つめたのだった。

 ニコスのシルフ達とブルーのシルフも、レイの両肩に並んで座りゲルハルト公爵とティミーの対決を真剣な表情で見つめていたのだった。

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