ティミーの到着と伝言のシルフ
明けましておめでとうございます。
本日より更新を再開させていただきます。
今年も、愛しい少年と仲間達の進む道をどうぞ共に見守ってやってください。
本年も、よろしくお願い申し上げますm(_ _)m
「ううん、やっぱりマイリーは凄い!」
最後はマイリーの一方的な攻撃であっけなく女王を落とされてしまい、ポルト大佐は情けない声をあげて顔を覆った。
「相変わらず可愛げのない奴だな。ちょっとは先輩に対して配慮と言うものをだなあ……」
文句を言いつつも、ポルト大佐の顔は楽しそうに笑っている。
「申し訳ありませんねえ。生まれてこの方、可愛げなどというものとはとんと縁がございませんので」
平然とそう言いながら謝るマイリーの言葉に、ポルト大佐は遠慮なく吹き出して大笑いしている。
軍部の事務方の長であるポルト大佐は、軍人ではあるが、精霊魔法訓練所のケレス学院長といい勝負をするくらいに横幅を取る大柄でふくよかな体型だ。その大柄な体を揺らしてソファーにもたれかかって大笑いする姿は、何とも豪快だ。
「はあ、笑い過ぎで涙が出るぞ。しかしいくら何でも、赤ん坊の時くらいは少しは可愛かったのではないか?」
ようやく笑いを収めたポルト大佐にからかうようにそう言われて、駒を並べ直していたマイリーが少し考えて首を振った。
「さすがに、赤ん坊の時がどうだったかは覚えていませんね。ですが、少なくとも記憶にあるかぎり可愛いと言われた覚えはありませんねえ」
「マイリー、それは人の子としてどうかと思います」
横からレイが真顔でそう言うのを聞いて、ポルト大佐だけでなく、周りで聞いていた人達までが揃って吹き出し大爆笑になったのだった。
その後、レイがポルト大佐に相手をしてもらい打ち始めてすぐの時にティミーが到着した。ロベリオとユージンも一緒だ。
「ああ、ご苦労さん」
並んでやって来た三人を見たルークの声に、振り返ったレイは立ち上がりかけたが慌てて座り直す。さすがに、勝負の際中に勝手に立つのは失礼だろう。
「失礼しました!」
慌てて謝り座り直す。
「ああ、構わないよ。ほら、君の番だ」
笑ってそう言われてもう一度一礼したレイは、一つ深呼吸をしてからそっと兵士の駒を動かした。
当然だがポルト大佐も相当強く、しかもかなり個性的な攻め方をする。レイは中盤辺りで既に自分の陣地が崩壊寸前にまで追い詰められていた。
「おお、なかなか頑張ってるじゃないか」
横から覗き込んだロベリオの言葉に、レイは大きなため息を吐いて首を振った。
「もう限界です。壁の駒が無くなりそうです」
「さあて、どうだろうなあ」
笑ったロベリオの言葉に、レイの手が止まる。
「あれ、まだ方法がありますか?」
「もちろん。なんだよ、もう諦めてるのか?」
その言葉に急に真剣な顔になるレイを見て、ポルト大佐は嬉しそうに笑った。
「さあて、どうなるかね? 言っておくが、もうあまり時間が無いぞ」
そう言って三分の二以上が落ちた砂時計を指差す。
「うわあ、こんなの絶対無理です!」
必死になって頭の中で守りの展開を考えていたレイは、急に無言になった。笑ったニコスのシルフ達がレイの視線を見てから、僧侶の駒を揃って指差している。
「あれ、もしかして……ここ?」
小さく指で位置を確認してからそっと僧侶の駒を進ませて前衛にする。それから、次の手で空いた位置に兵士の駒を進ませて止めた。守備の交代と呼ばれる進め方だ。
無言で拍手をするロベリオを横目で見て、小さく笑ったポルト大佐は平然と別方向からの攻撃を開始した。
本来なら、対戦中の横からの口出しは禁止されている。しかし、今は明らかに実力に大きく差がある対戦なので、ある程度の声掛けは暗黙の了解として認められている。
次々に攻められるのを必死になって凌ぎつつ、しかしどんどん追い詰められていく展開にどうしてもレイに焦りが出る。
「うああ、やっちゃったかも!」
前の守りばかりに気を取られて咄嗟に馬車を進ませた瞬間、自分の過ちに気がついたレイが情けなさそうな悲鳴を上げる。
「おお、やっと引っ掛かってくれたな。これで王手だ。ふむ、なかなかに頑張ったではないか。後半のここはなかなかに良かったぞ」
ポルト大佐の嬉しそうな言葉とともに、相手の女王が一気に攻めてきて逃げ道を完全に塞がれてしまい、ここで投了となった。
「ありがとうございました! ああ、駄目だ。集中力が続きませ〜〜ん」
深々と一礼して、改めて盤上を見たレイが大きなため息と共にそう言って横に倒れる。
「まあ、連続で打つのにも慣れが必要だからな。初めてにしては充分頑張っているさ。自信を持ちなさい」
笑ったポルト大佐の言葉に、何とか起き上がってもう一度お礼を言うレイだった。
到着早々、ティミーは挨拶もそこそこに両公爵に捕まり、早速再戦が始まっていた
両公爵がくじで順番を決め、まずはゲルハルト公爵が向いに座る。周りに人が一気に集まるのを見て、レイも側へ行こうとした時に目の前に伝言のシルフが現れた。
「あれ、伝言のシルフだ。えっと……」
そう呟いて周りを見回す。
さすがに、部外者が大勢いるこの場で個人的な伝言を受けるわけにはいかない。
困っていると、執事がそっと近付いてきて一礼した。
「別室へご案内いたします」
「ああ、ありがとうございます。部屋を変えるから、ちょっとだけ待ってくださいね」
笑顔でお礼を言い、後半はレイの手に座った伝言のシルフに話しかけ、そのまま一緒に一旦部屋から出て行く。
勝負が気にはなるが、この一戦だけという事は無いだろうし、きっと後で誰かが再現してくれるだろう。
執事の後ろを歩きながら、そう考えて小さく深呼吸をする。
「こちらのお部屋をお使いください。私はこちらの別室に控えておりますので、終わりましたらお呼びください」
少し廊下を歩いたところにある部屋に案内され、お礼を言って中に入る。
やや狭い部屋だが話をするだけなら充分だ。ソファーが置かれていたのでそこに座る。
「お待たせしました。どうぞ」
机の上に並んだシルフに話しかけると、先頭のシルフが笑顔で口を開いた。
『クラウディアです』
『隣にニーカもいるわ』
『素敵な贈り物を本当にありがとう!』
伝言のシルフの口から聞こえたその言葉に、レイはこれ以上ない笑顔になるのだった。




