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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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それぞれの対決

「では先手で」

 にんまりと笑ったマイリーが、そう言ってゆっくりと白の駒を動かす。

 ゲルハルト公爵も、大きなため息を一つ吐いて即座に駒を動かす。

 周りが息を潜めて見つめる中を二人は淡々と駒を動かしていく。

 次第に陣が出来上がっていき、そこから駒の取り合いが始まると、さらに打つ手が速くなった。それは隣で二人の戦いを再現していた人達がついていけないくらいの即打ちだった。

「ええ、ちょっと待ってください。早過ぎるって」

 必死で二人の駒を目で追っていたレイが、早々に展開についていけなくなり小さな声で情けない声を上げる。

「まあ見てろ。初めはついていけなくて当然だよ。この二人の早打ちは、俺達でもついていくのがやっとだからな」

 ブルーのシルフとニコスのシルフ達が、揃ってマイリーの横へ行って陣取り盤を覗き込んでいるのを見て、レイは小さく笑って一つ深呼吸をすると、少し考えて全体を見るのではなく、マイリーの手だけを必死になって追いかけ続けた。



「次はそこ、それで次は……ああ、そっちへ行った」

 一緒になって次の手を頭の中で必死になって考え続け、マイリーが打つ手を見る度に密かに感心していた。

 駒の数が減り始めると打つ手はさらに速くなり、もうレイは完全についていけなくなってしまった。

「凄すぎる。頭の中はどうなってるんだろうね」

 どうやら最後はマイリーが一方的に攻める展開になり、ゲルハルト公爵は防戦一方になってしまった。

「ああ、駄目だ! やっぱり後攻を取った時点でほぼ負けてるよな」

 顔を覆って情けない声で叫んだゲルハルト公爵は、マイリーが最後の一手を打つのをため息と共に見ていた。

「これで三連勝だな」

 嬉しそうにそう言って笑ったマイリーが、王様の駒を弾いて勝負が終了した。

 途端にあちこちから歓声と拍手が沸き起こり、レイも笑顔で拍手を贈ったのだった。



「はあ、さすがに疲れたよ」

「俺も疲れた」

 ゲルハルト公爵がそう言ってソファーに倒れ込むと、マイリーも苦笑いしながら同じように大きなため息と共にそう言って背もたれに倒れ込んだ。

「お疲れ様です。はい、どうぞ」

 ルークが、赤ワインをマイリーに差し出す。

 それを見たレイが慌てて周りを見て、執事が即座に用意してくれた赤ワインを受け取ってゲルハルト公爵に届けた。

「はあ、美味しい」

 奇しくも二人の口から同時に同じ呟きがもれる。

「いやあ、良いものを見せてもらったよ。本当に見事な勝負だったな」

 アルジェント卿の言葉に、二人は揃って苦笑いしていたのだった。



 その後は、また別の人に相手をしてもらい、レイはもう時間も忘れて夢中になって駒を動かしていたのだった。

「かなり、打つ手も早くなってきたな」

 感心するようなルークの声に、ひと勝負終えたところだったレイが大きなため息と共に振り返る。

「確かに、今日だけでもすっごく勉強になったと思います。色んな人と打った方が良いって言ってた意味が分かりました」

「おお、ちゃんと理解できているじゃあないか。上等上等」

 嬉しそうにそう言ったルークは笑ってレイの頭を突っつくと、笑顔でレイの前に座ったバーナルド伯爵を見て、笑顔で頷きレイの背中を叩いた。

「ほら、ご指名だよ」

「うう、バーナルド伯爵閣下も、ここの部員だったんですね。奥様にはいつもお世話になっています」

 イプリー夫人には夜会で度々お世話になっているが、バーナルド伯爵本人とはあまり話した記憶が無い。

 慌てて居住まいを正すレイに、バーナルド伯爵は苦笑いしている。

「まあ、世話好きな彼女の事だから、きっと好き勝手されているんだろうさ。ほどほどにしておくように言っておくよ」

「とんでもありません。いつもとってもお世話になっています!」

 伯爵のその言葉に慌てたようにレイが言うのと、横で聞いていたルークが吹き出すのは同時だった。

 遅れて伯爵も吹き出す。

「いや、失礼。噂通りのお方だね。これは彼女が気にいるわけだ」

 口元を押さえて笑いを堪える伯爵を見て、レイが首を傾げる。

 その様子に、あちこちからも温かな笑い声が聞こえていたのだった。



 そろそろ疲れてきて一休みしていると、ルークの前にシルフが現れて座った。

「あれ、伝言のシルフだ」

 レイが急いで離れようとすると、笑ったルークがそれを止めてシルフを見た。

『ルーク様ティミーです』

『間も無くお屋敷に到着します』

「おう、待っていたよ。気をつけてな」

『はいよろしくお願いします!』

「ティミー待ってるからね!」

 横から手を振ってレイがシルフに話しかける。

『はいよろしくお願いします!』

 もう一度嬉しそうにそう言ってからくるりとまわって消えるシルフを見送った。



「楽しみだな。いつものお泊まり会とは違うから、どんな風になるんだろうね」

 クッションを抱えたレイは、そう呟いて体を起こして大きく深呼吸をすると、隣で対決しているマイリーとポルト大佐の、これまた拮抗している真剣勝負を目を輝かせて見学するのだった。



いつもお読み頂き有難うございます。

年内の更新は、今回を最後にしてお正月休みをいただきます。

年明けは三日夜(四日早朝)より、更新を再開させていただきますので、しばらくお待ちください。それでは皆様、どうぞ良いお年を!



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