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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ルーク達の気遣いとクッキーの誠実さ

「じゃあ、このカードと一緒にお願いすれば良いんだね」

 笑顔でそう言って、レイは二人宛に書いたカードを入れた封筒に、それぞれ溶かした蝋を落として四つ葉のクローバーの紋章を押して封をする。

 しっかりと蝋が固まった事を確認してからそれぞれの箱の上にカードの入った封筒を置いた。

「かしこまりました。それでは、贈り物はこちらでお届けしておきます」

 笑顔でそう言ってくれるクッキーに、レイは改めてお礼を言った。



 今回選んだ品物は全て、以前レースの見本をたくさん届けてもらった時のように、ポリティス商会から神殿にいる彼女達にレイルズからの依頼だと言って届けてくれるのだと聞き、どうやって持って行こうか必死になって考えていたレイは、密かに安堵の息を吐いたのだ。

「降誕祭の贈り物やなんらかのお祝いなどで直接会って話をされる場合を除けば、貴族の方々の通常の贈り物は、このように依頼を受けた商会がお届けするのがほとんどですね。これも経験ですから、一つずつこうして覚えていってください。また何かありましたらいつでもご遠慮なく相談してくださいね」

 頼もしい友人の言葉にレイは嬉しそうに頷き、笑顔でこっそりクッキーと拳を突き合わせた。



「おおい、もう終わったか?」

 その時、ノックの音がしてロベリオとユージン、それからティミーとルークが顔を出した。

「うん、もう終わったよ。お揃いでどうしたの?」

 レイが笑顔でそう言って、机の上に置いてある木箱と封筒を示す。

「いや、レイルズが巫女達に帯飾りを贈るって聞いて、ティミーが自分も贈りたいって言うからさ。それなら彼女達にはティミーからも、それで俺達竜騎士隊一同からだって言って、女神の神殿の巫女達宛にまとめて色々届けてあげれば良いかと思ってさ」

 ルークの提案に、クッキーが目を見開いて一瞬黙り、それから大きく頷いた。

「確かにそれは良いお考えですね。今回お持ちしているのはほとんどが日常使い程度のお品ですから、どなたでも気軽にお使いいただけます」

 横でその言葉を聞いていたレイは、何か言いかけて眉を寄せて考え込み、それからルークの袖を引っ張った。

「えっと、それってつまり……僕が彼女だけを依怙贔屓しているように思われないように、他の帯飾りを持っていない子達の為にルーク達が贈り物をしてくれるって意味、だよね?」

「おお、よしよし。ちゃんと分かってるじゃないか。その通りだよ。まあこういった品は幾つあっても良いだろうからな」

 ルークがレイの言葉を聞いて笑ってそう言い、片付けかけていたトレーをもう一度机の上に並べているポリティス商会のスタッフ達を見た。

「もうちょい早く来ればよかったな。二度手間で申し訳ない」

「いえ、とんでもありません。どうぞごゆっくりお選びください」

 笑顔で一礼して下がる男性の腕を軽く叩いて、ルークが真剣にトレーに並んだ帯飾りを眺め始める。

「それでレイルズは、どんなのを選んだんだい?」

 ロベリオにそう聞かれて、レイは得意満面でクッキーが開けてくれた木箱の中を見せた。



「へえ、かなり色々と選んだんだな。これならもう俺達は遠慮せずに選べるな」

「確かにそうだね。だけど石付きのはあまり持って来ていないんだな」

 横から同じようにレイの選んだ帯飾りを見ていたユージンが、不思議そうにそう言ってクッキーを振り返る。

「はい、今回は普段使い用にとのご希望でしたので、石付きはこの辺りのごく小さな物のみをお持ちしております。その、レイルズ様には申し上げたのですが、石付きは、正直に申し上げると当商会の品よりもドルフィン商会のお品を選ばれる方が良いのでは?」

 最後はごく小さな声でそう言い、苦笑いしつつクッキーはユージンとロベリオをチラリと見る。

「あはは、賢明な提案を感謝するよ。レイルズは良い友人を持ったな。こういう自分のところの利益だけじゃなくて、相手の事も考えてより良い品を提案してくれる商人は貴重だからな。大事にしろよ」

「もちろん。クッキーは僕の自慢の友達でもあるんだからね」

 ロベリオの言葉にレイは嬉しそうにそう言って何度も頷いていた。



 竜騎士隊に品物を納める商会はかなりの数に登るが、どこの商会も扱う商品には得手不得手がある。

 例えばクッキーのいるポリティス商会は、今では手広くさまざまな品物を扱っている大手の商会の一つだが、元は原皮を扱っていた革商人で今でも装備品の素材に非常に強く、職人達からの信頼の厚い商会でもある。

 なので大抵の品物は扱っているが、逆にいうと器用貧乏になりがちで、特に宝飾などの高級品では専門のドルフィン商会には完全に劣る。

 それを充分に自覚しているクッキーは、そういった高級品を贈る際には、自分のところで買うのではなくドルフィン商会を勧めたのだ。

 これは本来ならば商人としてはあるまじき行為だ。せっかく自分のところに声をかけてくれているのだから、気にせず一番高級な品を勧めれば良い。

 しかし、それよりもはるかに良い品物を扱う商会が他にあるのを知っていながらそれをするのを、クッキーは良しとしなかったのだ。

 これはある意味、クッキーのポリティス商会が自分の商会で扱う品物に精通していて、それらの価値をしっかりと理解しているからこそ出た言葉でもある。

 結果として一つの品物の取り引きを失う事になるが、代わりに得る信頼は計り知れないものがある。

 クッキーはその意味を理解している稀有な商人でもあるのだ。



「成る程ね。君のような誠実な商人がレイルズの友達になってくれて嬉しいよ。頼りにしてるからこれからもよろしく頼むよ」

 横で一緒に一連の話を聞いていたルークに笑顔でそう言われて背中を叩かれ、恐縮するクッキーだった。



『成る程なあ。損して得取れとはまさにこの事だな。人の子の商いとは面白いものだ』

 机に置かれた燭台に座って彼らの会話を聞いていたブルーのシルフは感心したようにそう呟いて、笑いながら何度も頷いている。

 ニコスのシルフ達も、嬉しそうに一緒に何度も頷きながら揃って拍手をしていたのだった。

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