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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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癒しの言葉

 翌日からは再開された朝練にせっせと真面目に参加して、ひたすら走り込みと柔軟体操を行った。

 まだまだ以前のようには出来ないけれど、少しずつでも回復している事が実感出来て、もっと頑張ろうと密かに誓っているレイだった。

 食事のあと、午前中は事務所で事務仕事を手伝ったり、またお城の会議を見学したりもした。

 カウリは同じ見習いだがルークやマイリー達と一緒にお城の会議に出ている事も多く、ここでも同じ見習いでも扱いが違っていて、自分の前の列に座っているカウリを尊敬の眼差しで見つめているのだった。



「レイルズ様、凄いです。もうすっかり回復しましたね」

 ようやく胸の周りの痛みも取れて来たその日、朝練の後に食堂へ向かう時に、ティミーがそう言って目を輝かせてレイを見上げた。

「そうだね。ちょっとは無理しても大丈夫になってきたね」

 嬉しそうに腕を回しながらレイが答える。

 到着した食堂で、それぞれにトレーを持って並び、好きに料理を取っていく。

 ティミーは相変わらず少食だが、ここへ来た最初の頃に比べたらかなり食べられるようになっている。

 今も丸パンを一つとレバーフライを二枚取っている。最初の頃は一枚のレバーフライも食べきれなかったくらいなのだから、かなり頑張っていると思っていいだろう。

「今日のスープは、僕の好きなカボチャのスープだ」

「ああ、それは僕も好きです。美味しいですよね」

 黄金色のなめらかなカボチャのスープは二人とも大好きなのでたっぷりと取る。

 レイは他にも山盛りに取って席についた。

 きちんとお祈りをしてから食べ始めた。

「このレバーフライ、美味しいですよね。僕、ここへ来てレバーフライが大好きになりました」

 嬉しそうにそう言って、丸パンにレバーフライを二枚挟む彼を見て、レイも笑顔でそれに倣った。

 仲良く大きな口を開けて食べる二人を、ルークやロベリオ達は苦笑いしつつも愛おしげに見つめていたのだった。



 デザートのミニマフィンとカナエ草のお茶を用意して席に戻る。お茶に入れる蜂蜜は、全ての机に並べてくれてあるのでわざわざ持ってこなくてもいい。

 ティミーは、カナエ草のお茶と果物の盛り合わせたお皿を取って戻ってきた。

 笑顔で顔を見合わせて、それぞれ取ってきたものを口に入れた。



「実は僕、この間走ってて転んじゃったんです。服の上からだったから大丈夫かと思ったんですけど、膝を大きく擦りむいてしまって、ちょっとまだ痛いんです」

 果物を綺麗に平らげて、二杯目のお茶を入れていたティミーが情けなさそうにそう言ってレイを見る。

 その言葉に、レイは驚いてロベリオを振り返った。

「ほら、昼間の時間のある時は運動場の周辺なんかを頑張って走ってるんだよ。それで林の横を走ってた時に、何かに躓いたみたいでさ。うっかり転んじゃったらしいよ」

「ええ、ノーム達は守ってくれなかったの!」

 驚くレイに、ロベリオが困ったように首を振る。

「俺達は最初にノームの守りをつけていたんだよ。だけどティミーが大丈夫だから要らないって言ってさ。しかも俺のアーテルやユージンの竜のマリーゴールドよりもターコイズの方が竜の位で言えば上だろう。ティミーがいらないって言ったもんだから、俺とユージンが寄越したノーム達は手出しを出来なかったらしいんだ」

「その上、ターコイズが寄越したノーム達まで、本人が嫌がってるからって言って手出し出来なかったらしくてね。それでこんな事になったんだよ」

 ユージンまで一緒になって、困ったように苦笑いしながらそう言って首を振る。

「だけどさすがにそれはまずいだろうって言ってね。よく話し合って、今後はしっかりとノームの守りをつけてもらうって事で納得してもらったんだ。いやあ、まさかこんなところで竜の上位か下位かなんて事が関係してくるとはね。ちょっと驚いたよ」

 驚いてティミーを見ると、申し訳なさそうに首を振った。

「ロベリオ様に詳しく教えていただきました。精霊達は言葉どおりに物事を聞くので、強がりや嘘をついてもその通りに受け取ってしまうのだと。だけど僕、本当に走るくらいなら大丈夫だと思ってたし、いざとなったらゲイルが守ってくれると思っていたんです。だから、転んで怪我をしたって知った時には逆に驚いちゃいました。それで、後からゲイルからも叱られました。無駄な強がりはいけないって」

 何度も頷くレイを見て、ティミーも笑顔になった。

「だから今度からは、精霊達にしっかり守ってくださいってお願いしました」

「そっか、分かったならいいよ。じゃあしばらくは安静かな?」

「ハン先生から、一応今日は大人しくしているように言われました。なので部屋で訓練所の予習をします」

「本当は今日は訓練所へ行かせる予定だったんだけどね。まあ無理させないようにって事だったんで、急遽お休みさせたんだよ」

「うん、すり傷くらいって甘く見ないでね。えっと、怪我をしたのはどっちの足?」

「実は両方です。こことここ、思いっきり擦りむいてしまいました」

 そう言って、まるでレイのように眉を寄せるティミーを見て、レイはそっとしゃがんで両手を膝に当てた。

「痛いの痛いの飛んでけ〜」

「レイルズ様、すごい! 痛くなくなりました!」

 嬉しそうなティミーの言葉にレイも笑顔になる。

「おいおい、何だよそれ。痛いの痛いの飛んでけ〜〜?」

「あはは、それは初めて聞いたかも。面白いねえ」

 横で見ていたロベリオ達がそう言って笑う。隣ではルークも笑っている。

 ブルーがいつもそう言って癒してくれていたし、ニーカも確かそう言っていた。精霊魔法訓練所で癒しの術を披露した時にもこう言って行ったけれど、特に教授からは何もいわれなかった。

 なのでこれが癒しの術の時に言う言葉だと思っていたレイは、目を見開いて自分のカップの横に座っているブルーのシルフを見つめた。

『癒しの術は、何か言って発動する者もいれば何も言わずに発動する者もいる。人によって様々だな。その言葉は、我の以前の主殿がいつも唱えていたんだよ。笑ってそう言って仲間に癒しの術を与えていた。だから我もそう言って癒すようになったのだよ。どうだ、なかなかに良い言葉であろう?』

 笑ったブルーのシルフの言葉に、レイは小さく息を呑む。

「ブルーの前の主様の?」

 黙って頷くブルーのシルフをレイはそっと手の上に乗せて抱きしめるみたいに優しく包み込んだ。

「そのお方に心からの感謝を。素敵な言葉をいただきました。改めて、僕も使わせてもらうね」

 少し目を潤ませてそう言って笑うレイに、ブルーのシルフは嬉しそうに笑ってそっと指先にキスを贈った。

 周りで見ていたルーク達は黙ってそっと腰の剣を軽く抜いて戻し、その場に聖なる火花を散らしたのだった。

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