平和な朝の光景
『寝てるね』
『寝てるね』
『起こすの?』
『起こすの?』
『どうする?』
『どうするどうする?』
翌朝、いつもの時間に集まってきたシルフ達は、仲良く並んで熟睡している三人を見て楽しそうに相談を始めた。
この所、レイは怪我のせいで朝練には参加していない。運動は一切禁止だった為、朝はゆっくりなのだ。
「あっつい……シルフ、風をくれよ……」
半ば寝ぼけたまま、マークがそう呟く。
その声に、部屋の中をゆっくりとひんやりした風が吹き抜けていった。寝返りを打って仰向けになったマークは、気持ちよさそうに大きな欠伸を一つしてまた眠ってしまった。
レイとキムはそもそも目も覚さないで二人とも熟睡している。
一度様子を見に入ってきたラスティは、気持ち良さそうに熟睡している三人を見て、何も言わずに一礼して下がって行ったのだった。
「ううん……」
九点鐘の鐘が鳴ってしばらくしてから、レイが最初に目を覚ました。
ベッドに手をついて、ゆっくりと起き上がる。
「えっと……あ、そっか。マークとキムが泊まってくれたんだった」
自分を挟んで左右に寝ている二人は、まだ熟睡している。
昨夜は天体望遠鏡を取り出して月を見たり、輪っかのある惑星がちょうど見える位置にあったので、それを二人に見せてあげたりした。
初めてみる星の世界に二人はすっかり夢中になり、空が白み始めるまで窓を開けて星を眺めながらおしゃべりを楽しんだのだった。
「ふああ、まだ眠いや」
大きな欠伸をしたレイは、ゆっくりともう一回ベッドに横になった。
「まだ僕は療養中だから、朝はゆっくりで良いんだもんね」
満足そうに小さく呟くと、最近の抱き枕にしている縦長のクッションに抱きついてまた目を閉じてしまったのだった。
『また寝た〜〜!』
『おねむなの〜〜』
『朝だけど』
『おやすみなの〜〜〜!』
『おやすみなの〜〜〜!』
ご機嫌で声を揃えたシルフ達は、熟睡しているマークやキムの胸元に潜り込んだり、レイのふわふわな髪の毛をせっせと三つ編みにして絡ませたりし始めた。
ベッドサイドに置かれた机に座ったブルーのシルフは、そんなシルフ達を見て楽しそうに笑っていたのだった。
結局、三人が起きたのは、もう間も無く正午の鐘が鳴ろうかという時間だった。
「あはは、すっかり寝過ごしちゃったな。ええと、食事はどうする? 食堂へ食べに行っても良いのかな?」
「ええと、どうなんだろうね?」
もうすっかり目を覚ましたマークとレイと違い、キムはまだベッドに転がったままだ。
「ほら、起きろって。幾ら何でも寝過ぎだよ」
額を叩いて腕を引っ張って起こしてやる。そのまま無理矢理立ち上がらせてやったところでさすがに目を覚まし、若干フラフラしつつもキムは自分で洗面所へ向かったのだった。
「相変わらず、朝は弱いんだよな。ま、もう朝って時間じゃないけどなあ」
笑ってそう言い、マークはレイの頭を突っついた。
「寝癖も相変わらずすごいぞ。俺はもう顔洗ってきてるから、お前も顔洗いに行ってこいよ」
マークはそう言って笑い、ベッドに起き上がって座っているレイの寝癖だらけの後頭部を突っついた。
「うん、僕は今顔を洗うのは禁止。ほら俯いてこうやると、痛いでしょう」
少しだけ下を向いて顔を洗う振りをする。
「ああ、そっか。ええと、じゃあどうしてるんだ? 水汲んできてやろうか?」
「えっとね、ラスティが水で濡らした布を用意してくれるから、それで顔を拭くんだよ」
「おう、ご苦労さん。そうだよな。確かに肋をやった時って顔を洗うのに苦労したなあ」
確かに自分が怪我をした時も、自分で布を軽く絞って顔を拭いていたのを思い出して苦笑いしているマークだった。
「おはようございます。お食事の準備が出来ております。レイルズ様はこれでお顔を洗ってください」
その時、ノックの音がしてラスティと執事が部屋に入って来た。ラスティは水盤を乗せたワゴンを、執事は料理のお皿が何枚も乗った大きなワゴンを押している。
「おはようございます。ええと、食事はここで食べるんですね」
「おはようございます。はい、お二人の分ももちろんご用意しておりますので、どうぞご一緒にお召し上がりください」
もうこのまま失礼するつもりだったマークは、当然のように用意された三人分の食事を見て、慌てて立ち上がってお礼を言ったのだった。




