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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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嬉しい提案

『えっとレイルズです』

『もうお掃除は終わった?』

 並んだシルフが、レイの声で話し始める。

「ええ、今お掃除は終わって後片付けをしながら貴方の噂をしてたところよ。ねえ、お怪我をしたって聞いたけど、具合はどうですか?」

 目を見開いたクラウディアがシルフ達を見つめたままいつまで待っても返事をしようとしないので、苦笑いしたニーカが横から覗き込むようにしてそう答える。

『よかった』

『お仕事の邪魔したんじゃないかと思ったよ』

「今日は祭壇のお掃除だけだったから、そんなに時間もかからなかったわよ」

 まだ動かないクラウディアを横目に見ながらニーカが答える。

『えっと今マークとキムがお見舞いに来てくれててね』

『それで二人から聞いたんだけど』

『僕の怪我は大した事ないから心配しないでね』

『一応念の為に安静にしてるだけだからさ』

 申し訳なさそうなその言葉に、ようやくクラウディアが反応した。

「レイ! 本当に大丈夫なの? 無理してない?」

 縋るようなその声と泣きそうな様子を見てニーカが下がる。

『うん大丈夫だよ』

『わざわざ怪我したって報告する方が心配かけるかと思って』

『それで連絡しなかったんだ』

『却って心配かけてたみたいでごめんね』

 申し訳なさそうに謝る声は、確かにいつもと同じ元気そうな声だ。

 それでも湧き上がる不安に半泣きになるクラウディアを見てニーカも困っていると、不意に伝言のシルフが横を向いた。

『ねえラスティ』

『本部くらいなら構わないよね?』

『彼女達に会いに行っても良い?』

 思わぬ言葉に揃って目を見開くクラウディアとニーカに気付かないレイは、嬉しそうに笑って頷いてから前を向いた。

『本部なら行ってもいいんだって』

『えっとじゃあいつもの本部の休憩室へ行っててくれるかな』

『僕部屋着だから外へ出るなら着替えないと駄目だからさ』

『ちょっとお待たせしたらごめんね』

「そ、そんなの気にしないで。無理しないで!」

 慌てたようなクラウディアの言葉に、レイの使いのシルフが嬉しそうに笑う。

『えっと執事が迎えに行ってくれるんだって』

『だからそのままそこで待っててね』

 勝手に本部へ行っていいのか困っていた二人は、その言葉に笑顔で頷いた。

「分かりました。じゃあここで待っていればいいのね」

 ニーカの言葉にレイの使いのシルフが嬉しそうに頷く。

『それじゃあ後でね』

 笑顔で手を振ったシルフ達がくるりと回っていなくなるのを見送ってから、二人は顔を見合わせた。

「よかったね。大丈夫なんだって」

 抱えたままだった畳んだエプロンに顔を埋めたクラウディアは、そのまま言葉も無く何度もうんうんと頷いていたのだった。



「えっと、じゃあ急で申し訳ないんだけど、ちょっと着替えるから待っててくれるかな」

 シルフ達がいなくなるのを見送ってから、照れたようにレイが笑う。

「おう、じゃあレイルズが着替えている間にちょっと資料を片付けよう」

「ごめんね、せっかく持ってきてくれたのに、あんまり出来なかったね」

 机の上に少しだけ散らかしていた資料を見て申し訳なさそうに謝ると、二人は振り返って揃ってにんまりと笑った。

「ラスティ様と、それからルーク様に許可を貰ったから。俺達は夕食の後もここにいて良いんだって。だから資料の整理は、彼女達に会って戻って来てからな」

 一瞬、言葉の意味が分からなくて目を瞬いたレイだったが、意味を理解した途端に目を輝かせて身を乗り出した。

「ねえ。もしかして、もしかして今夜はここに泊まって行ってくれるの!」

 満面の笑みになるレイに、マークとキムも笑顔で大きく頷いた。

「おう、よろしくな。だけど枕戦争は無しだぞ。さすがに怪我人相手じゃあ遠慮なく殴れないからな」

「確かに、遠慮しながら殴るなんて面白くないもんな」

「だけどレイルズ相手なら、怪我してるくらいでちょうど俺達と対等の強さなんじゃないか?」

「確かにそうかも。じゃあやってもいいかな?」

「さすがにまだ無理だから駄目です〜〜! ハン先生から、まだ激しい運動は禁止されてま〜す!」

 顔を見合わせて大真面目にそんな事を言う二人を見て、レイは顔の前で大きくばつ印を作りながらそう叫んで、三人揃って大笑いになったのだった。



 レイの言葉通り、それからしばらくして竜騎士隊付きの執事が迎えに来てくれて、クラウディアとニーカは本部の第二休憩室へ通された。

「では、こちらでお待ちください」

 二人分のお掃除道具は、別の執事が大きなワゴンに積み込んで運んでくれたので今の二人は手ぶらだ。

 言われるまま、借りてきた猫みたいに大人しくソファーにくっついて並んで座った二人を見て、何も言わずに執事は一礼して下がってしまった。

「ううん、それにしてもすごく豪華なお部屋ね。ソファーの座り心地も抜群だわ」

 緊張しつつも、ニーカは楽しそうに部屋を見回しているが、クラウディアは緊張しているのか言葉も無く座ったまま固まっている。

 他の竜騎士隊の皆もいる時には、本部の休憩室へ呼ばれて一緒にお茶をいただいたりお話をする事もあるが、レイだけの時には、いつもこの第二休憩室を使っている。

 さすがに何度も来ている部屋だから見慣れては来たが、だからと言って寛げるかどうかは別の話だ。

 置いてあったクッションを抱えたニーカも、小さなため息を吐いてクラウディアにもたれかかるみたいにして息を潜めて黙り込み、二人はレイルズ達が来てくれるのを大人しく待っていたのだった。

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