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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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祝福の悪戯

「いやあ、それにしても貴族の方の結婚式ってやっぱり違うなあ」

「確かに、それにあの花嫁様の衣装の素晴らしい事」

 末席ではあったが、今回も結婚式に招待していただき、最後には第四部隊の仲間達と共に虹のアーチで祝福を贈ったマークとキムは、礼拝堂の前の広い庭に出てきて参列者達と歓談しているユージンとサスキアの二人を見て小さな声でそう言って何度も頷き合っていた。

「レイルズから聞いたけど、この後に行われる懇親会も楽しいらしいよ」

「ああ、噂では聞いた事があるよ。祝福の悪戯って言うんだっけ」

「そうそう、確かに楽しそうだよな」

「まあ、俺達には無縁の世界だけどな」

 笑ってそう言ったマークを見て、キムがにんまりと笑う。

「ええ、そんな事言ってて良いのかよ。ジャスミンはどうなるんだ?」

「いや、お前! いきなり何言うんだって!」

 唐突に真っ赤になったマークが顔を覆ってそう叫び、隣で大笑いするキムに、仲間の第四部隊の兵士達は何事かと不思議そうにそんな二人を見ていたのだった。




「お疲れ様。この後は懇親会があるけど大丈夫か?」

 花撒きが終わって、庭に出たレイとティミーにルークが手を振ってそう尋ねる。

 レイは今、肋にヒビが入っている為に専用の胸当てをしての参加だ。大人しくしていればもうそれほどの痛みは無いが、無理に体をひねったりするとやはりまだ少し痛む。今も、若干普段よりも動作はゆっくりだ。

「えっと、大丈夫だと思います。せっかくだからお祝いに一曲くらいは竪琴の演奏もしたいです」

 笑顔のレイの言葉にルークも笑顔になる。

「おう、了解だ。じゃあ、一緒に演奏しようぜ。あいつらにはあまり無茶はしないように言っといてやるよ」

 にんまりと笑ってそう言われて、一瞬何の事だか分からなくて首を傾げる。

「ああ、祝福の悪戯ですね。うわあ、お手柔らかに願います!」

 すぐに何の事か分かって慌ててそう叫ぶレイを見て、ルークは大笑いしていた。

 当然、祝福の悪戯が何かを知っているティミーは、隣で羨ましそうにそんなレイとルークを見ていたのだった。

 まだ未成年のティミーは結婚式への参列はしたが、この後の懇親会や晩餐会には参加しない。

 貴族の結婚式の場合、基本的に新郎新婦に血縁関係のある親戚や身内の未成年達も結婚式そのものには参加するが、懇親会や晩餐会には参加しない。別室にて開催される未成年の子供達だけを集めた食事会への参加となっているのだ。



「レイルズ様、じゃあ僕は本部に戻りますから、後でどんな風だったか教えてくださいね」

 迎えに来てくれた執事を見て、ティミーが残念そうにそう言って庭を振り返る。

「ああ、もう戻るんだね。今日はありがとうね」

 ちょうど迎えが来たのに気付いたユージンとサスキアが慌てたように来てくれて、笑顔でティミーと交互に手を叩き合った。

「ところでレイルズは、怪我の方は大丈夫かい?」

 一礼して執事と共に帰っていくティミーを見送り振り返ったユージンの言葉に、同じく隣で一緒に見送っていたレイは笑顔で頷く。

「無理な動きをしなければ大丈夫だよ。せっかくだから一曲くらい演奏させてください」

 そう言って竪琴を弾くふりをする。

「ああ、それは嬉しいね。是非お願いするよ。じゃああまり無茶な悪戯はしない事にするね」

「いや待ってください! そこは悪戯自体を遠慮するところじゃないんですか!」

 慌てたように叫ぶレイに、ユージンとサスキアは揃って吹き出して、顔を見合わせて笑って頷き合っていたのだった。

 一旦ユージン達と別れて、レイはルーク達と一緒にそのまま懇親会が行われる広間へ向かった。

 また、貴族ではないマーク達はここで解散なので、移動する彼らを見送ってから兵舎へ戻って行った。



 懇親会も前回のロベリオの時と同じく、賑やかに二人があちこちで悪戯をして、その度に皆で笑い合った。

 レイは、ルークと一緒に演奏のみで参加したのだが、やっぱり途中で子供用のヴィオラを持ったユージンと、ティンホイッスルと呼ばれるやや甲高い音がする縦笛を持ったサスキアに乱入されてしまい、途中でどこを演奏しているのか分からなくなり、もう最後には演奏するのを諦めて胸を押さえながらひたすら笑っていたのだった。

「待って、笑いすぎて痛いって」

 胸を押さえて泣き笑いになっているレイを見て大喜びでさらに賑やかに演奏するユージンとサスキアの様子に、会場はもう大爆笑になったのだった。

「あいつ、完全に遊ばれてる」

 大笑いしながらもユージンの演奏にピッタリ合わせてハンマーダルシマーを演奏しているルークも、実は笑いすぎて間違えそうになるのを何度も必死で誤魔化していたのだった。

 そんな彼らの頭上では、楽しい演奏に大喜びのシルフ達が大勢集まってきて、手を取り合って輪になって、楽しそうに演奏に合わせて踊っていたのだった。

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