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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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資料作りと間違い探し

「じゃあ僕はこれを読むね。何か気づいた点があれば言えばいいんだね」

「おう、よろしく頼むよ。じゃあ俺はこっちをするよ」

「じゃあ俺はさっきの計算の続きをするか」

 嬉々としたレイの言葉に、マークとキムも笑ってそれぞれやりかけていた書類を手にした。



 まずはベッドに座るレイに持ってきた大量の書類を見せ、今何をしてるのかを説明した二人は、とりあえず出来ている次の講義の資料の試し読みをお願いした。

 誤字や脱字はもちろん、解りにくい点や説明不足な点、添付資料の良し悪しや不備など、一つの資料でも確認しなければならない項目は山のようにある。

 精霊魔法の合成という、誰もやった事が無い全く新しい技を教えている為に参考となる資料の類が一切無い。

 その為、講義の度に、常に幾つもの新しい資料を一から作らなければならない彼らにとって、この出来上がった資料の確認作業は、地味に時間を取られてしまう事もありどうしても後回しにしがちな作業でもある。

 しかし、そろそろ本腰を入れて作らないといけないところまで来ていたので、今回大量に持ち込んだのだ。

 今は無理に動けないレイルズだが、目も手も頭も無事なので資料を読む事は出来る。

 算術盤は前屈みになって腕を上げないと使えないので、今回はそれは諦めて資料の確認作業をお願いしたのだ。

 部屋に置かれた大きな机に資料を広げてキムが検算を初め、その隣ではマークは新しい資料の下書きを始めた。

 それを見てベッドに座ったレイは、背中に当ててもらった大きなクッションにもたれかかって、渡された資料に真剣に目を通し始めた。



 しばらくの間、紙をめくる音と算術盤を弾く音、それからカリカリというペンの音だけが静まり返った部屋の中に聞こえていた。




「あれ、これなんだろう……ねえ、ここおかしいよ」

 資料を見ていたレイが、そう呟いて読んでいた手を止める。

「ええ、どこだ?」

 ちょうど計算を終えて次に進もうとしていたキムが、驚いたようにそう言って立ち上がる。

「ここ。ほら、こっちの説明と添付されてる魔法陣の計算の数値が途中から違うね。多分、どこか他の説明資料と一枚丸ごと入れ替わってるんじゃないかな?」

 差し出された資料と、添付されている魔法陣の計算式が書かれた表を見たキムは、顔を覆っていきなり吹き出した。

「おい、例の問題の資料が見つかったぞ!」

 キムの大声に、真剣に本から何かを書き写していたマークも堪えきれずに吹き出す。

 そのまま横を向いて咳き込んでいるが、あれは間違いなく笑いそうになって咄嗟に我慢して咽せたに違いない。

 それを見て、遠慮なくゲラゲラと笑ったキムは、渡された問題の資料をもう一度レイの前に置いた。

「実はこの前さ、少し遅くまで仕事をしてて、最後にちょっとだけだって言って頂き物のグラスミア産のウイスキーを一杯飲んだんだよ」



 キムの説明に、レイは目を輝かせて頷く。それはきっとレイが届けたお酒の中の一本だろう。

 彼らの使っている部屋は大佐の許可を得ていて、部屋での飲食や、ある程度の飲酒も認められている。



「だけど疲れてる時に普段飲んでるのよりも高級で強いのを飲んだもんだから、珍しく悪酔いしちゃってさ。立ち上がろうとした時に、うっかり積み上げてあった資料をひっくり返しちゃったんだよ」

「ええ、それは大変だったね」

 驚くレイに、二人が揃ってもう一度吹き出す。

「いやあ、あの時は二人とも酔ってたから、ゲラゲラ笑いながら散らばった資料を集めて何とかして元に戻したんだよ」

 キムがそう言って床に屈んでものを集めるふりをする。

「ところが翌日、改めて確認しようとしたら、何故か魔法陣の説明資料が余ってたんだよ」

「その落ちていたのは、途中までの数値が書かれたものだったもんだから、そもそも何の説明の資料なのかが判らない。しかも数えてみたら作った資料の枚数自体は合ってて、何故落ちてたのかがさっぱり分からなくて困ってたんだよ」

「ええ、じゃあそれがこれ?」

「だから、そのレイルズが見つけてくれた資料は間違って没にした分で、落ちていたのが正しい資料。要するに捨てるはずの資料が紛れ込んで、正しい資料の一部が余った状態になってた訳だ」

「あはは、見つかって良かったね。しかもこれは、うっかりすると見逃すくらい数値が似ているよ」

 笑ったレイルズの言葉に、また二人揃って顔を覆い今度は三人同時に吹き出して大笑いになったのだった。



 間違っていた資料に気付いて教えたニコスのシルフ達は、揃って大笑いしている三人を見て、得意気な顔でうんうんと頷いていたのだった。



「お疲れ様です。そろそろ一度休憩なさってはいかがですか」

 彼らの様子を見て、作業が一段落したと判断したラスティが、ノックの音とともにワゴンを押して部屋に入ってくる。

 カナエ草のお茶の良い香りと、甘酸っぱい香りが部屋の中に広がるのに気付いてレイが笑顔で振り返る。

「緑の跳ね馬亭から届きました、夏の季節限定のレモンの焼き菓子でございます」

 輪切りのレモンが何枚も重ねて乗せられた大きくて綺麗なケーキを見て、揃って歓声を上げる三人だった。

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