感心と賞賛
「待たせたな」
「戻ったら夕食だな」
ハン先生が戻ってからしばらくして、ようやく話を終えたらしいヴィゴとルークがそう言って振り返った。
座り込んで木剣を見ながら剣の形状の話をしていたレイとキルートも、その声に返事をして頷いて立ち上がった。
そのまま戻ろうと出口を振り返ったその時、バタバタと足音がして若竜三人組とマイリーとカウリが第二訓練所へ駆け込んで来た。その後ろにはティミーの姿もある。
「あれ? 皆揃ってどうしたんですか? 何かあったんですか?」
慌てたレイの言葉に、全員揃って大きなため息を吐く。
無言で第二訓練所に入ってきたマイリーが、ツカツカとヴィゴの前へ歩いてきて立ち止まった。
「で、どこだ?」
前置きも何も無しにそう聞かれたヴィゴは、にんまりと笑って白服を脱いだ。
そして左腕を上げて、少しだけ赤くなった脇腹を見せた。
全員の上げた驚く声が重なり、どよめくような声が第二訓練所に響いた。
「うわあ、すっげえ。本当に打ち込んだ痕がある」
「ルークと組んで一対二だったとしても、有り得ねえよ」
「うわあ、僕なんてまだ一度もヴィゴに打ち込んだ事無いのに〜〜!」
ヴィゴの脇腹を覗き込んだロベリオとユージンの呆れたような声に、顔を覆ったタドラの声が重なる。
「おお、これはすっげえ」
「ほお、確かに赤くなってるな。これは見事だ」
カウリとマイリーの感心したような呟きがその後に聞こえた。
「レイルズ様! 凄いです! 凄いです〜〜〜!」
最後にティミーが大きな声でそう叫びながらレイに飛びつく。
「あはは、そうなんだよ。偶然にしても出来過ぎなんだけどさ。何とか打ち込めたよ!」
笑って飛びついてくるティミーの小さな体を抱き止めたレイは、満面の笑みでそう言いながらティミーと一緒にくるくるとその場で回りながら声を上げて笑った。
「いや、偶然で出来る事じゃねえって。俺もまだヴィゴから一本取ってねえってのによお」
カウリの呆れた呟きに、若竜三人組が揃って大きく頷く。
「いやあ、これは末恐ろしいなあ」
笑ったルークの呟きに、カウリと若竜三人組が揃って何度も頷いていたのだった。
「それで、いったいどうやってヴィゴに一撃打ち込んだんだよ?」
目を輝かせるカウリの質問に、同じく目を輝かせたレイが、先ほどハン先生に説明した手合わせの一部始終を、もう一度実際に実演して見せて、また感心したような声を上げさせていたのだった。
「なあ、ちょっとレイルズと手合わせしてみたい」
目を輝かせるマイリーの言葉に、ヴィゴが呆れたように大きなため息を吐いた。
「もう今日はやめておけ。やるなら明日の朝練にしろ。俺は腹が減ったよ」
「確かに僕もお腹空きました〜〜!」
無邪気に手を挙げるレイを見て、同じく手合わせを希望しようとしていた若竜三人組が揃って吹き出す。
「確かにそうだな。だが、ユージンはやめておけ。万一にも顔にあざを作って結婚式に出るような事はあってはならんからなあ」
「うわあ、俺が負けるの前提で話しをされてる〜〜!」
笑いながらもそう叫んだユージンの言葉に、ロベリオとタドラが揃って遠慮なく吹き出し、全員揃って大笑いになったのだった。
ひとしきり笑い合った後、ひとまず兵舎の部屋に戻って湯を使って着替えてから食堂へ向かった。
若竜三人組は、ずっとレイの周りに座って交代で手合わせの時の話を聞きたがった。
マイリーとカウリも、素知らぬ顔で食事をしつつも彼らの話にしっかりと聞き耳を立てていたのだった。
「じゃあ、明日はまずは俺がレイルズと手合わせさせてもらうとしようか。カウリはどうする?」
カナエ草のお茶を飲みながら、マイリーにそう言われてカウリは肩を竦める。
「どうしますかねえ。俺、既に一度レイルズに負けてるしなあ」
苦笑いして、カウリは両手を合わせて前に突き出して搦め手の動きをして見せる。
「あれは見事に吹っ飛ばされてたもんなあ」
隣で笑うルークの言葉に、カウリも一緒になって何度も頷いていたのだった。
「カウリ、タドラに続いて、いきなりヴィゴから一本か。さて、明日の手合わせが楽しみだよ」
笑顔で若竜三人組と無邪気に笑い合うレイを見てにんまりと笑うマイリーの呟きを聞いて、揃って顔を見合わせて首を振り、見なかった振りをしたルークとカウリだった。
その後は本部の休憩室へ戻り、若竜三人組とティミーも一緒に陣取り盤を挟んで、賑やかに駒を取り合っては手を止めてティミーに解説を求めたりして過ごした。
集まって来ていたそれぞれの竜の使いのシルフ達も、それぞれの主と一緒になって楽しそうに笑っては、下げられた駒を勝手に倒したり転がしたりして遊びまわっていたのだった。
ブルーのシルフはずっとレイの肩に座って、何度もレイの頬にキスを贈っては、大はしゃぎする他のシルフ達を見て嬉しそうに笑っていたのだった。
『愛しい主の健やかな成長が、これほどまでに嬉しいものだとはな。うむ、レイがお父上のようになれる日も案外近いかもしれぬな』
笑って小さくそう呟くと、愛おしくてたまらないと言わんばかりに柔らかな頬に頬擦りして、また何度もキスを贈っていたのだった。




