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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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初めての一撃

「凄い凄い!」

 ようやく我に返ったレイがそう言いながら目を輝かせて何度も拍手をする。その隣では、同じく夢中になって見学していたルークも一緒になって手を叩いていた。

「お見事でした。いやあ、久々に見応えのある手合わせを見せて頂きましたよ。相変わらずキルートは凄い」

 ルークの言葉に、ようやく立ち上がったキルートは、照れたように苦笑いしながらまた汗を拭った。

「ところでヴィゴ。俺も手合わせをとお願いしたいところですけど、さすがに少し休憩しないと無理ですよね」

 ようやく息を整えて立ち上がったヴィゴを見て、ルークは苦笑いしつつ自分が持つ木剣をヴィゴに見せた。

「構わんぞ。これくらいで根をあげるほど華奢では無いからな」

 にんまりと笑って、木剣を手にして構える。

「うわあ、華奢だってさ。これほどヴィゴに似合わない言葉も無いんじゃないか?」

 呆れたように大袈裟にそう言って笑ったルークの言葉に、側で聞いていたキルートとレイが同時に吹き出す。遅れてヴィゴも吹き出し、四人揃って声を上げて笑い合った。

「よし、二人一緒に相手をしてやろう。レイルズはどうだ。やるか?」

「やります! お願いします!」

 振り返ったヴィゴにそう言われて、レイは目を輝かせて即座に返事をして木剣を手にした。

「俺が受けてやるから、お前は思いっきり攻めていけ」

 ルークに耳打ちされて、驚いて彼を見る。

「せめて一撃かましてこい!」

 背中を叩かれ、満面の笑みのレイが大きく頷く。

「では、私が審判をいたしましょう。今回はいつもの訓練の手合わせでよろしいですね?」

 それはつまり、いつもやっているように打ち合う事を目的とした手合わせの事だ。

「おう、それで良いぞ」

「お願いします!」

 笑ったヴィゴの返事に、ルークとレイの声が重なる。



「では、双方構えて」

 中央に立ったキルートの声に、木剣を手にしたルークが正眼に構えてヴィゴの正面に立つ。

 レイはルークと並んで一歩下がった位置で同じく木剣を正眼に構えた。

「よし、打ってこい!」

 ヴィゴの轟くような大声に、しかし二人は動かない。

「ならばこちらからいくぞ!」

 二人の作戦などお見通しのヴィゴだったが、敢えて正面から力一杯ルークに打ち込みに行く。甲高い音を立てて木剣同士がぶつかり合う。

「痛ってえ! この馬鹿力が!」

 まともに受けたルークが顔を歪めながらそう叫び、しかし力一杯重なった木剣を押し返す。

 その直後に、ルークの後ろからレイが一気に打ち込みに来た。

「甘い!」

 ヴィゴの叫びと共に剣が打ち払われる。いつもなら、このまま吹っ飛ばされるレイだったが、今日は違った。

 剣が合わさる瞬間、レイは撃ち込まれた方へ自ら剣を振って流したのだ。

 当然、受けると思って力一杯打ち込んだヴィゴの剣が空を切って泳ぐ。その瞬間、脇が開いた。

「今だ!」

 そう叫んだレイが、まるで先程のキルートのようにものすごい速さでヴィゴの懐へ飛び込んで行った。

 目の前で隙を見せたヴィゴに咄嗟に一撃入れようとしていたルークの目が、それを見て大きく見開かれる。



 パチーン!



 平なものがぶつかり合う時のような妙に間抜けな音がして、ヴィゴの懐に入ったレイの首にヴィゴの太い腕が絡まる。されまいとしてレイが下に逃げようと膝を折ってヴィゴの足を蹴ろうとする。それを見て、慌てたようにルークが打ち込みに行く。

「勝負あった! そこまで!」

 しかし突然のキルートの大声に、三人の動きが即座に止まる。

「……これはやられた。見事だったな」

 大きなため息と共にヴィゴがそう言ってレイを捕まえていた腕を緩める。

 そのまま膝から崩れ落ちたレイの腕に木剣は無く、彼が持っていた木剣は、何とヴィゴの左腕と脇の間に挟まれた状態で止まっていた。



「やった……ヴィゴに、ヴィゴに一撃入れたぞ〜〜〜!」

 一気に吹き出した汗を拭おうともせず、床に転がったままレイが天井に向かって両手を突き出して歓喜の雄叫びをあげた。



「うわあ、すっげえ。あいつ本当にヴィゴに一撃入れたぞ」

 呆れたような声でルークが呟き、苦笑いして木剣を二本持ったヴィゴを見上げる。

「一応お聞きしますが……大丈夫ですか?」

 これ以上無いくらいの笑みのルークにそう言われて、こちらも嬉しそうに笑っていたヴィゴが、今更ながらに目を見開いて脇腹を押さえて見せる。

「うむ、いかんいかん。これは重症だなあ。肋が折れたかもしれんなあ。痛くて堪らんから今日と明日の仕事は休ませてもらって、俺の仕事はルークとレイルズに全部やってもらうとしようか」

 わざとらしく脇腹を押さえて痛がるヴィゴの言葉に、見ていたキルートが遠慮なく吹き出して大笑いしている。

「ええ、そんな無茶言わないでください!」

 まだ床に転がったままだったレイが、その言葉に慌てたように床に手をついて起きあがろうとした。しかし、床に飛び散った汗にうっかり手を滑らせてしまい、起き上がりかけていた身体は前のめりになってまともにすっ転んだ。



 鈍い音がしてレイが額を押さえてまた床に転がる。



「ああ、これは自ら死にに行ったぞ」

 まるで自分の額が当たったかのように額を押さえたルークがそう言い、またキルートとヴィゴが揃って吹き出す。

「ルーク酷い!」

 床に転がって額を押さえたままレイもそう叫んで、全員揃って一緒になって大笑いしていたのだった。

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