本部へ戻ろう
翌朝、いつものようにシルフ達に起こしてもらったレイは、寝癖だらけの髪を起こしに来てくれたラスティとアルベルトに解いてもらい、ゆっくりと用意されていた食事を頂いてから本部へ戻った。
屋敷の者達が総出で見送ってくれ、レイは笑顔で順番にお礼を言って握手を交わし、またしても皆を大感激させていたのだった。
アルベルトはレイとラスティと護衛の者達の姿が完全に見えなくなるまでずっと黙って見送っていた。
「行ってしまわれた……」
一行の姿が見えなくなったところで小さくそう呟いたアルベルトは、密かにため息を一つ吐いて綺麗に整えられた庭を振り返った。
「次はいつお越しくださるのでしょうね。これほどお越しが待ち遠しくなるなど思ってもみませんでした。とてもとても充実した時間でございました……」
もう一度、レイが帰っていった方角に向き直り深々と一礼したアルベルトは、一つ深呼吸をしてから背筋を伸ばして屋敷へ戻って行ったのだった。
大切な主人が、いつ、どんな時にお戻りになられても快適に過ごせるように屋敷内を整えるのは彼の仕事なのだ。
まずは大掃除をする為に、下働きの者達に指示を行い始めた。
「ふう、何だか戻るのが寂しいや」
一の郭の豪華な建物を眺めながらのんびりとラプトルを歩ませていたレイだったが、楽しかった瑠璃の館でのあれこれを思い出して小さくそう呟いた。
『良かったな。お披露目会も、本読みの会も大成功だったではないか』
現れたブルーのシルフが笑いながらそう言ってレイの頬にキスを贈る。
「うん、本当に楽しかった。それに勉強にもなったね。ねえ、僕の肖像画を描くんだって。どんな風になるんだろうね。全然想像がつかないや」
照れ臭そうに笑いながらそう言ったレイは、誤魔化すように周囲を見回してまた笑う。
「駄目だよ。考えただけで笑っちゃうよ。描いてもらっている間中、僕はじっとしてなきゃいけないのかな?」
肖像画を描くと言われても、どんな風にするのかなんてさっぱり分からない。
ニコスのシルフ達が笑いながら自分を見つめているのに気付き、レイは目を輝かせる。
「もしかして、君達は知ってる?」
『もちろん』
『もちろん』
『知ってるよ』
当然だと言わんばかりに胸を張るニコスのシルフ達を見て、レイは納得したように頷く。
「そっか、オルベラートでも基本的には同じだね」
小さな呟きにうんうんと頷く彼女達を見て、レイは自分の今着ている竜騎士見習いの制服を引っ張った。
「じゃあこれを着て一枚目の肖像画を描くのかな?」
すると、ニコスのシルフ達は揃ってラプトルのゼクスの頭の上に並んで座った。
『間違いなくそうだろうね』
『一枚目はその制服を着ている主様を描いてもらい』
『それをまずはあの空いた場所に飾るね』
『そして来年の春』
『主様が正式に陛下から剣を賜って叙任を受けて竜騎士となられた暁には』
『竜騎士の制服を着た主様を二枚目の肖像画として描くだろうね』
『そしてそれをしばらくは飾ると思うよ』
『その次に描き直すのは主様が結婚なさった時だね』
『果たして隣に立つお相手はどなたかな?』
『どなたかな?』
『どなたかな?』
からかうようなニコスのシルフ達の言葉に、レイは唐突に真っ赤になる。
今のニコスのシルフ達は、声こそ聞かせてはいないが伝言のシルフのような白い影をラスティや護衛の者達にも見せている。なので、彼らはシルフと仲良く話すレイを見て黙って少しだけ離れていたのだ。
しかし唐突に真っ赤になって片手で顔を覆ったレイを見て、驚いたように顔を見合わせる。
「あの、レイルズ様いかがなさいましたか?」
ラスティがすぐ横にラプトルを寄せながら心配そうにそう尋ねる。
「えっと何でもありません!」
慌てたようにそう言って背筋を伸ばす彼を見て、ラスティは何となく会話の予想がついてしまった。
「もしや、三枚目の肖像画ですか?」
最初の肖像画がどうのと言う声が聞こえていたので、笑いを堪えてそう尋ねる。
「ええ、今の声ってもしかしてラスティ達にも聞こえていたの?」
焦るレイの声を聞いて、吹き出しそうになるのを必死で堪えたラスティは平然と首を振った。
「いえ、シルフの声は我々には聞こえてはおりません。ですがレイルズ様が肖像画の事を最初にお話になっておられましたので、恐らくそうでは無いかと予想いたしました」
「うう、ご明察恐れ入ります〜〜」
ゼクスの首に縋り付くみたいにして倒れ込んだレイは、情けなさそうな声でそう言ってそれから笑い出した。
「そうだよね。先の事なんて、それこそ精霊王しかご存知ないよね。どうなるかなんて、今ここで考えたって答えが出るわけないのに」
大きく深呼吸をして体を起こしたレイは、改めて座り直して鞍上で大きく伸びをした。
「ねえキルート、本部へ戻ったら訓練所で手合わせをお願いしてもいいかな。このところ柔軟体操と走り込みなんかの基礎運動ばっかりで、あんまり思いっきり身体を動かしてないから、何だか体がちょっと鈍っている気がするんだ」
肩を回しながらそう言われて、キルートは笑顔で大きく頷いた。
「もちろん、喜んでお相手を務めさせていただきます。そろそろ私からも一本取っていただきたいのですけれどね」
「そんな無茶言わないで! ルークから聞いたよ。キルートってヴィゴと対等に打ち合える貴重な人材なんだって! そんな人から一本取るなんて、絶対無理です〜〜!」
必死で顔を振るレイを見て、キルートは態とらしく残念そうなため息を吐いたのだった。
『頑張れ〜〜』
『頑張れ主様〜〜』
『応援してるからね〜〜』
笑ったニコスのシルフ達が、手を叩いて応援してくれる。
「あはは、そうだね。じゃあちょっと頑張ってみようかなあ」
苦笑いしたレイは、小さくため息を吐いて近づいてきたすっかり見慣れた竜騎士隊の本部の建物を見上げたのだった。




