本読みの会の開始
「ああ、レイルズ様、ほらお越しになりましたよ!」
朝練を終えて仲良く朝食を食べた二人は、出迎えの為に揃って玄関を出て待っているところだ。
ティミーは、道の向こうにアルス皇子を先頭にマイリーとルーク、それからカウリの乗ったラプトル達が、護衛の者達に囲まれて揃ってこっちへ向かってくるのに気づいて嬉しそうな声を上げた。
今のティミーはレイに抱っこされていて、彼と同じ高さの視線で周りを見ている。
いつもよりも遥かに高くて広い視野に大喜びだったティミーの様子を見て、レイは嬉しそうに笑って軽々と彼を片手で抱っこしている。
なので、ティミーが一番先に普段よりもかなり早く遠くからこちらに向かって来ている一向に気がついたのだ。
「ああ、本当だね。お越しになったみたいだね」
レイも嬉しそうにそう言って、ティミーと一緒に近づいてくる一行に向かって手を振った。
「おやおや、仲が良い事だ。しかしああやっていると、あの体格差はまるで親子みたいだな」
玄関の前に、ティミーを抱いたレイが立っているのに気付いたアルス皇子の呟きにルークが堪えきれずに吹き出す。
「ううん、親子ならレイルズが三歳の時の子か。すげえな」
その呟きに、アルス皇子達三人が揃って吹き出し、周囲にいた護衛の者達までが咄嗟に吹き出しそうになるのを必死になって堪えていた。
「だけど体格差だけを見れば、確かに親子と言えなくもないなあ」
呆れたようなカウリの言葉に、また皆が笑う。
「平均よりもかなり大柄なレイルズと、平均よりもかなり小柄なティミーが並ぶと、ああなるわけか」
感心したようなアルス皇子の呟きに皆も笑って頷く。
「ティミーは嬉しそうだ」
「そりゃああの高さから見れば、子供なら誰でも嬉しいんじゃね? 10セルテ変わるだけでも視界って全然変わるんだからさ」
ルークの呟きにカウリが自分の頭に手を当てながら笑ってそう言う。
「確かにそうだな」
マイリーも同意するように頷き肩を竦めた。
「ようこそお越しくださいました!」
到着した一同に元気な二人の声が重なる。
「やあ、またお邪魔させてもらうよ」
マイリーの言葉に、レイが満面の笑みで頷く。
「お待ちしてました。では中へどうぞ!」
今回は二度目の訪問なので屋敷内の案内は無く、そのまま応接室へ一同を案内する。
ひとまずソファーに座ってもらい、まずは暑い中をやって来た彼らのために用意されていた冷たいカナエ草のお茶を飲んだ。
「それで、昨夜はどうしていたんだい?」
一息ついたところでアルス皇子にそう聞かれ、レイとティミーは目を輝かせて深夜の枕戦争と庭に出て遊んだ事や、深夜のおやつの話をした。
大人達は皆笑顔で、目を輝かせて嬉々として昨夜の様子を話す彼らの話を聞いてくれた。
「なるほどなあ。光の精霊達がいれば、そんな事をしてくれたりもするんだ」
いつも、レイの部屋に星や月を見せてもらいに行っているカウリは、ティミーの目の前で光の精霊達が星座の形を描いて説明して見せてくれた話を聞いて、何度も感心して少し羨ましそうにしていた。
「こういう話を聞くと、自分に光の精霊魔法の適性が無いってのが悔しいよなあ」
カウリの悔しそうな言葉に、苦笑いしたマイリーも何度も頷いていたのだった。
「でもまあ、俺みたいに突然見えるようになる事だってあるんだからさ」
同じく苦笑いしたルークがそう言いながら、隣に座ったカウリの腕を叩いた。
「だな。じゃあ精霊王の気まぐれに期待しておく事にするか」
「そして期待して待ってると絶対来ないんだよ」
笑ってまぜっかえしたルークの言葉に、カウリはレイみたいな悲鳴を上げて横にあったクッションに突っ伏したのだった。
その後は全員揃って書斎へ移動して、今回の本来の目的である本読みの会の開始となった。
レイは光の精霊魔法に関する古い本をニコスのシルフ達が見つけてくれたのでそれを読み始め、ティミーは昨日読みかけていた分厚い経済学に関する論文がたくさん載った本を抱えるようにしてソファーに座って読み始めた。
アルス皇子は一通り本棚を順番に見て周り、執事と顔を寄せて何か話をしてからヴィッセラート伯爵夫人が持って来てくれた古い精霊魔法に関する本を取り出して読み始めた。
マイリーも同じように一通りの本棚を順番に見て周り、こちらは一人で納得したように何度も頷いてから、政治経済学に関する本を取り出して、移動階段に座ったままその場で読み始めた。
ルークとカウリも、同じように一通りの本棚を端から順に見て周り、ルークは精霊魔法の失敗談が載った本を、カウリはマイリーと同じく政治経済学に関する本を取り出し、それぞれソファーに座って真剣な表情で読み始めた。
それぞれが、それぞれ手にした本の世界に没頭していき、時折ページをめくる微かな音と、軽い咳払いの音、
それからレイとティミーがノートを取り始めたペンの音だけが静かな書斎に聞こえていたのだった。
それぞれの竜の使いのシルフ達は自分の大切な主の側に寄り添って、真剣な様子で本を読む愛しい主の頬にキスを贈ったり、一緒になって本を読んだりしていたのだった。




