おやすみなさい
「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです!」
用意されたお菓子を綺麗にかけらも残さずに平らげたレイの言葉に、隣に座ったティミーも笑顔で何度も頷いている。
彼のお皿の上も、レイと同じく用意された小さなお菓子は全て平らげられていて綺麗さっぱり無くなっている。
「何故だか、普段よりも美味しく感じた気がするんですけど、気のせいですよね?」
食器を下げてくれるマーカスに、ティミーが小さな声でそう話しかける。
「ティミー様、いつもと違う特別な場所と時間に食べたおやつだったから、きっといつも以上に美味しく感じたのですよ。残さず食べてくださって、私も嬉しゅうございます」
今まで、彼の事をぼっちゃまと呼んでいたマーカスだったが、竜騎士隊の本部へ来てからは、彼の事を名前で呼ぶようになった。
通常、幼い頃からずっとそばで面倒を見てきた執事は、成人まではその主人の事をそのまま坊っちゃまと呼ぶのが普通なので、ティミーは彼に名前で呼ばれる度に、最初の頃は少し寂しそうにしつつも胸を張って元気に返事をしていた。
「そうだね。こんな時間にこんなところで食べるなんて、僕初めて」
目を輝かせるティミーにマーカスも嬉しそうに何度も頷いていたのだった。
「よかったね。しっかり食べたから、これでぐっすり眠れるんじゃない?」
「そうですね。もう戻りますか?」
「そうだね。もうそろそろ眠くなってきてるんじゃないかと思うんだけど、どう?」
笑ったレイの言葉に、ティミーは照れ臭そうに笑って小さく頷いた。
「実を言うと先ほどからちょっと眠くて、時々意識が飛びそうになってるんです」
「だと思った。何度かあくびを噛み殺していたでしょう?」
笑って頷くティミーを見て、レイも笑って立ち上がった。
「じゃあ今夜の冒険はここまでだね」
「はい、とっても楽しかったです!」
笑顔で手を叩き合った二人は光の精霊達を戻してからラスティ達と一緒に部屋へ戻った。
戻る時は、さすがに窓から戻るのはやめてくださいと、真顔のラスティとマーカスに言われてしまい、大人しく階段を上がって部屋に戻った二人だった。
「じゃあもう休もうか。明日は皆来てくれるしね」
「そうですね。すっごく楽しみです」
実は、竜騎士達全員が同時に集まるのはかなり無理をして予定を調整しているのだが、レイの初めての本読みの会でもあり、また今回はようやく大人組にも馴染み始めたティミーを気遣っての開催なのだ。
「休む前にもう一度湯を使わないと、埃だらけになっちゃったね」
ティミーの背中についた枯れ草を払ってやりながら笑ったレイがそう言い、ひとまずそれぞれの部屋に戻って改めて湯を使った。
新しい寝巻きに着替えたティミーがレイの部屋に駆け込んで来て、仲良く二人並んでベッドへ飛び込む。
そのまま二人同時に置いてくれてあった枕を掴んで振り回した。
「ちょっとだけだもん!」
これも二人同時にそう叫び、相手を思いっきり横殴りに殴り飛ばす。
「うわあ、やられた〜〜!」
完全に棒読みのレイの叫びに大喜びでティミーが笑い、もう一度声を上げて笑いながら殴りっこしたところでようやく枕戦争の終結を見たのだった。
「はあ疲れた……」
「僕も疲れました……」
並んで天井を見上げたままのレイの呟きに、隣に転がったティミーも笑いながらそう呟く。
「ふああ、じゃあおやすみ……」
大きな欠伸とともにレイがそう言い、もう一度大きな欠伸をしてから枕に抱きついてうつ伏せになって目を閉じる。
「はい、おやすみなさい……」
レイにくっつくようにして枕を抱えたままうつ伏せになって目を閉じたティミーも、小さな声でそう言って大きな欠伸をする。
そのまますぐに、二人揃って気持ちの良さそうな寝息を立て始めた。
『おやおや。二人揃ってかなりお疲れだったようだな』
笑ったブルーの使いのシルフが、そっとレイの肩を押して仰向けにしてやる。
隣では同じようにターコイズの使いのシルフがティミーを仰向けにしてやっていた。
それから、何も羽織らずに眠ってしまった二人のお腹に、用意されていた夏用の毛布をそっと掛けてやったのだった。
『おやすみ。良き夢を』
『おやすみティミー』
ブルーとターコイズの使いのシルフ達が、愛おしげにそう言って眠る主の滑らかな頬にそっとキスを贈る。
軽く手を叩いていとも簡単に部屋に結界を張ったブルーのシルフは、レイの枕元に座ると静かに癒しの歌を歌い始めた。ターコイズの使いのシルフもその隣に並んで一緒に歌い始める。
集まって来た他のシルフ達は、優しいブルーとターコイズの歌う癒しの歌に目を閉じて聴き入っていたのだった。




