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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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勝負あった!

「ねえ、もしかしてマシュー達もティミーが陣取り盤に強いんだって知らない?」

 こっそりティミーの耳元へシルフを飛ばして尋ねると、ちらっとこっちを振り返ったティミーは小さく笑って頷いた。

 少年達は、目を輝かせてティミーのする事を見ている。



「ねえ、ライナーやハーネインは? 陣取り盤って知ってる?」

 小さく笑ったレイは、横を見てライナーに話しかけた。

「はい、父上から十歳の時の降誕祭の贈り物で、陣取り盤と攻略本を何冊か頂きました。それでハーネインと一緒に頑張って駒の動かし方を覚えました。いつもは家庭教師の先生や、執事が相手をしてくれます。ちょっとは手合わせも出来る様になって来たので、今度、お休みの日に父上が相手をしてくださる約束をしてくれたんで、ハーネインと一緒に大喜びしたんです。それで今まさに頑張って戦略について勉強中です」

「へえ、そうなんだ。えっと、ゲルハルト公爵閣下もお強いのかな?」

 ちょっと考えてそう口にすると、駒を並べ終えたアルジェント卿が笑顔でこっちを見た。

「ゲルハルト公爵も戦略室の会の会員だよ。彼は正統派の強者の代表だな。じっくりと正面から攻め堂々と突破してくる。マイリーやルークの打ち方とは全く違うぞ」

「うわあ、そうなんですね。それはぜひ一度手合わせ願いたいです!」

 目を輝かせるレイの言葉に、アルジェント卿も笑顔で頷く。

「其方なら喜んで相手してくれるだろうさ。今度会ったら頼んでみなさい。後程一手手合わせして其方の実力を見せてもらうので、私が良しと判断したら口添えしてやるぞ」

 にんまりと笑ったアルジェント卿の言葉に、レイは顔を覆って悲鳴を上げた。

「ええ、そんな無茶言わないでください。僕、いつもタドラと組んでロベリオとユージンの連合軍と戦ってるんですけど、まだあの二人に勝てた事が無いです」

「おやおや、だが其方は此処へ来てから陣取り盤を覚えたのだろうから、それを考えれば充分に健闘しておるさ。ルーク達も褒めていたぞ、まだ攻め方に正直すぎる部分はあるが、なかなか見どころがあるとな」

「ええ、そうなんですか? 僕なんてまだまだなんですけど、でもちょっと嬉しいです」

 きっとそれは社交辞令の言葉なのだろう。それくらいは今のレイでも分かるようになった。それでも、褒めてくれたと言われたらやっぱり嬉しい。

 嬉しそうに笑うレイを見てマシューとフィリスも笑顔で手を挙げる。

「はい、僕達も今勉強中です!」

「勉強してま〜す!」

 無邪気なその言葉にアルジェント卿も笑顔で頷く。

「貴族の子供、特に男の子はだいたい十歳くらいから本格的に陣取り盤の勉強を始めるな。まあ、全くやらないものもいるが、特に軍人の家系では必ずやらされると言っていいだろう。理由は分かるな? その名の通り陣取り盤は、陣取り、つまりは戦いの戦略をそのまま遊びとして考えられたものだからな」

「確かにそうですね。攻め方や守り方は用兵と兵法の授業で習った事と重なる部分も多いですね」

 レイの言葉に笑って頷き、アルジェント卿は準備が出来たティミーに向き直った。

「では、女王を落としてやろう。それから三手先に打たせてやるから先に打ちなさい」

 予想通りの言葉に、レイは笑いそうになるのを必死で我慢していた。



 アルジェント卿の肩にはいつの間にかカーマインの使いのシルフが座っていて、困ったようにこっちを見ている。どうやら彼女はティミーの腕前を知っているらしいが、同じくレイの肩に座ったブルーのシルフが笑って口元に指を立てたのを見て小さく笑って頷き、そのまま黙ってアルジェント卿の手元を見つめていた。



「ほう、そう来るか。ならばこっちから……」

 最初のうちは決まった攻め方だったのに、中盤以降になると始まった意外に大胆なティミーの攻め方に、アルジェント卿は驚きつつもしっかりと相手をしてくれている。しかし、次第に追い詰められて馬車を取られた途端に呻くような声を上げた。

「おいおい、ちょっと待て。一体これはどういう事だ。まさかターコイズよ、これは其方が手伝っておるのか?」

 ティミーの肩に座ってのんびりと観戦していたターコイズの使いのシルフは、アルジェント卿の言葉に顔を上げて鼻を鳴らした。

『まさかそのような事はせぬさ』

『これは紛う事なき我が主殿の実力だよ』

 得意気なその言葉にアルジェント卿がもう一度呻くような声を上げる。

 そこから一気に攻められ、次第にアルジェント卿の陣の守りが崩壊していくのを、子供達とレイは身を乗り出すみたいにして無言で見つめていた。




「これは驚いた。マイリー並みの容赦のない攻めっぷりだな。我が敗因は、相手を見くびり実力を見誤った事。これに尽きるな。ふむ、これは勉強になったわい」

 まだ頑張ればかなり持ち堪え消耗戦に持ち込む事も出来るだろうが、苦笑いしたアルジェント卿は小さな声でそう呟くとそっと僧侶の駒を進めた。これで、王の守りに穴が空き、この僧侶を取られた時点で王手となり、詰み、つまりアルジェント卿の負けで終了となるのだ。

 これはつまり、相手の実力を認め潔く自分の負けを認めた際の打ち方となる。

「勝負あったな」

「ありがとうございます!」

 苦笑いするアルジェント卿の言葉に目を輝かせたティミーがそう言って遠慮なく僧侶を取り、これで勝負は終了となった。




「すごいすごい! お爺様が負けるところを初めて見ました!」

「ええ、ティミーすごい!」

 少女達とパスカルは無邪気にそんな事を言いながら手を叩いてティミーの勝利を喜んでいるが、今の勝負の意味の分かる少年達は、揃ってポカンと口を開けたまま驚きに声も無い。

 そんな孫達とライナー達を見たアルジェント卿は大きなため息を一つ吐いてから、改めてティミーに向き直った。

「ティミー、私が入っている陣取り盤の倶楽部で、戦略室の会というのがあるのだが、どうだ。見習い期間中は体験扱いになるだろうが、其方にやる気があるのなら紹介してやるぞ、これは我が倶楽部としても絶対に確保したい人材だからな」

 アルジェント卿のその言葉に、ティミーが目を輝かせて大きく頷く。

「ありがとうございます! 是非お願いします!」

「良かったね、ティミー。マイリーに続いて二人目の紹介者だよ」

「何だと。ティミー、其方マイリーとも打ち合ったのか?」

 思わず横からそう言ったレイの言葉に、驚いたアルジェント卿は目を見開いてティミーにそう尋ねた。

「ティミーは、結果的に負けはしたけどマイリーと互角に打ち合い、ルークとは引き分けたんです。それでマイリーが戦略室の会に本気で勧誘していました〜」

 嬉しそうなレイの言葉に頷くティミーを見て、子供達だけでなくアルジェント卿までが揃って驚きの叫びを上げたのだった。

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