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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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いざ勝負!

「ではそれで始めるとするか。さて、皆しっかりやるのだぞ」

 レイの提案に頷いて笑ったアルジェント卿の言葉に、少年達とレイの返事が重なる。

 返事をして小さく深呼吸をしたレイは目の前の自分の左手を見て、また吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。



 実は先ほどからレイの左手は、もう大変な状態になっている。



 彼は何も考えずに、普通に腕相撲をする時のように机に肘を立てて左手を机に乗せたのだが、レイよりも遥かに小さな手を持つ少年達は、何とレイの指をそれぞれ一本ずつ右手で握っているのだ。

 小指を手の一番小さなパスカルが握り、薬指をフィリスが、中指をハーネインがそれぞれ真剣な顔で力一杯掴んでいる。そして人差し指をマシューが握り、親指を丸ごとティミーが手首のあたりまでこれまたしっかりと握りしめている。

 最後に、子供達の中では一番手の大きなマシューがレイの掌部分を手の甲側から手首にかけて全体に右手で掴んで、こちらも力一杯握りしめているのだ。

「レイルズ様。お願いですから指を出来るだけ広げてやってくださいね」

 にこやかなティミーのお願いを聞いて、少年達の予想外の作戦を見て笑っていたレイは大きく頷いた。

「了解、じゃあこうだね」

 そう言って、思いっきり指を広げて指も真っ直ぐに伸ばしてやる。

 これでかなり窮屈だった子供達の手も、ちょっと余裕を持ってレイの指を握る事が出来るようになっった。

「ありがとうございます!」

 嬉しそうに声を揃えてお礼を言う少年達の様子に、また少し離れたところで見学しているイデア夫人と少女達がコロコロと可愛らしい声を上げて笑っていた。



「よしよし、では始めるぞ。皆構えて」

 机の横に立ったアルジェント卿がレイの開いた手をそっと押さえてそう宣言する。

 少年達は全員がもうこれ以上無いくらいに真剣な顔をしている。

「準備は良いな。では私が数を数えるぞ。はじめ!」

 レイの手を押さえていた手を挙げた瞬間に大きく手を打ち鳴らしたアルジェント卿は、即座に大きな声で数を数え始めた。



「いち、にい……」

 わざとゆっくりと、アルジェント卿が一定の間隔で数を読み上げていく。



 少年達は全員が一斉に体を前のめりにして全身の力を込めてレイの腕を倒そうとする。

 しかし、右手で机をしっかりと掴んで左腕を立てたレイは、笑顔のままでピクリとも動かない。

「ええ、何だよこの腕。張り付いたみたいに全然動かないよ!」

 手の甲を必死になって押そうとしているライナーの叫びに、他の子達も揃って顔をしかめながら頷く。

「ええ、どうなってるんだよ」

 ライナーに続きハーネインも顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ。

「おい、合図で一斉に倒すぞ! せ〜の〜で!」

 ライナーの合図に合わせて、声を上げた少年達がさらに力を込める。

 もう全員の顔は真っ赤になっている。

「あれあれ、こんなの全然だよ〜〜ちゃんと力入れてるのかな?」

 少年達の猛攻にも、レイはどこ吹く風で知らん顔だ。



「じゅう……」

 ゆっくりだが確実に進む数字に子供達が焦っていると、一人のシルフが現れて子供達の周りを飛び回った。



『ティミー手伝うぞ!』

 優しい声がして、その飛んでいたシルフがティミーが握っている手の上に降り立った。

「ゲイル! 来てくれたんだね。うん、よろしく!」

 そのシルフが誰なのかすぐに気付いたティミーが目を輝かせる。

『ラピス』

『其方はいかがする?』

 やや煽るように笑ったターコイズの使いのシルフが、ブルーのシルフを見てそう言って笑う。

『良いのか? 我が手出しをしたらその瞬間に勝負はつくぞ』

『レイ、どうしたら良いと思う?』

 ブルーのシルフが、おかしそうに笑いながら答えの分かりきった質問をする。

「そんなの絶対駄目だよ。ブルーはそこで大人しく見ていてください!」

 予想通りの主の答えに、ブルーのシルフは笑って頷いた。

『さすがは我が主殿だ。ならば我は手は出さぬ。ここで応援させてもらうとしよう』



 そして、その声が聞こえていた少年たちが一斉に目を輝かせる。

「レイルズ様。今のって、今のってラピス様とターコイズ様ですか!」

「そうだよ。って! ああちょっと待って!」

 ライナーの嬉しそうな質問に笑顔で答えた時、いきなりものすごい数のシルフ達が現れてライナーの手ごとレイの手を押しにかかったのだ。

「ほらみんな! シルフ達が増援に来てくれたよ!」

 目を輝かせたティミーの声に、歓声を上げた子供達がさらに勢いづく。

 今、シルフ達は伝言のシルフの時のように、白い影のような姿を子供達にも見せているので、本当に増援に来てくれた事が分かったのだ。



「じゅうろく、じゅうしち」



「ああ、もうちょっとで動きそうなのに〜〜!」

 段々とレイの腕が震え始めている事に気付いたティミーがそう叫んで必死になって指を引っ張る。

「痛い痛い! 分かったよ。もう降参します!」

 笑ったレイがそう叫んで一気に腕が倒れる。

 勢い余って転がりそうになったパスカルとハーネインを、即座に集まってきたシルフ達が支えてくれる。



「勝負あった! 勝者、子供達!」

 アルジェント卿の宣言と同時に、部屋は笑いに包まれたのだった。

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