庭での朝食準備とカナエ草のお茶
「ううん。今日も良いお天気みたいだね」
身支度を整えたあとアルベルトの案内で三人一緒に庭に出て、よく晴れた空を見上げたレイは笑顔で嬉しそうにそう呟く。
池のほとりには、真っ白の大きなテントと、花が飾られた大きな机が並べられている。それを見て三人は顔を見合わせた。
てっきり、また好きに取って食べる形式なのだと思っていたが、別のテントで忙しく働いている人達が見えるだけで、料理は何処にも見えない。
これはつまり、気軽な朝食とは聞いていたが、一つずつ調理されたものが運ばれてくる形なのだろう。
「うああ、またこれか〜〜!」
「また料理の味がしないぞ〜〜!」
顔を覆って座り込む二人を見て、レイは堪えきれずに吹き出したのだった。
「ほら立って。こんなの大した事無いって。大丈夫だよ。分からない事があれば教えてあげるからね」
「よろしくお願いします〜〜!」
左右から半分冗談、半分本気で泣いている二人に縋りつかれて、またしても吹き出してしまって二人から盛大に文句を言われたレイだった。
「改めておはようだな。おお、綺麗じゃないか」
笑った声とともに、身支度を整えたリンザス達も次々に庭に出てくる。
「改めておはようだね。じゃあ座ってよ」
全員揃ったのを見て、笑顔のレイが机を示す。
「レイルズ様。せっかくですからこちらをお使いください。席順を決めるくじ引きでございます」
アルベルトの言葉に驚いて振り返って見ると、彼は何本もの棒の入ったコップを差し出している。そして机の上を見ると、それぞれの席の前には数字を書いた小さなプレートが立てられているのに気がついた。
「あ、つまりこれを皆に順番に引いてもらって、出た数字の場所に座って貰えば良いんだね」
目を輝かせるレイに、アルベルトが笑顔で頷く。
「分かった、じゃあ皆で一斉に引けば良いのかな?」
嬉しそうなレイの言葉にマークとキムも揃って頷き、彼の後を追いかけてリンザス達のすぐ側へ行った。
「では、席順を決めるくじを引いてくださ〜い!」
嬉々としたレイの言葉に、皆笑ってそれぞれ一本ずつ引き抜く。マークとキムも、残った三本をクッキーと同時に掴んで引いた。
「あれ、僕の分が無いよ?」
自分も引く気満々だったレイが、空っぽになったコップを見て寂しそうにそう呟く。
「いや、お前は招待主なんだから、席は決まってるだろうが」
笑ったジョシュアの言葉に口を尖らせつつも納得して頷くレイを見て、皆苦笑いしていたのだった。
「ああ、レイルズが遠い〜〜!」
マークは、一番奥側の端の席だった為に、レイとはかなり離れてしまった。キムも、マークほどではないがかなり離れた位置になってしまい揃って困ったように顔を見合わせる。
「大丈夫だって。俺達がちゃんと教えてやるから心配するなって」
「そうだぞ。大事な事なんだから、早く覚えような」
にんまりと笑ったチャペリーとジョシュアの言葉に、マークとキムは顔を覆って情けない悲鳴をあげるのだった。
「おやおや、まだあの二人にはちょっと難しかったかな?」
レイの右隣に座ったリンザスの言葉に、反対側の左隣に座ったクッキーも笑って頷いている。
「まあ、周りの皆は教える気満々みたいだから、ここは任せておいても良いんじゃないか?」
「だな、ううん、近くに行けなくて残念だよ」
クッキーの隣に座ったフォルカーの呟きに、揃って小さく笑い合っていたのだった。
「ええと、ではささやかですが朝食を用意しましたので、どうぞごゆっくり召し上がってください。まあ作法は程々でね」
レイの挨拶の言葉にあちこちから笑いと拍手が起こる。朝食の席なのでさすがにお酒は無く、濃く淹れたカナエ草のお茶が全員に用意される。
もちろん他にも冷たいジュースや紅茶も用意されている。
「これ、噂には聞くけど、本当にそんなに不味いのか?」
まだ竜の面会に参加していないのはリッティロッドとフレディ、それからロルフとフォルカーだ。
興味津々のリッティロッドの質問に、レイがオルダムに来る前に竜との面会を済ませているジョシュアとチャッペリーが揃って思いっきり顔を顰めて口を開いて喉を押さえて見せる。
それを見て、レイとマークとキムの三人が吹き出す。
リンザスとヘルツァーは竜との面会に参加した時にはもうはちみつ入りのカナエ草のお茶だったために、そのまま何も考えずに素直に飲んでいる。
その時は、すでにかなり甘めに蜂蜜が入れられていたので、二人ともそれほど気にせずに飲むことが出来たのだった。
クッキーは貴族では無いのでそもそも竜との面会には参加していない。しかし、カナエ草のお茶の不味さはあちこちで聞いていたのでこちらも興味津々だ。
「まあ、興味があるなら止めないから少しだけ飲んでみればいい」
笑ったキムの言葉に、リンザスとヘルツァーが顔を見合わせ頷き合う。
それを見て、まだ飲んだ事が無い者達も興味津々でカナエ草のお茶が入ったカップを手にした。
「言っておくけど、一口だけにしろよ。口一杯に含むんじゃないぞ」
真顔のマークの言葉にあちこちから笑いが起こり、掛け声と同時にカナエ草のお茶を口にした。
即座に横を向いて地面に全部噴き出したのは、リッティロッドとフレディ、それからロルフとフォルカーの四人。クッキーとリンザスとヘルツァーは、奇妙な呻き声を上げて口を両手で押さえて立ち上がり、席から離れた場所まで走って行ってそのまま全部地面に吐き出した。
あまりの苦味に口を押さえて悶絶する七人を見て、レイ達が揃って吹き出す。
「ほら、痺れを取る方法を教えてやるよ。これを口に入れるんだよ」
複数用意された蜂蜜の瓶をスプーンと一緒に渡してやり、受け取ったは良いが慌てすぎて蜂蜜の蓋が開けられないのを見て、レイ達は笑いながら手伝ってやったのだった。
『カナエ草の苦さと不味さは有名なのに、わざわざ自分の体で体験するとは、皆物好きなのだな』
その様子を見ていて呆れたように呟くブルーのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達も笑いながら揃って何度も頷いていたのだった。




