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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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朝の大騒ぎ

「ううん……暑い……シルフ、風をくれよ……」

 誰かの小さな呟きに、少し前に執事が来て開けてくれていた窓から優しい風が部屋の中に吹き込んでくる。

 しかし、大柄な若者達がくっつきあって折り重なるみたいにしてぎゅうぎゅう詰めで寝ているベッドの上では、吹いてきた風の恩恵を受けたのは、一番上をちゃっかり確保していたロルフとフォルカーの二人だけだった。

 ほぼ三段重ね状態の一番下で下敷きになっているレイルズとリンザスの二人は、実を言うと先ほどから目を覚ましているのだが、全く身動きが取れずにいた。



「お〜も〜い〜で〜す〜〜〜!」



 なんとか自由になる腕で、自分の体の上に完全に乗っかって熟睡しているジョシュアの頭をレイが叩く。

「ううん……」

 しかし、ジョシュアは嫌がるように首を振って手を払うと、またそのまま眠ってしまった。

「はあ、これどうしよう。ねえリンザス、もう起きてる?」

「起きてるよ。だけど俺も全然身動き出来なくて、どうしようか考えてるところだ」

 さすがは最前線の砦に勤める現役の軍人。寝起きの割にしっかりとした声でそう応えられてレイは笑って深呼吸をした。

「じゃあさ、一緒に下からまとめて蹴り上げてやろうよ。きっと皆起きるよ」

 目を輝かせて物騒な提案をするレイの言葉に、リンザスが吹き出す。

「おう、そりゃあ良いな。じゃあやるか!」

 目を輝かせたリンザスがそう応えて、自由になっていた腕も体の下に入れて構える。

「いくぞ! せ〜の〜でっ〜!」

 顔を見合わせた二人は、呼吸を合わせて下から全員の体を両手と両足を使って持ち上げて力一杯蹴飛ばしたのだ。

 これはある意味、大柄で力も強いレイとリンザスだからこそ出来た悪戯だ。



「うわあ〜〜〜!」



 何人かの悲鳴が同時に部屋に響き渡り、何事かと血相を変えた執事達が部屋に飛び込んでくる。

 部屋に飛び込んできた彼らが見たのは、文字通りベッドから弾き飛ばされて、何が起こったのかも分からないままに雪崩のように次々に床に転がり落ちる若者達と、大喜びで手を叩いて揃って吹き出したレイとリンザスの二人の姿だった。




「いくらなんでも、寝ている俺達をベッドからいきなり突き落とすなんて酷すぎるぞ〜!」

「そうだそうだ! びっくりしたじゃないか〜〜」

 床に座り込んで、ようやく事態を理解したチャッペリーとヘルツァーが起き上がって抗議する。しかしその顔はどこから見ても笑っていて、全く抗議の意味は無くなっていたのだった。

 執事達に助け起こされた他の者達も、起き上がるなり笑い出して同じように抗議していたが、こちらも全員が笑いながらだったので、全く文句になっていない。

 しかも、レイとリンザスの二人は、それどころではない事態に陥っていた。

「うああ、足と体が痺れて来た〜〜!」

「僕もだよ。さっきからジンジンしてる〜〜〜!」

 かなりの重さで押さえつけられていた腕や足、そして身体は解放されたおかげで一気に血流が戻り、二人にひどい痺れをもたらしていたのだった。



 ベッドに転がった二人の言葉に、床に座り込んでいた全員の目が輝く。

「駄目だからね! 今僕を突くと、僕は泣くよ!」

「来るなよ! 絶対こっちに来るなよ! 俺に触ったら俺も泣くぞ!」

 ベッドに転がったままで慌てふためく彼らを見て、全員が満面の笑みで立ち上がった

 そして、ヘルツァーがリンザスの足を勢いよく突っついた。

 リンザスの悲鳴と誰かが吹き出す音。

 そして、直後に全員が歓声を上げて次々にベッドに横たわる二人目掛けて飛び込んでいった。



「やめて〜〜〜〜!」

「うわあ〜〜〜!」



 レイとリンザスの情けない悲鳴と、また誰かの吹き出す音が聞こえて、それから部屋は大爆笑になったのだった。




「もう、本当に死ぬかと思ったんだからね!」

 大騒ぎの後、ようやく痺れの取れたレイは、ひとまず身支度を整える為にそれぞれの部屋に戻ったリンザス達を見送り、マークとキムと一緒に洗面所へ駆け込んだのだが、満面の笑顔でさっきからずっと同じ文句を言い続けている。

 マークとキムの二人も、その隣で顔を洗いながらずっと笑っていた。

 相変わらずの鳥の巣みたいな酷い寝癖をラスティと執事達に手伝ってもらってなんとか元に戻し、いつものように三つ編みには綺麗な青い色紐を巻いてもらう。

「朝食は庭にご用意致しました。ご準備が出来ましたら庭へどうぞ」

 洗面所から出て来て身支度を整え、剣帯を受け取って身につける。

 その時にラスティからそう教えられて、レイは笑顔になる。

「今日も良いお天気みたいだし、庭を見ながら朝食を食べるなんて贅沢だね」

 嬉しそうなレイの言葉に、ラスティも笑顔になるのだった。

「朝から優雅に庭で朝食なんだってさ」

「なんだか貴族になった気分だな」

 隣で同じようにそれぞれ身支度を整えていたマークとキムの二人も、ラスティの言葉に嬉しそうにそう言って笑い合った。



 いつかは自分達でお茶会を。



 冗談半分でレイと約束したことだが、どうやらこの調子だといずれは本当の事になりそうで、密かに焦っているマークとキムだった。

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